六話 殺意

 様子を見るためにシェイラにゆっくり歩み寄ると、シェイラが緊張した様子で自分に手を伸ばす。瞬間一瞬でシェイラが跡形もなく消え失せる。その直後、シェイラの近くにある岩が消え失せて地面から十メートル程の空中に突如現れ、自分の後方に落下する。成程瞬間移動系か。

 そのままシェイラが自分に向かって駆け出し鋭く顎を狙って蹴り上げる。シェイラの放つ鋭い蹴りを後ろに飛び躱す。シェイラが俺と同じ速さで追従して俺の膝を足場にして駆け上がり首筋に飛び蹴りを放つ。首筋に手をいれて防ぐが思ったより重く驚く。シェイラの体術に目をみはる。余裕でヘルマンよりも強いだろう。

 シェイラの猛攻を軽くいなすと、シェイラが突如後ろに退がるり、地面に向かって手を伸ばす。次の瞬間目の前の地面が音もなく切り取られたように抉り取られていて無くなっていた。直後自分の頭に地面から抉り取られて消え失せていた巨大な岩が現れ、俺を押し潰そうとしてくる。

 岩を片手で受け止めて、シェイラに放り投げると、シェイラが人差し指と親指で投げられた岩を囲むようにして枠を作った瞬間岩が消え失せてシェイラの左側に現れる。


 「空間を切り取って瞬間移動させるのか」

 「そうだよ、正確には切り取った空間を別の場所の空間と入れ替えるんだよ」


 シェイラが息を切らしながら答える。シェイラを見ると目から血涙を垂らしていた。見るからに限界だ。そう何度も使えないのだろう。

 地面を蹴りシェイラの背後に回り込み肩に手を置くとシェイラがゆっくりと後ろを振り向き笑いかける。シェイラの体から力が抜けて地面に崩れ落ちそうになるのを、支える。


 「リゼさん」

 「はいよ」


 リゼがシェイラに近づきシェイラをリゼに引き渡すと、リゼがシェイラを優しく抱きかかえて、頭を撫で回す。


 「なにしてるんですか?早くしてください」

 「だって、こんな綺麗な子を撫で回す機会なんてそうそうないよ、ちょっとくらい......」

 「駄目です」


 リゼを冷たく眺めて、毅然とした態度で言うと、リゼが渋々シェイラの額に手を当てる。数秒経った後にシェイラがゆっくり目を開ける。


 「んん.....」

 「目が覚めたようだね」


 リゼがシェイラに微笑みかけると、シェイラがゆっくり立ち上がる。


「負けちゃいました」


 シェイラが朗らかな笑みを浮かべながらそう言う。その様子は悔しさなど感じられず、どこか嬉しそうだった。


 「シェイラ手加減したの?初手にジンの体を空間ごと切り取ればシェイラの勝ちだっただろ」


 そうアッシュが言うとシェイラが苦手笑いしながら首を振る。


「この異能は空間の正確な認識が必要なんだけど、私はまだそこが今一で、精度が悪いの。あの切り取った岩をジンの上に移動させるだけでも凄く大変なのに動く人を正確に捉えて切り取るような事はできなくて....」

 「ただの雑魚かよ」


 ヘルマンが吐き捨てるように言うと、シェイラがうつむき肩を震わせる。

 先程地面に這いつくばって、のたうち回っていた奴が言うとは....。フィオナがヘルマンを睨みつけ、アッシュのこめかみに青筋が浮かび出る。

 

 「シェイラはお前よりも強かったぞ、考えなしに馬鹿みたいに火を撒き散らすことしか能がないお前より遥かにね」


 ヘルマンに向かって冷たく言い放つと、シェイラが驚いたように俺を見上げる。

 ヘルマンが怒りで顔を歪ませて口を開こうとした瞬間、リゼが間に入る。


 「はいはいーいそこまで、ヘルマン、シェイラちゃんに謝りなさい」

 「なんで俺が?謝らないぞ!」

 「負けた分際で他人をとやかく言う資格なんてないでしょう?負けたヘルマンくん?」


 そうリゼがヘルマンに嫌味たっぷりに言うとヘルマンが、渋々シェイラに顔を向ける。


 「.....悪かったな」

 「はい....」


 シェイラがそっぽ向きながら返す。のを見たリゼが笑みを浮かべながら頷く。


 「はいよく謝ればしたね。じゃあ次行こう、次は誰がやりたい?」


 リゼがそう問いかけると、アッシュが前に出る。


 「次は僕がやります」

 「誰とやりたい?」


 リゼがアッシュにそう言うと、アッシュはヘルマンに近づく。


 「こいつとやります」


 アッシュが底冷えするような笑みを浮かべながらヘルマンを指差す。

 

 「よしわかった」


 そのまま二人が空間の真ん中に向かい合うように立つ。ヘルマンが苛立った様子でアッシュを睨みつけて、アッシュが涼しい顔で受け流す。


 「リゼ指揮官、うっかり殺しても良いんですよね?」

 「まぁ良いけど」


 リゼがそう答えると、アッシュがヘルマンに笑いかける。どこか狂気を感じる笑みに、ヘルマンの表情が硬くなる。

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