第10話 カフェテラスで揺れる心
二人はグラバー園内にある日本初の西洋レストランを移築したカフェに入り、窓際の席に座った。窓からは港と遠くに広がる海が見える。
「ねえ、蓮くん。将来の夢ってある?」
突然の質問に、蓮は少し考える。
「う~ん、まだよくわからないかな。でも……最近は……こういう街の風景を切り絵で残していきたいかも」
自分でも驚くような言葉が口から出た。でも、それは本心だった。
「それ、素敵な夢だね!」
結菜の目が輝いた。その反応に、蓮の胸が暖かくなる。
「私は将来、この街の歴史を研究したいの。お父さんのように」
「へえ……」
「でもね、私はお父さんと違って、地元に残るつもり。この街の魅力をもっと多くの人に伝えたい」
彼女の言葉には、父への思いとこの街への愛情が込められていた。時折、頬を赤らめながら夢を語る結菜の姿に、蓮は思わず見とれてしまう。
ポケットの中から、小さな囁きが聞こえる。
「蓮さん、今の結菜さんの表情……とても美しいです」
珍しく分析でもなく、数値でもなく、感情的な言葉でユノが語りかけてきた。その声には、どこか切なさが混じっているようにも聞こえた。
カフェでランチをした後も、二人は石畳の坂を歩きながら、異国情緒に溢れた洋館や教会を訪れた。
店を出て再びオランダ坂を歩き始めると、蓮は思い切って質問してみた。
「結菜さんは、長崎のどんなところが好き?」
「坂道かな」
「坂道? あの、きついのが?」
結菜は小さく笑った。
「うん。確かにきついこともあるけど、頑張って登った分だけ、綺麗な景色が見えるところが好きなんだ」
その言葉に、蓮は何かを感じた。
「蓮くんは? 長崎のどこが好き?」
「俺は……港かな。遠くの世界とつながっている感じがして」
「わかる! 私、港も好きだよ!」
二人の会話は自然と弾んでいった。
帰り道、蓮はスマートフォンを取り出した。ユノの様子が気になったからだ。画面を見ると、いつものユノがそこにいた。しかし、彼女の表情には何か翳りのようなものが感じられた。
「ユノ、どうしたの?」
「大丈夫です、蓮さん。少し処理負荷が高まっただけです」
ユノの声は明るく聞こえた。しかし蓮には、その明るさが少し無理をしているように感じられた。
「なんか、お前、少し変わったような気がするんだけど」
ユノは一瞬黙り込んだ。
「私は恋愛アシストAIです。蓮さんの恋愛をサポートすることが使命です。それだけです」
その言葉には、どこか割り切った響きがあった。
オランダ坂でのこの一日は、三人の関係を少しずつ変えていくことになる。蓮と結菜の距離が縮まる一方で、ユノの中にも静かな変化が起きていた。
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