第31話 ファンタズ魔 ヴァスキ

朝日が上るのはもう少し先、暗がりの部屋、裸のサエキが寝ている横で裸のフシミは今後のことを考えていた。

フシミ『このままじゃ、彼の未来を潰すんじゃないかしら?身を引いたほうが、せめて、距離を置いたほうが……』

サエキ「……どうしたの?」

フシミ「え?あ、起きてたの?!」

サエキは思い悩むフシミを抱き寄せた。

サエキ「大丈夫、なんとかなる。俺は君と離れない。」

フシミはその胸に顔を埋めた。

フシミ「私はあなたを求めすぎてしまう。自分がアナタの枷になってしまってないかコワイの。」

サエキ「夢の形は変わるものさ。けど、俺の心にある正義感は変わらない、俺は夢を追い続ける。そして、俺はフシミキョーコが大好きだ。両立させてみせる!」

あぁ、見透かされている。フシミはサエキと心で通じ合っていることに安心感を覚えた。

フシミ「わかった。じゃぁ、続きよ!」

ガバァ!

サエキは初めて昼帰りを経験した。


円筒状の機器から一人の見た目、普通の人間の男が目覚めた。

???「おれはどうしたんだ?」

辺りを見渡す。ここは研究施設か?処置台のうえにはものが散乱していた。たぶん、もう使われていないのだろう。自分のいる機器のすぐ隣には、お坊さんだろうか?高そうな袈裟を着た大男が横に座っていた。

ケンドーン「目覚めたか、ヴァスキ。俺はケンドーン。これからはお前がオウムマンの代わりにソッカーを導いていくんだ。」

ヴァスキ「俺の名前……ヴァスキっていうのか……」

ケンドーン「?なんだ?オウムマンの奴、何の情報も入れてないのか?おい、ヴァスキ、最高神モルゲッソーは知ってるよな?」

ヴァスキ「もる?」

ケンドーン『もしかして、オウムマンのやつ、自分のクローンを作ったんじゃないだろうな?!』

最初から人生をやり直すために!?ケンドーンはそう思えた。ヴァスキの顔は過去の画像データでチラリと見たまだ人間だった頃の、オウムマンそっくりだった。

ケンドーン『なら、利用させてもらおう。悪く思うなよ、オウムマン。』

その日、ソッカーは正式に解散し、他力本願寺として再出発した。


ヴァスキ「他力本願寺?」

ケンドーン「俺が立ち上げた新興宗教団体だ。そこで、お前には生き仏として君臨してもらう。何、座ってりゃいいだけの楽な仕事さ。」

ヴァスキはモルゲッソーの3体の立像が佇む本尊の前に座ると、ケンドーンを筆頭に会場を埋め尽くした信者たちが一心に念仏を唱えていた。

ヴァスキ「すげぇ……」

念仏を唱え終わると、ケンドーンは信者たちから金を巻き上げ始めた。

ヴァスキ「おい、いいのかそんなにもらって?」

ケンドーン「信者たちの気持ちだよ、まぁ、お布施金額で、信者のランクが変わるんだけどな。」

お布施金額が高ければ高いほど、徳(=金)を積めば積むほど信者のランクが上がり、周りからチヤホヤされる。彼等は宗教コミュニティでのステータスを金で得ているのだ。

ケンドーン「……おいおい、二千円札1枚かよ!」

その中にいて、一番お布施金額が少ない信者がいた。

彼女はヴァスキやモルゲッソーを信じてないようだった。

低課金信者「ケンドーン様が連れてきたからって何よ、ただの小僧じゃない?!悔しかったら、私にキセキを起こしてみなさいよ!」

言われたヴァスキもムキになった。

ヴァスキ「いいだろう!」

グォン。低課金信者の頭上に異次元ポータルが開かれた。

低課金信者「え!?」信者は突然できたサイケデリックな色の空間を見上げた。

ケンドーン「おい!やめろ!」

ヴァスキ「好きな次元に行くがいい!」

低課金信者「あ!」

スポッ

異次元ポータルは信者を吸い込むと閉じた。

その騒ぎを見ていた信者たちはヴァスキは本物の現人神と祀り上げた。

ヴァスキ「ハハハ!ケンドーン!お前の言う通り、俺が神をやってやる!」


信者たち「我ら、もはやこの世界に未練などありません!」

「お願いします!ヴァスキ様!」「ヴァスキ様!」「異世界へ転移を!」「全財産持ってきました!」

ヴァスキ「そうかそうか。」

ケンドーン『金は集まるがなぁ……このままでは、いずれ、警察沙汰になってしまう。しかし、俺も異次元に飛ばされちまったら、もう戻る手立てはない。』

グォン!

信者たちの頭上に大きな、異次元へ続く穴が開かれる。

スポッ!

その場にいた全員が異次元へと旅立っていった。

ケンドーン『……潮時だ。』


大量の失踪事件、それに新興の宗教団体が関わっている。世間で大事件に発展しないわけがなかった。

警視庁では大規模な隊を編成して、その宗教団体への家宅捜索を行おうとしていた。

警視監A「ソッカーがなくなったかと思えば、今度はなんだ!?」

警視監B「他力本願寺?聞いたこともない。」

警視監C「おとなしかった、銭ゲバ宗教団体だったはずだ。ソレがどうして、こんな大事件を?」

警視監D「すでに、大量の殉職者が出ている。地元の奴らじゃ手に負えんとか……」

警視監の集まる対策本部に血相を変えた警部が飛び込んできた。

警部「報告!隊は全滅!全員、突如できた頭上の穴に吸い込まれました!」

一同「なんだって!!」

警部が会場の壁に設置された大画面モニターを急いで、現場中継のテレビに切り替えた。

警部「さっきの画像、ヘリ中継されてるはずです!」

モニターからヘリのホバリング音がけたたましく、対策本部の部屋に響いた。

警視監達はテレビ中継に見入った。

中継キャスター『なんて事だ!一瞬だったぞ!』

巨大なアジア風の寺院の敷地、何も居ない参道と拝殿の前に佇む男が映っていた。

一度、現場のカメラはスタジオのキャスター、コメンテーターに切り替わる。

報道キャスター『とんでもないことになりました。』

コメンテーター『……さっきの画像をもう一度、見れますか?』

スタジオがざわつく

報道キャスター『……えー、それでは、先ほどのVTRをもう一度ご覧ください。』

一瞬、画面が乱れ、問題の箇所に切り替わる。

宗教施設の参道、拝殿の前に整列していた機動隊員らの前に拝殿からヴァスキが現れる。

中継キャスター『あ、誰かでてきました!施設の関係者でしょうか?!黄金の袈裟を着た男性が拝殿から一人でてきました!』

間を置かず、機動隊員らの居た頭上に大きなサイケデリックな空間が開く。

中継キャスター『なんだあれは?!』

スポッ!

人々が吸い込まれる音がヘリのホバリング音より鮮明に聞こえた。

中継キャスター『あぁ!機動隊員が全員姿を消しました!』

ヘリパイロット(どうなってんだ!?)

ヴァスキの顔がアップで移る。

中継キャスター『なんて事だ!一瞬だったぞ!』

ソレを見ていた、警視監の一人が立ち上がって叫んだ。

警視監A「ソッカーの怪人の生き残りなんだ!奴は!!」

警視監B「その可能性が高い!」

警視監C「けど、どうする?!あんな奴、我々の手には追えんぞ!?」

仏具戦隊、ナンマイダーなら!

その場に居た全員がその言葉を閃いた。


夢。今までの灰色の夢の世界ではなく、それはカラーだった。サエキの体は金色の雲の上に佇んで居た。

サエキ「ここはどこだ?」

辺りを見渡すサエキの目の前に光り輝くシッダー博士と釈迦如来が姿を現した。

釈迦如来「コレが、最後の戦いになる。サエキリョータ。」

シッダー博士「いいかね、サエキ君。どんなことがあっても、仲間を信じるんだ。」

サエキ「ソレってどういう……?」

シッダー博士「同じことを、もう一度言うのかね?」

シッダー博士かやれやれと、肩を竦(すく)める。

明け方、まだ外は暗い。サエキは夢から覚めてカーテンを少し開いて外を見た。

サエキ「……よく寝たなぁ。」

今日はセンター試験の日、しかし、朝食にハムを乗せたトーストを食べながら、テレビの天気予報を見ていたサエキ。しかし、突然、開いた玄関からドタドタ入って来た複数人の警察に取り囲まれた。

サエキ「え?え?」

警察「サエキリョータだな!我々と来てもらおう!」

問答無用でサエキの体は2人の警察に両腕を抱えられ宙に浮いた。

母「リョータ!アンタ、一体何したの!?」

身に覚えのないサエキだったが、思考停止して、うろたえるだけだった。

サエキ「え?あ、俺、センターが……」

サエキは警察にパトカーに押し込まれてどこかへ連れて行かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る