第3話 姉の行方がわからない

「人探しか。詳しく聞こう」


 朔は紅茶に口をつけながらそう言った。


 真白は暗い顔のまま話し始める。


「姉の名前は綿貫音黒《わたぬきねくろ》っていいます。うちの家って父親がめっちゃお金に厳しい人で、姉も私もそれが大嫌いでした。でも、姉は小さい頃から「大人になったら一緒に逃げよう」って言ってくれました。そのおかげで辛いことも二人なら乗り越えてこられた…」


 ピンク色のヘアピンに彼女の手が伸びた。


 よく見るとヘアピンはかなり使い込まれていた。


 普通ならとっくに買い換えていてもいいレベルだ。


(そうしないということは──)


「姉が帰ってこなくなったのは2週間前からです。何の前触れもありませんでした。それまではいつも通りのゴミみたいな日常でしたが、姉が黙って居なくなることはなかったんです」


 その目には音黒への信頼の厚さが見て取れた。


 この子は本心から音黒のことを心配している。


 案内人が連れてきたのだからその辺は元から心配していない。


 真白自身が騙されてるとかじゃない限りこの情報は信頼しても大丈夫だろう。


「警察には?」


「両親に止められて行けませんでした。他所にバレたらどうするんだって言われました。勝手に行こうとしたら殴られたし」


 真白は頭を触りながらそう答えた。


 自分の子供に手をあげるとは中々厳しい親である。


「なるほど。生憎、人探しの依頼報酬は少し高くなってる。そこは大丈夫か?」


「ぶ、分割払いでもいいなら…覚悟してます…!」


 真白は後には引けないという覚悟を決めた顔をしていた。


 朔もそれを見て、心の内であることを決めた。


「わかった。その依頼、帳外屋が引き受けた」




 真白に簡単な契約書類を書いてもらっている間、朔は外出する準備をしていた。


 腰にホルスターをつけて銃を装備すると、それを見ていた真白がぽつりとつぶやく。


「銃だ…それ、持っていても犯罪にならないんですか?」


 真白は朔がいつも持っている単発式の銃に釘付けだった。


「表世界の日本では犯罪だ。だが、使い方を知らなければおもちゃの銃と変わらん」


「犯罪なんだ…」


 真白は少し気まずそうな表情をした。


(うち、言われたままにここに来たけど、本当に大丈夫なのかな…)


 真白はまだ朔のことを信用できずにいた。


 そもそもここってどこなんだろうか。


 つれつれさんに言われた扉を開けたら、この変な街に来ていた。


 聞こえてくるのは日本語だが、外にいる人たちはみんなお酒に酔っている。


 それに、声をかけてきたあの狐のお面の人たちは見るからに怪しかった。


 無理やり連れていかれたりとかもなく、道を聞いたら親切に教えてくれたけど、集団であの格好をしているのは明らかに怪しい。


 笑顔で対応してくれたのが、逆に不気味だった。


 でも、そんなことを気にしてる余裕は今の真白にはない。


 今は音黒のことを一刻も早く探さなければいけないからだ。


 音黒は自分にとって半身のような存在。


 真白が取れる選択肢はもうこれしかないのだ。


(なら、相手が都市伝説でも犯罪者でもなんでも使ってやる…!)


 真白はその不安げな表情の裏で、密かに決意を抱いていた。

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