ロマンスレベリング:恋愛システムを手に入れたら、全女子に好感度バーが見えるようになった

@officialshinka

第1話 フラれた僕に届いた恋愛システム

放課後の校舎裏。夕日が赤く空を染め、古びた体育館の影が長く伸びていた。



自動販売機と部室倉庫の間、静かな場所で、少年がぎこちなく立っていた。



「……一ノ瀬さん。俺と付き合ってください」



レンの声はかすかに震えていた。



目の前の少女は、しばらく何も言わなかった。髪の毛をくるくると指で巻きながら、無表情のまま。目も合わせてくれない。



その少し離れた場所には、彼女の友達らしき数人が物陰からこっそり見ていた。笑いを堪えながら、スマホをポケットから半分出したまま。



ようやく少女――一ノ瀬カズハが口を開いた。冷たくて、無感情な声だった。



「……私のレベルに、あなたが届くと思ったの?」



驚きは一切なかった。まるで、こういう告白なんて何度も聞き飽きたかのような態度だった。



彼女は間違いなく、学校一の人気者。成績も運動も完璧、誰もが認める美少女。三年生の中でもひときわ輝いている存在。



レンは、同じ学年ではあったがクラスも違えば、接点もなかった。ただの地味な男子。



カズハは髪をひとふりして背を向け、振り返ることもなく歩き去った。



友人の一人が振り返って、にやりと笑う。



「ぷっ……マジでうちのカズハに告ったの? このモブ男が?」



クスクスと笑いながら、彼女たちはその場を離れていく。足音だけが、レンの耳にいつまでも響いていた。



彼はその場に立ち尽くしたまま、唇を噛みしめていた。



「……バカみたいだ」



帰り道、レンはうつむきながらトボトボと歩いた。



なぜ、いつもこうなんだろう。



他の人たちが普通に持っているもの――誰かに大切に思われること。誰かを大切に思えること――ただそれだけが、欲しかったのに。



カズハが廊下ですれ違いざまに笑ってくれた、あの瞬間をずっと覚えている。たった一度の、些細な笑顔。



それだけで、希望を抱いてしまった。



でも今は……もしかしたら、あれは自分に向けた笑顔ですらなかったのかもしれない。



「彼女なんてできたことないし。このままじゃ、高校卒業まで一度も恋愛できないままだな……」



今まで告白した女の子たちを思い出す。そのすべてが、優しくても、曖昧でも、どこか遠い拒絶だった。



今日のは、特に最悪だった。屈辱的で、笑われて、心がぐしゃぐしゃだ。



大抵、友達に煽られて勢いで告白してただけなのに。



「……俺なんかに、好きになってもらえるわけないか。特別な才能もないし、運動もダメ、成績も普通。顔だって……全然イケてない。昼休みに一人で漫画読んで、オタク話してるだけの陰キャだしな」



胸の奥がズンと重くなる。



「ただいま……」



家に帰ると、キッチンから顔を出したのは従妹のサユリだった。元気で可愛い女の子で、レンより一つ年下。進学のために一緒に暮らしている。



「おかえり、オニーちゃん。……ん? なんか、死にそうな顔してない?」



「ただの試験勉強のストレスだよ」



作り笑いでごまかすと、サユリは「ふーん」と小さく頷いた。



レンはそのまま自室に入り、ドアを閉めた。



そしてベッドに倒れ込み――ついに、涙が溢れた。



夜になり、下の階では皿の音が聞こえていた。



「レンー! ごはんできたわよー! あなたの好きなやつよー!」



「……いらない」



ドア越しに返事をした。



キッチンでは母がサユリに尋ねた。



「今日、学校で何かあったのかしら?」



「……わかんないけど、帰ってきた時すっごく落ち込んでた」



一方その頃、レンは天井を見つめていた。



カズハの冷たい声。振り返ることもなかった姿。彼女の友達の笑い声。



それが、何度も何度も頭の中を繰り返す。



そして、布団を頭までかぶった。



「……なんで俺だけ、こんなに恋が遠いんだろう」



目が腫れるまで泣いて、ようやく眠りに落ちた。



明日はきっと、ただのいつも通りの一日――



そう思っていた。



でも――その日から、世界が変わる。



翌朝。



レンはゆっくりと目を覚ました。目をこすりながら、ぼんやりとつぶやく。



「……久しぶりに、よく眠れたかも。泣き疲れて寝ると、ぐっすり眠れるもんなのか……?」



視界がまだぼやけていた。でも、その中に――違和感。



何かが、光っている。



窓からの光じゃない。スマホの通知でも、天井の照明でもない。



……視界の左下。ほんのりと輝く、小さなアイコン。



何度まばたきしても、目をこすっても、消えない。



「……顔洗えば、さすがに消えるだろ」



洗面所に向かい、水を勢いよく顔にかける。タオルで拭き、鏡を覗いた――



……そこにも、あった。



ゲームのメニューみたいな、小さなアイコン。



鏡の上でも、部屋の中でもない。確かに、自分の“視界”に浮かんでいる。



「……なんだよ、これ……」



おそるおそる手を伸ばしてみた。アイコンを触ろうとするが、指は空を切るだけ。



ただ、目線を動かすと、アイコンも一緒に動いた。



「まさか……これ、目の中に!? いや、どういうこと!?」



心臓がドクンと跳ねた。



「落ち着け……落ち着け、レン。これは……アニメとかでよく見る、“システム”ってやつか?」



“ステータス表示”とか“好感度バー”とか、そういうやつ?



何とか“選択”しようと意識してみるが、特に変化はなかった。



――その時。



「オニーちゃん、起きてー! おばさんが起こしてって言ってたよー!」



ドアの向こうからサユリの声。



「あっ、今行く!」



慌てて制服に着替えてリビングへ。



――が、歩きながらも何度か、空中をつつくような仕草をしてしまう。



サユリが怪訝そうにこちらを見ていた。



「なにその動き……虫でも見えてるの?」



「な、なんでもないって!」



レンは誤魔化すように笑った。



――その時。



彼女を見ると、表示が変わった。



彼女の隣に、新しいバーが浮かび上がった。半分ほど緑色に光る、横長のゲージ。



「え……?」



レンはそれに触れようとする。



「変なことしてないで、ごはん食べて! あたしが作ったんだからねっ!」



サユリがムスッとしながら、手を腰に当てて言った。



「あ、うん! すぐ食べる!」



レンは席につき、サユリも向かいに座る。



朝食を食べながら、レンはチラチラとそのバーを見ていた。すると、ふと気づく。



「……これ、めちゃくちゃ美味しいじゃん。サユリ、料理うまいな!」



「……ほんと? えへへ♪」



サユリは照れ笑いを浮かべ、頬がほんのりピンク色に。



――ピコーン。



バーがググッと上昇。半分から、ほぼ満タンまで跳ね上がった。



「動いた!? 今、バーが動いた!」



「もう! 食べながら見つめるのやめてよっ!」



――ピコーン。



バーが一気に下がり、元より低くなった。



「えっ!? 減った……?」



レンは固まった。



「これって……まるでゲームみたいだ。褒めたらゲージが上がって、変なことしたら下がる……?」



戸惑っていると、新たな表示が浮かんだ。



《ラブシステム 起動完了》



毎日の好感度ミッションを開始します。



レンの目が大きく見開かれる。



「ラブシステム……!? マジかよ」



「恋愛をサポートしてくれるシステム? 恋ゲーみたいに? でも……俺、そもそも恋愛経験ゼロなんだけど……」



ふっと、乾いた笑いが漏れる。



「でも……もしかしたら、これで変わるかもしれないな」

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