第11話 延長戦


「よし、合格者5人決定だな。お前ら五人は、そのまま俺に付いてこい」


 試験官のゼルガがそれだけ言い放つと、周囲がざわついた。


「この線より手前のやつらは1000番以内だったから、右手に進んで追試を受けろ。この線より奥のやつらは……残念だが不合格だ。そのまま帰れ」


 不満そうな声や、悔しそうな嗚咽が遠巻きに聞こえる中、俺たち五人だけが試験官の背中を追って歩き出す。


 その先に案内されたのは、さきほどの戦場に比べるとかなり狭い場所だった。体育館程度の広さしかないが、それでも一万人クラスのバトルロイヤル直後となると、まるで個室のように感じられる。


 ゼルガは地面に腰を下ろし、口を開いた。


「まずは、お前ら五人。合格、おめでとうと言っておこう。だが――試験はまだ終わっちゃいない」


 一瞬、全員が固まる。


 だが、すぐにゼルガは手を振って補足する。


「ああ、勘違いすんな。合格自体はもう確定だ。だがな、毎年、合格者の中でも特に優秀だった十人が“特待生”として扱われる。つまり、グループごとのトップだ」


「ということは……」と誰かが口を開く。


「そう。お前ら5人の中の一位を、今から決めてもらう」


 ゼルガは指を立てて、こちらを順に見回した。


「やり方は簡単だ。トーナメント形式の一対一。余計なわだかまりがあるなら、この場でケリつけとけ。特に、合格者に納得いってねぇやつもいるみてえだからな」


 そこで、ちらりとこちらを見られた。


 俺も、なんとなく察していた。案の定、氷の槍を飛ばしてきた少年が前に出て声を張る。


「よし……俺があいつを叩きのめす。マイケルの仇を取ってやる!」


(いやいやいや。マイケル?を退場させたの、君の槍なんだけど)


 とはさすがに言えなかった。鬼じゃないし。


 しかも、マイケルはまだ追試で受かる可能性があるのに、不合格扱いされていてちょっと気の毒だ。


 結局、初戦は俺と氷の槍少年になった。


 だが――はっきり言って、全く勝負にならなかった。


 四人とも俺の動きが全然見えていなかった。スキルは多少使えるのかもしれないが、基礎的な能力が全然足りていない。

 彼らのスキルはもう見たから、長々と模擬戦をするモチベーションもなかった。


 なので――開始の合図と同時に、俺は気配を断ち、背後へ回り込む。


「えっ……」


 気づいたときにはもう遅い。


 俺の手刀が、首元に吸い込まれるように振り下ろされた。


 トン。


 少年は何が起こったのか分からぬまま、意識を失って退場していった。


 そして、これがあと三回繰り返された。


(やばい……首トン、気持ち良すぎて癖になりそう)


 背後に忍び寄って、相手が認識していないうちにスパッと決めるあの感触。なんというか、こう……キマる。


「この番号札型の魔道具、もらえないかな……」


 ぽつりと呟いたが、ゼルガには聞こえてないふりをされた。


「よーし、じゃあ第九グループの一位はお前だな。……名前は?」


 ゼルガが俺の方を見て声をかけてきた。


「ユリウス・レオンハルトです」


 きちんと胸を張って名乗ると、ゼルガがふっと眉を上げる。


「ああ、レオンハルト辺境伯の次男か。アレンとマリアも優秀だったからな。納得だ」


 兄さんと姉さん、有名なのか。なんかちょっと誇らしい。


「それでだな……」とゼルガが続ける。


「各グループのトップ同士は、試験官の独断と偏見で順位をつけることになってるんだが……お前、もうちょい俺にアピールしておくか?」


 面倒くさそうに言いながらも、なんとなく楽しんでるように見える。


 うーん、特待生はなんとなくお得そうだったからなっておいたけど、それ以上の順位には正直あまり興味がない。でも、学園の教師のスキルにはちょっと興味があるな。


「特待生内の順位って、何か意味あるんですか?」


「そうだなー、特に大きな違いはねえな」


「んー、じゃあ別にいいかな」


 と、遠慮しようとしたら、ゼルガが追加の情報を出してきた。


「ただ、たしか寮の部屋は順位順に広かったはずだ。あと、新入生には生徒一人一人にメンターの上級生がつくんだが、順位が高いほど融通がきく。あとは順位が上の方が箔が付くな」


 ……なるほど。


 部屋が広いのはいいな。メンターも優秀そうな人に付いてほしいし。


「じゃあ……せっかくなんでやります。他の四人を外に出してもらえれば」


「よし。じゃあ、四人はそこの扉から出てくれ。出たところで合格者の案内されているから、問題ないはずだ」


 ゼルガが手を振ると、他の四人はぶつぶつ言いながらも退出していく。


 部屋には俺とゼルガの二人だけ。


 向かい合うと、空気が変わった。さっきまでのだらしない雰囲気はなく、完全に“戦士”のそれだ。


(さすがに受験生とは格が違う……。父さんや母さんに近いな、これ)


 気配を殺し、先ほどより大分速い速度で、一気に背後に回り込む。


「おいおい、さすがに俺にそれは通じねぇぞ?」


 ゼルガがくるりと身を翻し、俺の動きを追う。


「それとも、ただの隠密系か?」


(……まだまだ気配遮断は甘いってことか)


 仕方ない。メインで鍛えてたのは気配察知の方だし、正面から行こう。


 俺は踏み込み直し、正面からゼルガに向かって行く。


 全身の筋肉に意識を集中し、速さと力に振った動きで一気に距離を詰めて殴りかかる。


 それを、ゼルガは軽く顎を引いて躱す。


「お、なんだ。ちゃんと近接戦もできるのか。いいぞ!」


 楽しそうに笑いながらも、ゼルガの動きは鋭い。


 反撃の拳を、俺は身体を捻って受け流す。続けざまに繰り出された蹴りは腕で防ぎ、距離を取る。


 そのまま、何度か拳と足を交差させる。


 互いに決め手を欠いたまま、しばらくのあいだ膠着が続いた。


「攻撃も防御も、しっかりしてるな」


 感心したように漏らすゼルガ。だが、その口元には笑みが浮かんでいた。


(ギアを上げてくるかな?)


 その予感は的中した。


「じゃあ、これだとどうだ?」


 そう言って、先ほどよりも数段速い蹴りを繰り出すゼルガ。どうやら、身体強化を使いだしたようだ。


 さすがにこっちも身体強化を使わざるを得ない。


 身体に魔力を流し込み、能力を向上させる。


「おお、その年でそのレベルの身体強化が使えるのか。お前んとこ、家でどんな訓練してんだよ」


「毎日……生きるのに必死でしたよ!」


 軽口を叩きつつ、再び拳をぶつけ合う。


 ゼルガの攻撃は重く、速く、正確だった。しかも、こちらの技を見切る洞察力も高い。さすがは王立学園の教師といったところか。


(――純粋な身体能力じゃ勝てないな)


 こっちは全力を出してるが、ゼルガにはまだ余裕があるのが分かる。


 そんな俺の内心を察したのか、ゼルガがふっと笑った。


「近接戦でこれだけ張り合える学生はなかなかいないぞ。……サービスに、俺のスキルを見せてやるよ」

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