第36話 大人と子供の狭間で

東の地平線に、黒い軍勢が現れた。


「あれが大人至上主義帝国...」


真一が望遠鏡を覗く。


軍勢は全員、厳格な黒い軍服を着ていた。整然とした隊列で、一糸乱れぬ行進をしている。


「なんか...息苦しそう」


アルケミアが顔をしかめる。紫の研究服から、不快感が滲み出ている。


「子供は一人もいないのね」


セラフィーナが指摘する。純白のローブが、緊張で小さく震えていた。


「いや、いるわよ」


リリスが鋭く観察する。黒のドレスを風になびかせながら。


「後方の檻の中に」


「檻!?」


* * *


確かに、軍の後方には巨大な檻があった。


中には、子供たちが押し込められている。


「ひどい...」


美月が涙ぐむ。白いワンピースを握りしめている。


「なんでそんなことを」


答えは、すぐに分かった。


帝国の使者が、城門の前に現れたのだ。


「我々は大人至上主義帝国」


使者は、40代くらいの厳格そうな女性だった。


「聖杯を渡しなさい」


「理由を聞こうか」


エリザベートが交渉に当たる。黒のスーツで、ビジネスライクに。


* * *


「子供は社会の寄生虫」


使者の言葉に、全員が凍りついた。


「生産性がなく、ただ消費するだけ」


「だから?」


「聖杯の力で、全ての人間を永遠に大人にする」


「子供は二度と生まれない」


「効率的な社会の完成よ」


「...正気か?」


真一が呆れる。


「それじゃ人類は滅びる」


「構わない」


使者は冷たく言い放つ。


「今いる大人だけで十分」


「無駄な存在は要らない」


* * *


「ふざけるな!」


レオンが飛び出してきた。


子供の姿だが、怒りで震えている。


「子供は未来だ!」


「希望だ!」


「黙りなさい、寄生虫」


使者がレオンを見下す。


「あなたのような存在が」


「社会の重荷なのよ」


「この...!」


レオンが殴りかかろうとした瞬間。


バシッ!


使者の平手打ちが、レオンを吹き飛ばした。


「レオン!」


* * *


「子供に手を上げるなんて」


セラフィーナの目が、怒りで光る。


普段の慈愛に満ちた聖女の顔が、恐ろしい形相に変わった。


「許さない」


「あら、聖女様」


使者が嘲笑う。


「偽善者の典型ね」


「子供を甘やかして」


「社会を堕落させる」


「違う!」


今度は美月が前に出た。


「子供は宝物!」


「愛されるべき存在!」


しかし、使者は鼻で笑う。


「感情論ね。だから女は」


* * *


「おい」


ついに真一がキレた。


「交渉決裂だ」


「帰れ」


「聖杯は渡さない」


「なら、力ずくで」


使者が指を鳴らすと、軍勢が動き始めた。


「全軍、進撃!」


「子供どもを盾にしろ!」


なんと、檻の中の子供たちを最前線に押し出してきた。


「卑怯な...」


エリザベートが歯噛みする。


「子供を盾にするなんて」


「これじゃ攻撃できない」


* * *


その時、思わぬ助っ人が現れた。


「あらあら」


妖艶な声と共に、ルシファーが姿を見せる。黒いドレスが、禍々しく揺れている。


「面白そうなことしてるじゃない」


「ルシファー!」


「千年ぶりの大戦争?」


「ワクワクするわ」


さらに。


「待たせたな!」


グレイブとバルキリーも駆けつけた。


子供の姿だが、闘志は健在だ。


「ガキの姿でも」


「根性は変わらねぇ!」


「そうよ!」


バルキリーも小さな拳を振り上げる。


「舐めんじゃないわよ!」


* * *


「みんな...」


真一が感動していると、さらに援軍が。


「お困りのようね」


ファントムまで現れた。


黒いボディスーツで、屋根の上に立っている。


「子供を虐げる大人なんて」


「盗む価値もないわ」


「ファントム!」


「今日は特別サービス」


「あの檻の子供たち」


「全員盗んであげる」


そして、パラダイス・シティの住民たちも集まってきた。


子供も大人も、全員が怒っている。


「子供は宝だ!」


「守るぞ!」


* * *


「く...」


帝国軍の使者が動揺する。


「まさか、これほどとは」


「当然よ」


リリスが妖艶に微笑む。


「ここは、やべー女たちの街」


「常識なんて通用しない」


作戦開始。


ファントムが煙幕を張り、

ルシファーが幻術で敵を混乱させ、

その隙に真一たちが檻の子供を救出する。


「今だ!」


グレイブとバルキリーが、小さな体で檻を破壊。


「みんな、逃げろ!」


解放された子供たちが、次々と逃げ出す。


* * *


「作戦が...」


帝国軍が総崩れになる。


子供という盾を失い、士気も低下。


「撤退だ!」


「撤退!」


あっという間に、帝国軍は逃げ去った。


「やった!」


子供たちが歓声を上げる。


「ありがとう、お兄ちゃんたち!」


「お姉ちゃんたち!」


真一たちも、笑顔で応える。


しかし、使者は最後に不気味な言葉を残した。


「覚えていなさい」


「聖杯の封印が解けたら」


「必ず奪いに来る」


* * *


戦いは終わったが、脅威は去っていない。


「あと35日...」


真一が呟く。


「まだ何か起きそうだな」


「でも、大丈夫よ」


セラフィーナが微笑む。


「みんながいれば」


「そうね」


エリザベートも頷く。


「やべー女たちと」


「やべー仲間たちがいれば」


「なんだって乗り越えられる」


その夜は、盛大な祝勝会が開かれた。


子供も大人も、分け隔てなく楽しんだ。


平和な時間。


でも、それも長くは続かなかった。


翌朝、とんでもない知らせが届く。


次回予告:

「聖杯の真の力が明らかに!」

「世界の命運を賭けた戦い!」

「やべー女たちの真価が問われる!」

第37話「聖杯の真実」、衝撃の展開!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る