第4話 悪龍の鱗と聖女の杖。

ウランが指し示した処を見ると。


「あれは? 」

瓦礫の中に赤黒いモノが見える。


「悪龍の鱗です。」

「悪龍の鱗? 」

「あの鱗には高濃度の魔力があり、普通の鼠をあの様に変えてしまったのでしょう。」


「はた迷惑な鱗だな!! 」

「悪龍の鱗ですから。」

飛びかかって来た鼠に蹴りを入れ、ウランに襲いかかろうとする鼠を剣でなぎ払う。


「私が浄化しますので、時間をください。このままでは増える一方です。」

ウランは杖を握り締めた。


確かにこのまま逃げれば、魔力にあてられた鼠が変化して追って来るかもしれない。


浄化出来れば、鼠はただの鼠のままだ。


「わかった。」

アトムは頷いた。


後ろでアトムと同じようにしんがりを勤めている男達に叫ぶ。


「お前達。村を出たら、門を閉めてくれ!! 」

「でも!! 」

アトムの言葉に、男達はたじろぐ。門を閉めればアトム達の逃げ場がなくなるのだ。


「いいから、さっさと行け!! 」

「す、すまない。」


「気にせず村からも、逃げてください。」

「聖女様…… 」


後ろ髪を引かれながらも、男達は門を潜って眉間にシワを寄せながらも門を閉めた。


「すまない。」

「すまない。」

懺悔の言葉が、男達の口から無意識に出る。



だが、アトムにとっては守るべき者が少ない方が楽であった。

単純に動く鼠が一箇所に向かってやって来てくれるなら、それの方が楽なのだ。


アトムははっきり言って、ソロタイプであった。


「近場からいきましょう。」

「わかった。」

近くに落ちてきた鱗で潰れている家にウランは近づくと、彼女を狙って鼠が飛びかかる。


待っていたとばかりに、アトムは大ぶりに剣を振るうと何尾か鼠が倒れ伏す。


「浄化。」

こっんと、聖女の杖の結晶部分を悪龍の鱗にあててウランはじっとしている。


じっとしている。


じっとしている。


「おい。」

背中合わせでウランを鼠から守りながら、彼女がじっとしていることに不安を感じる。


「浄化しているんだよな? 」

「浄化、しています。」


だが、ウランが動く気配がしない。


「なあ、もっと動きとかないのか? 呪文とか。」

「ありません。」


真っ直ぐ襲って来る鼠達を相手にしている間も、ウランは動くことなくじっとしている。


「なあ!! 」

「なんでしょう? 」


「浄化、しているんだよな。」

「はい、浄化しています。」


話している間もウランは動かず、アトムの前には鼠の亡骸が山盛りになっている。


「急げないのか? ほら、悪龍に気づかれるとヤバいし。」

「はい、無理です。」

ウランはしれっと言った。


今の処、悪龍はコチラに気づく事なく山の辺りで蠢いている。


アトムとしては気づかれる前に、この場からとんずらしたいのだ。


「終わりました、次行きましょう。」

「おう。」

ウランはすたすたと次の場所、宿屋の瓦礫の方へ歩いていく。


襲い来る鼠はアトムがなぎ払う。

アトムを信じているのか、元々しれっとした性格なのか、ウランは怖がることなく歩いて行く。


悪龍の鱗に近づくと、こっんと【聖女の杖】結晶をあててうずくまる。


「……浄化、しているんだよな? 」

「はい、浄化しています。」


時間として、わずか3分。

しかし戦っているアトムには、何時間もの感覚になる。


「次、最後です。」

「お、おう。」


ちょっと離れた所の家屋が潰れている。ウランは同じく、すたすたと歩いて行く。


悪龍の鱗に【聖女の杖】の結晶をこっんとあてる。


ウランはその場にうずくまると、アトムもその隣にうずくまる。


変化した鼠は総てアトムは倒していた、他の悪龍の鱗は浄化されてる為新たに変化した鼠は現れなかった。


二人して、悪龍の鱗が浄化されているのを見守っていた。


赤黒い鱗が、白くなっていく。

燃え尽きた灰の色に変わっていく。


「これが、浄化。」

「はい。浄化と言うより、魔力を結晶が吸い取っていると言った方が正解です。」


「魔力を? 」

「【聖女の杖】は癒やしに特化した魔道具です。この結晶部分に魔力を溜め込んで、使います。」


きらきらと輝いている結晶を指さしてウランは告げる。


「大きくなってないか? 」

「魔力を蓄えると結晶自体が大きく変化します。使うと結晶が小さくなり、使い過ぎると結晶が無くなりただの杖になります。」


【聖女の杖】に申し訳程度に付いていた結晶は、今は悪龍の鱗の魔力を吸い込んで拳大の大きさになっていた。



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