十話 苦難の末

 「ジン君何か策はあるかい?異能制御障害者の相手は初めてで一体どうすれば....」

 「大方あの巨大な翼から力を得ていると思う。俺一人で何とかするからアッシュはシェイラを連れて下がって」

 

 アッシュにそう答えるや否や、予備動作もなしに、フィオナが距離を詰めて、先程よりも数段素速い動きで、剣先をシェイラに首に向けて突き出す。反応出来ずにいたシェイラの膝に足をかけてシェイラを転倒させると、素早い動きでアッシュがシェイラを抱えて後ろに跳び退く。フィオナが突き出した銀色の剣の剣先が虚空を突き刺し、伸び切った腕を掴み捻り上げる。すると銀色の剣が手からこぼれ落ち、剣が地面に落ちた瞬間金色の淡く光る粒子と化し消えていく。

 フィオナが虚な表情でもう片方の手に銀色の短剣を生成し、フィオナが自ら掴まれた腕を斬り離し、巨大な両翼を羽ばたかせて、宙に飛び上がる。巨大な黄金に輝く翼がより一層輝くと、腕は切り口から肉や血管が生々しく蠢きながら再生していた。

 フィオナが徐に手を掲げると黄金に輝く大量な星の様なものが天井を覆い尽くす。

 まるで満点の星を見上げている様だった。

 その星々の形状が変化して黄金に光輝く剣を形作り切先が地面に向けられる。フィオナはただ無機質な表情で睥睨していた。


 「フィオナちゃんを返してよ!フィオナちゃんを返して!まだ会ったばかりで何も知らない、今まで何を経験して、どんな思いをしてきたか何にも分からない。フィオナちゃんの事を何も知らない。でも....でも.....フィオナちゃんは...こんな皆んなを傷つける事をする人じゃないと思う....フィオナちゃんを返して!」


 シェイラがそう涙ぐみながらフィオナに悲痛に叫びアッシュの制止を振り切りフィオナに向かって走り出す。


 「っっ....!?シェイラちゃん!駄目だ行くな!」


 アッシュがシェイラに駆け寄ろうとするのをリゼがアッシュの手首を掴み引き止める。リゼはただいつもの様に軽薄で楽しそうにフィオナに駆け出すシェイラを見ていた。その目はどこか悲しげで穏やかで温かいものだった。そのリゼの目を見て全てを悟る。

 シェイラがフィオナの真下に着きジンを見つめる。

 シェイラの透き通った紅玉色の虹彩は淡く輝いていた。


 「フィオナちゃんを助けに行く」


 シェイラが静かに、それでも力強く言い放つ。

 そのシェイラの言葉を聞いて微笑む。


 「そうか、行ってこい。任せたぞシェイラ」


 そうシェイラに言うとシェイラが嬉しそうに微笑み力強く頷く。

 シェイラがフィオナを見上げた刹那シェイラが虚空に消える。



 

 失いたくない。まだ出会って間もないけど、気になっている人が居る。ずっと憧れていた友人と呼べる人も出来た。

 失いたくない。そう思うと不思議と身体から力が湧き、恐怖心は既に消えていた。ジンが私を信じて任せてくれたことが何よりも嬉しくて、優しく微笑むジンの笑顔に身体が熱くなった。

 私もジンに助けられた様に誰かを助けたい。私は出来る、ジンに信じて貰えたからのだから。

 フィオナを見上げる。今までよりも鮮明に、手に取る様に空間を把握出来た。

 フィオナの真正面、手を少し伸ばせば触れpられる場所に狙いをつけて異能を行使する。

 ほんの一瞬の暗転の後、狙い通りの場所に現れる。

 目の前の大切な友人は私に目を向けることなく、ただ無機質な目で今にも掲げた手を振り下ろし、黄金の剣の雨を降らそうとしていた。


 「助けに来たよ、フィオナちゃん」


 目の前の大切な友人を抱きしめて耳に顔を寄せて囁く。フィオナの背中に手を回して、翼に触れる。フィオナの翼を空間ごと切り取り、フィオナの後方の空間と交換する。フィオナの目が閉じて体から力が抜ける。シェイラはフィオナを抱き合ったまま落下し始める。

 地面を見て狙いをつけて空間を交換し、無事に地面に着地して、地面にゆっくりフィオナを横たえる。

 見上げると、天井を埋め尽くしていた黄金の剣が粒子になって消え失せていた。

 フィオナの顔を覗き込むと穏やかに息をしながら意識を失っていた。

 

 「良かった」


 フィオナの様子に安堵して体中の力が抜けてへたり込む。

 目の前にジンが歩み寄り見上げるとジンは優しく微笑みながら手を差し伸べながらゆっくり口を開く。


 「よく頑張ったな、お疲れ様シェイラ」


 そのジンの言葉で体の芯が熱くなる。ジンの大きくて逞しい手を掴み、立ち上がりジンに笑いかける。気づいちゃったな、私きっとジンのことが好きなんだな。


 

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