第9話 愛の巣、崩壊率100%

「愛の巣♪ カップル専用の素敵な物件ができたわよ~」


リリスが甘い声で宣伝文句を読み上げた。今日は真っ赤なビスチェにミニスカートという挑発的な装い。胸を寄せるポーズで、深い谷間が男性客の視線を釘付けにする。


「またろくでもない企画を...」


真一が呟いたが、既に数組のカップルが興味を示していた。


「一緒に暮らせば、愛がもっと深まるわよ♪」


リリスが妖艶に微笑む。長い黒髪を耳にかける仕草で、白い首筋と赤いイヤリングが艶めかしく光った。


「家賃も二人で割れるし、お得ですよ」


エリザベートが現実的な売り文句を付け加える。今日は白いブラウスにタイトスカートだが、ブラウスが薄手で黒いブラジャーが透けて見える。


「設備も最新よ」


アルケミアが自慢げに言った。白衣の下はタンクトップとショートパンツで、かがんだ時に白い太ももが眩しい。


「私の祝福もかけてあるから、幸せな空間になってるはず」


セラフィーナも協力したらしい。純白のワンピースが風で揺れ、スレンダーな脚のラインが浮かび上がる。


* * *


最初の入居者は、付き合って3年目のカップルだった。


「そろそろ同棲を考えてたんです」


男性が照れくさそうに言った。


「結婚も視野に入れて」


女性も幸せそうに彼の腕に寄り添った。


「あら~、素敵♪」


リリスが二人の間に立ち、両側から腕を組んだ。柔らかい胸が男性の腕に押し付けられ、彼の顔が赤くなる。


「永遠の愛を誓い合うのね♪」


その瞬間、リリスの目が妖しく光った。真一だけが気づいた不吉な兆候。


契約書にサインし、カップルは嬉しそうに鍵を受け取った。


「お幸せに~♪」


リリスが手を振って見送る。スカートがひらりと舞い、赤いレースの下着がチラリと見えた。


真一は嫌な予感を抱きながら、二人の後ろ姿を見送った。


* * *


3日後。


「別れました」


カップルが暗い顔で事務所に来た。


「えっ?」


エリザベートが驚いて立ち上がった。その拍子に胸が大きく揺れる。


「なぜ?」


「分からないんです...急に些細なことが気になり始めて」


男性が頭を抱えた。


「食器の洗い方とか、歯磨きの仕方とか」


「今まで気にならなかったことが、すごく嫌になって」


女性も涙ぐんでいた。


「あらあら、残念ね♪」


リリスが同情するような声を出したが、その目は楽しそうに輝いていた。


* * *


2組目のカップルも、1週間持たなかった。


「彼のいびきが許せなくなって」

「彼女の化粧品の散らかり方が我慢できなくて」


3組目は、もっと早かった。


「料理の味付けで大喧嘩に」

「なんであんなことで...」


真一は確信した。


これは、リリスの仕業だ。


「ちょっと話がある」


真一はリリスを部屋の隅に連れて行った。


「なあに?」


リリスが小首を傾げる。その動きで胸元が大きく開き、赤いレースで包まれた豊満な胸が覗いた。


「物件に何か仕掛けたでしょう」


「あら、気づいちゃった?」


悪びれもなく認めた。


「なんで破局させるような真似を」


「だって、それが私の本質だもの♪」


リリスが真一に体を寄せてきた。甘い香水の匂いと、柔らかい感触に一瞬くらっとする。


「愛を壊すことで、真実の愛を見つけるの」


「意味が分からない」


「簡単に壊れる愛は、本物じゃないってこと♪」


* * *


「大変!」


アルケミアが慌てて駆け込んできた。白衣がはだけ、紫の下着が丸見えだ。


「4組目のカップルが...」


現場に急行すると、カップルが物件の前で大喧嘩していた。


「もう顔も見たくない!」

「こっちのセリフよ!」


お互いに荷物を投げ合っている。


「ストップ!」


セラフィーナが間に入った。聖なる光で二人を包む。


しかし...


「効かない?」


セラフィーナの浄化でも、二人の怒りは収まらなかった。


「私の術の方が強いから♪」


リリスが得意げに言った。


* * *


「もうこんな商売やめましょう」


真一が提案したが、エリザベートは首を振った。


「でも、需要はあるのよ」


確かに、破局したにも関わらず、新しいカップルが次々と申し込んでくる。


「本当に愛し合ってるなら、乗り越えられるはず」

「私たちは大丈夫」


みんな自信満々だった。


そして、みんな破局した。


成功率0%。いや、破局率100%。


「これじゃ別れさせ屋じゃないか」


真一が頭を抱えていると、意外な客が来た。


「あの...もう一度入居したいんです」


最初に破局したカップルだった。


「え?」


「別れて気づいたんです。やっぱり彼/彼女が必要だって」


「小さな欠点なんて、愛してる証拠だって」


二人は手を繋いでいた。


* * *


「へえ...」


リリスが興味深そうに二人を見つめた。


「一度壊れて、また結ばれた愛...素敵♪」


「じゃあ、もう邪魔しないで」


真一が釘を刺すと、リリスは唇を尖らせた。


「つまんない」


でも、次の瞬間にはまた微笑んでいた。


「でも、いいわ。他のカップルで遊ぶから♪」


「やめなさい!」


結局、リリスの「愛の巣」は、カップルの試練の場として有名になった。


「ここを乗り越えたら本物の愛」


そんな都市伝説まで生まれた。


破局率は相変わらず高いが、復縁するカップルも出始めた。


「これはこれで、ビジネスとして成立してる...?」


エリザベートが売上を計算しながら呟いた。


「愛の形は人それぞれね」


セラフィーナが達観したように言う。


「面白いデータが取れそう!」


アルケミアが破局カップルの統計を取り始めた。


真一は諦めの境地に達していた。


この人たちに常識は通用しない。


でも、不思議と楽しい毎日だった。


【次回予告】

ライバル不動産会社「ホーリーハウス」襲来!

正統派ビジネスVSやべー不動産の全面対決!

「普通の商売で勝負よ!」「普通って何?」

第10話「不動産戦争、開戦」へ続く!

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