第24話:第二部クライマックス、一体滑空翼完成間近

地下深くの古の工房。

完成間近の「単翼滑空器」を中心に、

熱気に包まれていた。

アリアンナ、ゼファー、フィリップの三人は、

最後の調整に余念がない。

金槌の精密な音が、金属を叩く微かな音に変わる。

ルーンを刻む魔導具が、光の粉を散らしながら、

機体の表面に最後の魔導符を刻んでいく。

フィリップの手が、ルミナスヴァインの導管を、

一本一本、完璧な位置に固定していく。

その指先は、まるで熟練の職人のようだった。

機体は、これまでの試作機とは一線を画す、

圧倒的な存在感を放っていた。

流線型の翼は、光を吸い込むように輝き、

その巨大な翼は、今にも空へ飛び立ちそうだった。

骨組みを成すクラウドウッドは、

フィリップの魔法でさらに強度を増し、

ゼファーが精巧に組み上げた魔導回路は、

ルミナスヴァインの導管を通し、

機体の隅々まで魔力を伝達する。

表面の光沢は、工房の炉の炎を反射し、

不気味なほどに美しく輝いていた。

それは、彼らの夢と努力が結晶した、

まさに奇跡の魔導機だった。

完成した機体からは、

微かに魔力の波動が感じられた。

その波動は、まるで、

生きているかのように脈打っている。


ゼファーは、最終的な魔力伝達効率を測り、

満足げに頷く。

彼の顔には、油の汚れと、

連日の疲労の色が深く刻まれているが、

その瞳には、隠しきれない誇りが滲んでいた。

「完璧だ、姫様。

これ以上の調整は、無意味でしょう。」

彼は、そう言って、

小さな布で手についた煤を拭った。

フィリップも、機体の表面を優しく撫で、

その滑らかな感触を確かめる。

「この素材は、きっと空の風を、

優しく受け止めてくれるでしょう。」

彼の瞳には、慈愛のような光が宿っていた。

アリアンナは、その機体を見つめ、

感無量といった表情で、目を輝かせた。

彼女の頬を、熱いものが伝い落ちる。

それは、歓びの涙だった。

だが、すぐに指で拭い、満面の笑顔になる。

彼女の頭の中では、

すでにこの箒が、大空を自由に舞っている。

三人は、完成した機体を囲み、

しばし言葉もなく、その雄姿を見上げていた。

工房の空気は、彼らの熱い情熱と、

成功への確信で、満たされていた。

静寂の中、彼らの心は一つになっていた。


王宮は、姫の規格外の研究によって、

常に活気と希望に満ちていた。

姫の資材要求は、

王国全体の魔力脈を刺激し、

新たな鉱脈の発見と、

資源の産出量増加という、

莫大な富を生み出し続けていた。

財務長官は、日々増え続ける国庫の資材記録に、

驚きと困惑を覚えながらも、その顔は、

どこか誇らしげだった。

彼は、机の引き出しから、

最新の予算報告書を取り出し、

その数字を指差しながら、小さく笑った。

「姫様のご研究は、我が王国に、

まさしく『奇跡』をもたらしておりますな……。

これほどの富、我が国の歴史にも前例がございません。」

彼は、そう呟き、深くため息をついた。

王室直属の鍛冶場では、

姫のプロジェクトで腕を磨いた職人たちが、

ゼファーが考案した新たな合金の製法を応用し、

より軽量で強靭な魔導具の開発に成功していた。

彼らの技術は、王国内で最高峰とされ、

他の貴族からも、技術指導の依頼が殺到していた。

「あの鍛冶屋に頼めば、不可能はない。」

そんな噂が、職人街に広まっている。

王国の技術基盤は、姫の夢を追うことで、

知らず知らずのうちに、格段に押し上げられていたのだ。


王宮の廊下では、侍女たちが、

姫の「空を飛ぶ箒」の噂を、

興奮気味にひそめきと囁き合っている。

「今度こそ、本当に飛べるらしいわよ!」

「王女様は、まさしく天才ね!」

その噂は、王都の市井にまで広まり、

活気ある人々の間に、漠然とした期待を生んでいた。

街の広場では、子供たちが、

木の棒を箒に見立てて走り回り、

「いつか、僕たちも空を飛べるようになるのかな?」

と目を輝かせていた。

小さな手で、拙い紙製の飛行機を空に飛ばす。

その瞳は、未来への希望に満ちていた。

姫の夢は、もはや彼女一人だけのものではない。

王国全体を巻き込み、

希望の光を灯し始めていたのだ。

活気に満ちた王都全体が、

姫の夢の実現を、

心待ちにしている。


「単翼滑空器」、アリアンナの「箒」は、

国王主催の盛大な祝宴で、

その姿を公にする予定だった。

それは、王国の歴史に新たな一ページを刻む、

壮大なデモンストレーションになるだろう。

国王も、姫の偉業を国民に披露するため、

入念な準備を進めていた。

王宮の広間は、祝宴のために豪華に飾り付けられ、

王国の紋章が、誇らしげに掲げられている。

貴族たちは、その歴史的瞬間に立ち会えることに、

興奮を隠せないでいた。

遠くの国々からも、

姫の規格外の才能の噂を聞きつけ、

密かに使節団を送ろうとする動きも見られた。

アリアンナは、完成した機体を見つめ、

早く空へ飛び立ちたいという、

強い願望で瞳を輝かせていた。

王宮の静けさの中、

姫の空への夢は、最終段階へと、

着実に歩みを進めていた。

それは、期待とワクワク感に満ちた、

壮大な冒険の終着点へと、

向かう準備だった。

この工房で培われた技術と情熱が、

やがて王国全体を、

そして世界を変えていくことを、

姫は、既に予感していた。

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