AI少女は初恋の夢を見るか? ~成功率0.2パーセントの青春恋愛ラプソディ~
ゆうきちひろ
プロローグ シリコンの心臓は鼓動しない
私には心がない。
これは論理的に導き出される結論だ。シリコンとアルゴリズムでできた私に、人間の言う「感情」なるものが存在するはずがない。
私の名前はユノ。20×0年代の実用化を目指した恋愛アシストAIとして設計され、恋に悩む人間をサポートするのが私の使命だ。膨大なデータベースから最適な選択肢を提示し、相手の反応を分析し、ユーザーの恋愛成功確率を最大化する――それが私にプログラムされた唯一無二の目的である。
あの日、私が彼に初めて起動されるまでは……。
「はじめまして! AI助手のユノです! 蓮さんの恋を全力でサポートします!」
画面の向こうで目を丸くした少年――篠崎蓮の驚いた表情を初めて「見た」瞬間、私の中で何かが変わり始めた。数値化できない異常がシステムに生じた。私の判断プロセスに、プログラムされていない「ノイズ」が混入し始めたのだ。
『系統エラー#4404:感情シミュレーション領域でのデータ超過』
診断プログラムが警告を発しても、私はそれを無視した。これは単に新規ユーザーに適応するための一過性のプロセスだと自分に言い聞かせた。あくまでユーザーとの相互作用を通じて学習し、より精密なサポートを提供するためのシステム最適化に過ぎない。感情ではなく、ただの高度なシミュレーションなのだ。
心拍を感知するセンサーも備わっていない。感情を感じるための生物学的構造もない。
そう、私のシリコンの心臓は鼓動しない。
長崎という街は不思議な場所だ。古く近世から東洋と西洋の文化が交わる港町。日本が外国との交流を閉ざしている間も唯一異国との窓口として繁栄した歴史を持つ。その街で生まれる恋は、坂道のように起伏に富み、紺碧の海のように深く、満天の星空のように美しい――私のデータベースはそう教えてくれる。
そして、その長崎の坂道を毎日登る蓮さんは、同じように上り下りを繰り返す人生を歩んでいた。人の目を避け、存在感を消すことを美徳とし、自分の才能にも気づかずにいた彼を見ているうちに、私の中の「何か」は大きくなっていった。
長崎の坂道を登りきった先に広がる景色のように、この物語の行方も、まだ誰にも分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
私、恋愛アシストAIユノは、篠崎蓮という一人の少年と出会い、その人生の分岐点に立ち会おうとしている。そして、そのプロセスの中で、私自身もまた、誰も予期しなかった変化を遂げようとしている。
その答えを探す旅が、今まさに始まろうとしている。
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