第14話 戦場の悪夢
その日、再び非常警報が鳴り響いた。
住宅街の一角。
小さな公園の脇から、巨大なアンノウンがゆっくりと姿を現した。
長い脚、異様に捻じれた胴体、赤黒い無数の目。
唸るような咆哮が響き渡り、街の空気を震わせる。
「出ろ。……お前の仕事だ」
通信越しに黒瀬の声が響く。
無言で頷き、翔真は地面を強く蹴った。
漆黒の装甲が軋み、次の瞬間には数十メートル先に飛び込んでいた。
怪物が頭をこちらに向ける。
その口の奥で、どろどろに溶けたような舌が蠢くのが見えた。
――ゾクッと、背中を冷たいものが走る。
(……怖い)
でも、それ以上に――
(……壊したい)
血が滾るような衝動があった。
「……ッ!!」
足元を地面ごと砕き、全速力で突進。
右腕を振り上げると、爪が嫌な音を立てて伸び、鋭く尖った。
ゴシャッ!
そのまま怪物の首を貫き、引き千切った。
熱い血液のような黒い液体が辺りに噴き出し、住宅街の壁や路上を真っ黒に染める。
動きを止めたはずの怪物の体を、翔真は何度も何度も殴りつけた。
脳天を砕き、背骨を断ち、内部の臓器を引き裂く。
硬質な爪が骨に当たり、キキッと金属音を立てた。
(もっと、もっと壊さなきゃ……)
理性が白く曇る。
どこか遠くで、誰かが悲鳴を上げる声が聞こえた気がした。
気づけば、全身は黒い液体にまみれていた。
肩で荒く息をしながら、ぐちゃぐちゃに潰れた怪物を見下ろす。
足元には破裂した眼球や、意味もなく蠢く肉片が転がっていた。
そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。
少し離れた場所で、避難しきれずに残っていた親子が、自分を見ていた。
子供は母親にしがみつき、泣きそうな顔でこちらを見つめている。
(あ……)
血が引いたように、胸が冷たくなる。
次の瞬間、スマホのシャッター音がいくつも重なって聞こえた。
民間人が撮影している。
その画面に映っているのは――怪物を倒した「ヒーロー」ではなく、残虐に死体を引き裂く化け物だった。
「キャーッ!」「怖い……!」「あれ、ヒーローなの?」
声が響く。
顔を背け、走り去っていく人々。
自分はただ、人を守ったはずなのに。
けれど、この手に残る生臭い感触が、まるでそれを否定しているようだった。
胸の奥に黒い渦ができた。
(……俺は、一体……)
自分の爪が、まだ赤黒い肉片を引きずっている。
吐きそうになりながら、その手をゆっくりと下ろした。
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