第3話 山と湖に囲まれた小さな村。
ヒョータン国はひょうたんの形からその国名になった。
くびれた所に王都が存在し、南の大きめの領土の端にある小さな村に悪龍が暴れていた。
その反対側、王都を挟んだ北部の上の村に二人は逃げていた。
アトムとウランは大きな湖の近くの小さな村にたどり着いた。山と湖に囲まれた、数百人ほどの小さな村だ。
「のどかだな。」
「ええ。」
二人は村の中のただ一軒の小さな宿屋の外で、繕いでいた。
一週間かけて、国の端っこまで逃げて来たのだ。今頃、王都では二人の事は悪龍に挑んで亡くなった者として称えられているだろう。
「のどかだな…… 」
「ええ。」
こんなに国の端っこに、王都の知り合いなど来ないはずである。
逃亡生活も辛いので、此処に移住してしまおうかと二人は話していた。
山間にある湖から、優しい風が村の中を吹き抜ける。二人は気持ちよさそうに目を閉じる。
ひゅゅゅ~~ゅゅ~~
ドォォーーン!!
凄まじい音と、地響きが二人の体襲った。
ひゅゅゅ~~ゅゅ~~
ドォォーーン!!
今度は真後ろの宿屋に、何かが降り落ちてきた。
振り向くと宿屋は粉々に壊れていた。
ひゅゅゅ~~ゅゅ~~
ドォォーーン!!
「ぎゃあああぁーー!! 」
「ゔわぁァァーー!! 」
次々と何かが音をたてて落ちてくる中を、悲鳴をあげ逃げ惑う村人達。
一瞬、空の光が遮られた。
次の瞬間、大きなモノが湖の脇の山にぶつかるように落ちてきた。
『あんぎゃーーー!! 』
そのモノが、咆哮を上げる。
「悪龍!! 」
「そんな…… 」
アトムは落ちてきたモノを見咎め叫んだ。ウランは呆然と悲鳴を押さえるために、口をふさぐ。
目の前に、山沿いに大きな赤黒い龍が咆哮をあげ蠢いていた。
「な、なに、あれ!! 」
「ド、ドラゴンだ!! 」
「逃げろーー!! 」
悪龍を見咎めた村人達は、村から逃げようと外壁の潜る門へと収束する。
とにかく着の身着のまま、子供を抱きかかえて逃げる親達。先程の落ちて来たモノが壊した瓦礫に当たり怪我を追った者を支えて門へと集まる村人達。
飼っている犬や猫、家畜達も逃げようと右往左往していた。
蠢くドラゴンから離れようと、みんな必死だ。
「ゔわあぁぁ!! た、助けてくれ!! 」
「きゃああぁあ!! 」
門近くに集まっている村人から悲鳴が上がった。
アトムが悲鳴のする方を見るとそこに、大人の半分位の大きさの赤黒い鼠が存在していた。
それも複数、今にも村人に襲いかかろうとしている。
「チイッ!! 」
アトムは走りながら剣を抜く。
子供に飛び付こうとする鼠を胴体から真っ二つに切り裂く。
「うわあぁ!! 」
大人の男の腕に噛みついている鼠を振り向きざまに首を切る。
女の上で、服を抑え込んでいる鼠をアトムは蹴り上げ飛んだ処を剣で斬りつける。
アトムの動きに、大人達は瓦礫の棒を拾って鼠に対抗をしだした。
「門を早く開けて!! 」
「村の外に逃げろ!! 」
今は、村の外より中の方が危険であった。
村の中に、大きな赤黒い鼠が闊歩する。
鼠を避け、怪我人を抱えて馬車一台通れるほど狭い門から外に出るのに時間がかかる。
中よりかは安全だが、外も危険はつきまとう。数少ない村の守り番が先に出て、辺りの安全を確保する。
隣村まで歩き続けて1日の距離、怪我人・子供・老人を連れた集団の移動は何日もかかるであろう。
それも野獣を警戒しながら。
「女神よ、慈愛なる女神よ。私に力をお貸しください。」
ウランは自らの魔力を【聖女の杖】に注ぎ込む。共鳴した聖女の杖に付いている魔力結晶がキラキラと輝き、怪我人を癒やしていく。
「せ、聖女様!! 」
「聖女様だ!! 」
聖女の存在に村人達は、安堵する。
「さあ、今のうちに早く。」
ウランは村人に外へ出るように促す。怪我人がいなくなった事で、移動は早くなる。
しんがりを勤めるようにアトムは、襲い来る鼠を長剣で切りつけていく。
流石は悪龍討伐者に選ばれるとあって、アトムは兵士の中では凄腕であった。
だが、中々数が減らない。
「なんなんだ、こいつら!! 」
「あれです。」
アトムの問いかけに、ウランが応え杖を瓦礫へと指し示した。
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