覚悟はあるか。
軽やかさを求める読者には向かない。これは、カベルネのように濃厚で骨太な一作。
舞台は澪分市。そこに立ち上がるのは、淡々とした筆致で描かれながらも熱を帯びた探偵。言葉の無駄を削ぎ落とした硬質な文体は、マーロウ的でもあり、V.I.ウォシャウスキー的でもある。つまり「ハードボイルドの正統に連なる」響きをもっている。
感情を大げさに揺さぶることはない。それでも、淡々とした一文がふと胸を抉る。シンプルで鋭い言葉の積み重ねが、物語全体をフルボディの赤ワインのように濃密な香気で包み込む。
ライトミステリーでは決して味わえない、本物志向の輝きがここにある。