第29話 オープンキャンパス

フシミ「ここなら私の勤め先からも近いし!」

サエキ「……まぁ、通学代は確かに、かからないかな?」

家からも仏教高校からも近い大学のオープンキャンパスにサエキはフシミと共に訪れていた。

サエキ『広いなぁ……』

サエキは大学一本に絞ることにした。その際、親にも兄にも学費について頭を下げた。心強かったのはその時に兄が味方になってくれたことだ。

兄「両親は俺の成功に喜びすぎて、浮き足立っている。旅行三昧にふけって、お前を蔑ろにしている。」

サエキ「……そうだよな。」

兄「俺がレールを外れた時のことを考えてない。“まさか”なんてのは誰にでも訪れる。お前のこともちゃんと見ろって、言ってやる。学費のことも足りない分は俺等で出すから心配するな。」

サエキは身近な比較対象であった優秀な兄に劣等感があった。それは両親の愛情を兄に取られていたからだろう。しかし、そんな兄は誰よりも自分のことを気にかけてくれていたのだ。

サエキ『アニキには何時までたっても、頭があがらねぇや。』

といっても、サエキは警察官になる夢はあきらめていなかった。大学に行きながら、その勉強をするつもりで居た。

サエキ「あぁ、でも一応、通うなら卒業しないとだよな。」

サエキとフシミはこれから通うであろう大学を軽く見て回った。偏差値もそんなに高くない、中堅の大学、サエキの今の偏差値なら余裕で入れるだろう。

サエキ『ん?』

サエキは道行く学生達からの視線に気がついた。そりゃそうか、年上であろうナイスバディな彼女と一緒に高校生が来ているのだ、目立つに決まっていた。非モテ、陰キャからの妬みの視線が痛い。

サエキ『アレは?』

サエキの目の前の渡り廊下を通り過ぎる陰キャ学生グループが頭頂部の尖ったアルミハットを被っていた。以前、ヌキナが見たと言っていた奇妙なカルトグッズ。ここの学生たちにも汚染が広まっているようだった。

フシミ「変なの。あ、私、トイレ行ってくるから。」

フシミはそう言うと、校舎の方へかけていった。

サエキは広いキャンパスで迷子にならないよう、近くのベンチに腰掛けた。

???「!お前は!」

ヘルメットにマスクをした体格のいい数名を連れた見知らぬ学生らしき青年がサエキを見て叫んだ。

サエキ「は?」

???「ここで会ったが百年目!覚悟しろ!クウカイレッド!」

ゴゴゴゴゴ……

サエキがクウカイレッドであると知ってて敵対関係にあるのはソッカーくらいだ。

サエキはベンチから飛び上がるとクウカイレッドに変身した。

ピキッ

サエキ「うっ!」

クウカイレッドになったのに動けない!?ヘルメットをしていた連中はハカイソーに、一団の先頭にいた青年は龍の頭の怪人に姿を変える。龍頭の怪人は名乗りを上げた。

ファフニール「俺の名はファフニール。どうだ?新型の時間停止装置の威力は?動けないだろ?」

怪人もハカイソー達も動けないクウカイレッドを指差して馬鹿にして笑った。

サエキ「くそっ!」

ファフニール「意識があるのは予想外だったが、まあ、そのほうが都合がいい。」

ハカイソーを親指で指し示してファフニールは続けた。

ファフニール「コイツらは男色家でなぁ、ちょうど、お前くらいのが好みなんだ。」

キュッ(ケツの閉まる音)

サエキはみるみる青ざめ、色々覚悟した。

サエキ『うわぁ、笑えねぇわ……』

ファフニール「お前を殺すように言われてるが、その前に……」

股間を膨らませたハカイソー達がサエキに近づいてくる。

サエキ「うわぁ、やめろ、近づくな!」

動けないサエキは簡単に押し倒された。引っ張る力には弱かったのかスーツはハカイソー達にビリビリに引き裂かれた。

あー!

フシミ「そんなもんでいいかしら?」

パチン!

ファフニール「!誰だ!?」

ファフニールの後ろに立っていたのは私服のフシミ、そのそばに四本の長い尾を持つ白い狐がちょこんと座っている。狐の上には怪しい青い炎を上げる青い玉が浮いていた。そして、その後ろには、

「クウカイレッド?!」

サエキ「先生、アレは?」

フシミ「天狐の青玉。幻術よ。発動は遅いけど、かかればコッチのものよ。」

ファフニール「幻術だと?!お、おのれぇ!」

龍の怪人は口から火を吐いてフシミを丸焼きにした。しかし、フシミは平然としている。

フシミ「アナタ、龍だけど、解呪はできないのね。」

ファフニールもハカイソー達もうろたえた。その時、ファフニールの足に激痛が走った。

ファフニール「ぐあぁぁぁ!なんだこれはァ!?」

ファフニールはいきなり足元に現れた化け物に足を食われている。

サエキ「アレも?」

フシミ「アレも。永遠に自分の妄想に囚われてなさいな。」

ハカイソー達も何かに取り憑かれたように、その場でのたうち回っている。

サエキ「式神に体を動かしてもらう、か。こんな使い方があったなんて。」

フシミ「私がフォックスの時、天狐が体を動かしてた。動けてた理由の答え合わせになった?リョータ。」

サエキ「うん。新しい時間停止世界で動けるようになれたのはいいけど、コイツラを倒さないと元の世界に戻らないよな?」

サエキ達は地面に転げ回っているファフニールに近寄っていった。

サエキ「臨兵闘者皆陣烈在前。」サエキは刀印で、空に五芒星、九字を切ると、素早く手印を作った。

サエキ&フシミ「「天の沼矛!!」」

2人の前に人の持つ大きさになった八柄の剣が姿を現す。ソレを2人は持って天に掲げた。刀身が光り輝く。

ファフニール「あぁ!やめてぇ!」

サエキ&フシミ「「天地開闢!!時空、割断斬り!!」」

ズバッ!

ファフニール「ぎゃぁぁぁぁ!」

バコーン!

両断されたファフニールの体は激しい炎とともに爆散した。ハカイソー達もそれに巻き込まれバラバラに吹き飛んだ。

サエキ「……アレ?巨大化しない?」

フシミ「おおかた、新しい時間停止装置に予算食われて、巨大化の方はつけられなかったんじゃない?」

ゆっくりと時間の動く世界へと戻っていく。

サエキ「けど、」

言葉の途中で時間が動き出し、サエキの変身も解けた。女子学生達がサエキとフシミのカップルをうらやましそうに眺め、通り過ぎていく。

サエキ「ワカマツやヌキナさんはあの新しい時間停止世界で動けないのでは?」

フシミ「あー、それならリョータの風神と迦楼羅天を2人にあげれば?」

そんな事も出来るのか?サエキはフシミにどうやるか聞いてみた。

フシミ「命令文を紙に書いて、術を行使するの。私の家でやりましょう。」

サエキはフシミの家に行くのは初めてだった。顔を赤くして、前かがみになったサエキは本当に行っていいのかフシミに聞いてみた。

サエキ「キョーコ、さんは一人暮らしですよね?」『子作りタイム、キタコレ!』

フシミ「あ。」

フシミも自分の言った言葉をようやく理解した。顔から火が出るほど真っ赤になる。独身女性が付き合っている彼氏を家に招くとか、何も起こらないわけがなかった。

フシミ「あわわわわ。」『ま、まあ、子供も早く欲しいし、いいのかしら?』

サエキ「で、では参りましょう。」

サエキは緊張して声が裏返った。前に出す足と同じ方の手が前に出る。

フシミ「そ、そうね!」

2人のオープンキャンパスはソッカーの介入もあり、早めに終わった。しかし、フシミの家でのサエキのオープンキャンパスは夜更けまで続いた。


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