第4章 癖と習慣と静寂と

 それから、直人は月に一度~二度、山へ通うようになった。

 金曜の夜、都市の家族には「出張」や「飲みに行く」など理由をつけて車を出し、山道を上る。

 週末の山は、静かだった。

 誰も気づかない。誰も疑わない。

 仕事で疲れた大人が、ひと晩いなくなったところで、誰の記憶にも残らない。


 最初の“夜”のあと、恐怖や罪悪感のようなものは、意外なほど早く消えた。

 代わりに残ったのは、静けさと手応えだった。


 ここには音がない。命令もない。ルールもない。

 ただ、やるべきことと、それを邪魔するものがないだけ。

 直人は、そういう場所に適していた。


   *


 この森にやって来るのは、ほとんどが若者だった。

 ガラの悪い男と、妙に化粧の濃い女。

 夜中にわざわざこんな場所まで来るのだから、それだけで“選別”は始まっている。


 彼らはなぜか楽しそうだった。

 肝試しというより、スリルを楽しむデートのように、お互いに肩を寄せ合って歩いていた。


 女は、恐怖心を“媚び”に変える。

 男は、守るふりをして“優位”を楽しむ。

 その構図が、直人にはたまらなく滑稽に思えた。


   *


 ときには三人組、四人組のグループで来ることもあった。

 そういうときは手を出さない。

 音が増える。対応が複雑になる。

 何より、確実に終わらせられる保証がないなら、手を出すべきではない。


 地下に残されていた手記にも、はっきりと記されていた。


 「四人以上なら諦めろ。

 一人でも逃げたら、“何もかも”が終わる」


 直人はそれを守った。

 冷静であること。感情を混ぜないこと。

 “静かに終わらせること”こそが、代々の掟だった。


   *


 そして、すべてが終わったあと──

 残された“もの”があれば、それはすべて処理された。

 衣類、アクセサリー、スマートフォン。

 そして、ときに──車。


 山道の入口に残された車は、目立つ存在になる。

 だから直人は、数日後に警察へ通報するのが習慣になっていた。


 「私有地に不審車両がある」

 「しばらく放置されていて、犯罪で使われたのかも」

 「イタズラも心配だ」


 警察も多少の違和感は覚えるだろうが、問題ない。

 証拠は、何ひとつ残していないのだから。


 現場には血痕もない。痕跡もない。遺体もない。

 そして、スマートフォンも、衣類も、すでにあの底知れぬ縦穴の中。

 数百年、そうやって処理されてきたのだ。

 直人が行っているのは、ただの“伝統”でしかない。


   *


 そして今日もまた、誰かがやってくるかもしれない。

 軽薄な笑い声と、スマホのライトと、

 “試すだけ”のつもりで、足を踏み入れる若者たち。


 この場所の本当の意味も知らずに──

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