俺、クラスで孤立してたのに突然“ヒーロー”になっちまった件
コテット
第1話 陰キャ、教室の片隅
昼下がりの教室。窓際の席では女子たちがスマホを覗き込み、SNSの話題で盛り上がっていた。
「昨日の配信見た? あのイケメン実況者、マジ最高じゃない?」
「見た見た! 今度ライブもやるんだって!」
声をあげて笑う彼女たちの輪から、翔真は遠いところにいた。
黒板に視線を向けるフリをしながら、机の上でペンを小さく転がす。ノートにはびっしりと意味のない模様。時間を潰すためだけに描き続けた落書きの群れだった。
その時、前の席の男子たちがひそひそと声を潜めた。
「なあ、榊ってさ、なんか気味悪くない?」
「わかる。目とか合わせると、すげー睨んでくるし。」
思わず視線を下げる。ノートに刻まれた線が、やけに黒々と滲んで見えた。
(睨んでなんかない。見られたくないから下向いてるだけだ)
心の中で呟くが、声にはならなかった。
チャイムが鳴って昼休みが終わると、教室には再び教師の声が響いた。英語の授業が始まるが、翔真の頭には全く入ってこない。
窓の外では夏の雲がゆっくりと流れている。蝉の声すら聞こえない教室は、ひどく息苦しかった。
放課後。廊下を歩いていると、突然、柔らかな声に呼び止められた。
「……榊くん!」
心臓が飛び上がる。振り返ると、そこには三ノ宮雪乃がいた。
ふわりと揺れるポニーテール。制服のリボンが少し曲がっているのも、妙に可愛らしかった。
「さっき、落としたよ」
そう言って、差し出されたのは翔真のシャープペンだった。いつの間にかポケットから落ちていたのか。
「あ……ありがとう」
情けないほど小さい声で、それだけを返す。
雪乃はにこりと笑うと、「じゃあ、またね!」と手を振って駆け去っていった。
取り残された廊下。小さくなった雪乃の背中を見送りながら、翔真は胸の奥が痛むのを感じていた。
(……俺なんかに、優しくするなよ)
ポケットにしまったシャープペンが、やけに重たかった。
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