古代編 Ⅰ:神前比武の章

第2倭 イノミの中のカムイ=キリサム=コラムヌカラ

ヤチホコ:ここイヅモの海の側にある一際大きなカムイ=チセ神殿に向かいます…。

     参殿の日はハヤスサノヲ様…おとうさまを通じ…

     シ=パセ=ア大いなンペ=ソネプる真理へ祈りを捧げる日です。

     普段離れて暮らしているお義父さま…

     シ=モシリ=オオクニコロクルヌシさまに会う日でもあります。

     門をくぐり身を清め最奥部中央の祈りの間へと進みます。

     柏手を打ち、この世界を創りし存在への感謝のイレンカヲモヒを捧げます。

     ここではイレンカヲモヒが観えます。正しきイレンカヲモヒは透明に輝いています。

     …どうやらきちんと祈れたようです。


オオクニ:「…二人とも良きイレンカヲモヒであったな。久しいな…息災であったか?」


語り部 :礼拝を終え、こちらに振り向いたシ=モシリ=オオクニコロクルヌシ

     そう話しかけてきた。

     孫ほども離れたタギリを妻にするだけあり、柔和な雰囲気だが二人は

     とても力強いトゥム気力を感じていた。


ヤチホコ:(…まだまだとてもじゃぁないですがイレスミチ養父さまには敵いませんね…)


ヤチホコ:「ハイ! イレスミチさまもお変わりなく」


スセリ :「元気だよ! お義父さんにはかなわなそーだけどね!」


オオクニ:「ははは。…しかし二人共また少し修練積んだようであるな…!」


二人  :「ハイ!」


語り部 :二人は褒められたのが嬉らしく二つ返事で答えた。


オオクニ:「…どうじゃろうかな? 二人共今回のイノミの…

     カムイ=キリサムコラムヌカラ比武に出てみぬかね?」


語り部 :二人は耳を疑い、一度己の胸の内で反芻して強いイレンカヲモヒで答えた。


スセリ :「出ます! 出たいです!」


ヤチホコ:「本当に出ていいのですか? イレスミチさま?」


オオクニ:「うむ。今より更なる鍛錬を重ね挑むのであるならば無事に

     完遂なると思うのでな!」


スセリ :「やったぁ! もう願い事は前から決まっていたんだよね♪」


ヤチホコ:「そうなのです! 実はそのためにスセリちゃんとこっそりと準備も…」


スセリ :「エパタイおバカ! ヤチ! そこはエシナナイショでしょ!」


オオクニ:「よいよい。およその見当はつく。…その為にも今回の…

     カムイ=キリサムコラムヌカラ比武に向けての修練はきっと役に立つ」


ヤチホコ:「ハ、ハイ!頑張ります!」


オオクニ:「うむ。…では、荷物をまとめ…キクリ、ミヅチと共に

     トゥスクル=モシリ巫女の治めし国に向かい皆と合流するがよい。

     タギリも同行してもらう故、しっかりと鍛えてくるのであるぞ」


ヤチホコ:「ハイ!」


スセリ :「うん、わかった!」


語り部 :寝屋トゥムプに戻り身支度をすませ、キクリたちと合流し、

     タギリと5人でヤレパチプ(陸も進める=万能)大型船に乗り出発した。

     皆と合わせ全力でトゥム気力を開放したが、それでも日をまたいで

     やっとたどり着く状態であった。


ヤチホコ:(…小さくてもこれさえあれば…自由に旅ができます…!)


語り部 :ヤチホコは自分たちの力を取り込み進むヤレパチプの手すりを

     掴みながらそう思った。

     この世界に存在する大小様々な船…カンナ=アメノテックプ=チプトリフネ…の内の

     いくつかのモノは乗り手の持つエネルギー…トゥム気力を動力に

     進むようである。

     そして、目的地を念じ声に発すると…迷わず行けるそうである。

     加えて天気の良い日はさらに速度が上がるというシロモノであった。

     実はヤチホコと呼ばれる銀髪赤目の美しい少年と、スセリと呼ばれる

     巻き毛の金髪で碧眼の少女…双子とされている…は、幾日か前に朽ちた

     小さな舟…ロクンテゥ帆掛け舟を見つけ、こっそりと修繕していたのである。


ヤチホコ:「…これで上手くいけば…出来るねスセリちゃん♪」


スセリ :「もう~気が早ぁい。カムイ=キリサムコラムヌカラ比武

     無事に乗り越えられたらだよ!」



ヤチホコ:「あ、は、はい…それは解っております…。

     そしてそのつもりで頑張りますので…きっと大丈夫です♪」


語り部 :ヤチホコはどうやら生来の楽天家のようである。何事もきっと

     なんとかなるしうまくいくと思っている様である。

     そんな彼と一緒にいる為か、比較するとスセリは少々心配性とも

     思えるが、おそらく彼女が普通で、ごく当たり前に物事を

     考えているのであろう。


タギリ :「二人共~! そろそろ着くわよ~!」


語り部 :タギリに呼ばれて外に出るとすでに海峡を渡り終えて進んでいた。

     この船たちはどうやら水陸両用であるらしく、よく見ると船体が

     少しだけ宙に浮いて進んでいる。込められたトゥムを大地の属性の

     力に変えて浮上するようにできているらしい。

     現在同様な事が可能な技術はリニアモーターカーくらいだろうが、

     おそらくこの船は反重力に類する力で浮上しているのであろう。

     他にもいくつか有り、「カムイホッパイコロ神威之遺産」と

     呼ばれている。

     その中で一番知られているのがこのロクンテゥやヤレパチプである。

     草が刈られて移動しやすくなっている街道を走り進んでいく。

     そのまましばらくすると懐かしい集落が見えてきた。

     生家のある首都…ヤマタイ(ya=ma=ta=i陸の船着き場の在る所→

     港のある集落)である。

     その属国、シキ=コタンオニガヤの村の生家を尋ねると…

     記憶と変わらぬままのチセ(家)があった。


ヤチホコ:「うわ~あのとき…4つ前の季節のまんまだねスセリちゃん♪」


スセリ :「そ~ね~♪ なつかし~!」


語り部 :二人は皆をよそに少しはしゃいでいた。


タギリ :「気持ちはわかるんだけど…

     パセ=トゥスクル大日霊女さまの所へ行かないとね!」


語り部 :タギリにそう言われてはっと我に返り再びカムイ=チセ神殿を目指す。

     このモシリの統治者としてパセ=トゥスクルをしている

     ムカツヒメへ目通りに向かう。


     パセ=トゥスクル…我々の言葉に訳すと…大日霊女…は、

     その名の表す通り太陽神の巫女の長となるモノである。

     このモシリでは才あるマッカチ少女が太陽神の巫女となり、

     当代のカムイとともにシ=パセ=ア大いなンペ=ソネプる真理と交信して

     世を治めていた。

     ハヤスサノヲが表立っていた頃は、彼に祈りを捧げ、通じ、恩恵に

     預かっていたが、今はパセ=トゥスクルを務めるムカツヒメ自身の

     イレンカヲモヒに応じ限定的ではあるがシ=パセ=アンペ=ソネプより

     「カムイ=マゥェ神威之力」が、コタンへ、ウタラへ、降り注いでいた。

     才あるモノ達…緋徒と呼ばれしモノは…かつての太陽神の再来と

     言われたハヤスサノヲを目指し日々修練している。

     そのヲモヒ、資質在るものを導き、見出すために行っているのが

     イノミの際の…カムイ=キリサム=コラムヌカラであった。

     トゥムを並以上に扱えるモノのみが参加出来る。

     何故ならばトゥムによる身体強化が出来ねば試練の際に天に還り…

     カリ・ラマトゥ輪廻してしまうためその様に決めてあるらしい。


タギリ :「さぁ、着きましたよ♪ 久々ですね、お会いするのは」


語り部 :久々に母ムカツヒメの元へ戻るヤチホコとスセリ。

     ミヅチとキクリは心なしか少し緊張しているように見える。


ミヅチ :「おかあさんもだけど、ムカツヒメさまは本当にすてきだね…♪」


キクリ :「…ステキさの意味が違うわ…!」


ヤチホコ:「パセ=トゥスクル大日霊女さま…久しぶりです、

     …お元気そうで何よりです!」


スセリ :「これからイノミまでよろしくね!」


大日霊女:「…ミヅチにキクリビメ…あなた達にわたくしからお伝えすることなど

     ないかもしれませんが…ヤチホコたちにお付き合いくださいね」


語り部 :ヤチホコ達は練武していて勘づいたようだが…ムカツヒメは驚くことに

     ごく普通のウタラであった。トゥムもヌプル霊力ごく少量しか有して

     いないが、武の極みの捌きにより、持ちうる力を数倍~数十倍化する

     「ケゥエ チ コトゥィエ体に私の意思を通す=通気発勁」、

     イノンノイタク祈りにより有していないはずのヌプルを発現させる

     カムイノミ祈祷」。…究極的にはこれらを融合同時発動可能と伝え聞く…。


ヤチホコ:そんなわけで僕よりもトゥムも力もずっと弱いのに真正面からぶつかったら

     手ひどくやられてしまいます…。発勁の究極…

     「クイタクペ ホロカ十字螺旋モイ コトゥイエ浸透勁」は…練武場の果てまで

     吹き飛ばされる強さでした…。

     そんなムカツヒメさま相手に一矢報いれたのは…

     結局スセリちゃんだけでした。

     全力で「モイ コトゥイエ螺旋勁」を打ち込んだときに

     化勁でいなされつつもかすかに威力を透せたという程度でした…。

     次はウガヤ兄が戻られましたので、今度はトゥム氣力を開放しての

     練武です。

     先程のムカツヒメさまの技にトゥムが加わりますと…

     ここまでになるのですね…。

     それでもウガヤ兄は大分加減してくれているそうです…

     が…あ、ミヅチ! これまた豪快に飛んでいきましたね…。

     …まぁ、あの子なら大丈夫だと思います…。

     「八俣」さまのご加護は伊達じゃありませんからね…!

     何せトゥムが桁違いです…! 僕なら危なかったです…。

     ウガヤ兄は瞬時に自在に僕らの力量に合わせ加減しているようです…!

     しかしそれでもこれは…

     難攻不落というイタク言の葉はこういう刻に使うのでしょうね…。

     4人がかりでも…まるで歯が立ちませんね…。

     え、あ! 最後はタギリ姉も参加されて…

     ラムハプル ヌプル付与霊呪(惜しまず(あなたに)霊力を与えます)にて

     トゥムをまとわせた槍にさらにヌプルを融合させて加えたナニカ…

     とんでもないチカラを以て攻撃してくるウガヤ兄…

     ま、まってください! これって絶対イノトゥの輪を廻らされ…!!!


語り部 :そこまで言いかけたヤチホコの眼前に…ウフイヌプリ火山の噴火の如き

     槍の一撃が!

     次撃で槍を水平に薙ぎ払うとペウプンチセ竜巻が巻き起こり吹き荒れる!


ヤチホコ:「こ、こんなひとり天変地異と…ど、どうやって戦えというのですかぁ

     ~!!!」


ヤチホコ:(はっ! タギリ姉、全ヌプルをウガヤ兄にラムハプルしてしているため

     無防備です! …ウガヤ兄の撃を掻い潜って…

     なんて行けるわけ有りません!

     …僕らもおんなじく強化できないでしょうか…?)


ヤチホコ:「うわわわぁ!」


ウガヤ兄:「よく耐えたであるな!

     誰ぞかカリ・ラマトゥ輪を廻るせんモノが出るやと思ったであるがな!」


ヤチホコ:彼方に飛ばされたミヅチもよろめきながらかろうじて戻ってきた所で

     今日は解散です。…しかしまさかこれが毎日続くのでしょうか…?


語り部 :ここヤマタイ耶馬臺のあるトゥスクル=モシリ巫女の治めし国イレスカムイ火の神

     強き処である。いたるところで湯が湧いている。

     皆ほうほうの体でススウシ湯浴み場に向かい、汗を流して湯に浸る。 


ヤチホコ:「あ”~♪ 生きているって素晴らしいです~♪」



語り部 :広い天然の岩風呂に漂いながらヤチホコはほっと一息ついた。


ヤチホコ:本当に生きていてよかったと言う大変さでした…。


語り部 :湯飛沫を軽く立てながら漂うヤチホコに…

     何やら得も言われぬ柔らかな感触が伝わってきた。


ヤチホコ:「…? 何かが当たりまし…うわわ! ど、ど~りでです…♪」


語り部 :見やるとそこにはムカツヒメが当然一糸まとわぬ姿で入浴していた。

     なるほどそれはこの感触も当然と納得しながら視界を広げると…

     ムカツヒメをはじめとして、タギリ、スセリ、キクリと…

     メノコたちが全員入浴していた。


ヤチホコ:「う~ん壮観です~♪ 皆さんきれいでラムが洗われま…ぶはぁ!」


キクリ :「…何じぃっと見ているの!」


ヤチホコ:「うわわ!キ、キクリちゃん何もいきなりワタラ=イクスペ岩石柱

     生やさなくて…ぼぶぉ!」


タギリ :「まぁまぁキクリ…ヤチちゃんもお年頃だし…

     見せても減るものじゃないわ♪」


語り部 :褐色の肌に豊かに実った南国の果実を思わせるそれを揺らしながら

     タギリは言った。


ヤチホコ:…壮観でとってもありがたいです~♪ といつもでしたら思うのですが…

     何故かスセリちゃんのだけいつもと違い後ろめたい気分になったのが

     少しだけ不思議でした…。

     よく言う自分のハポに感じるあの感覚…不思議とかあさま…

     ムカツヒメさまにはなく、一番感じたのはスセリちゃんでした…?

     まぁ、きれいで良いモノ見れました~♪ にはかわりありませんけどね♪

     …あたたた…。と、とりあえずススウシからおいとまです…。




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