第23話*
「んっ……うっ……ここは――?」
私は、薄暗い不気味な一室で目を覚ました。
壁は石で出来ており、小さな虫が壁を這っていたり、ところどころ苔むしている。
さらには、鉄製の扉に鉄格子――まさに牢獄のような場所だ。
「うっ――」
その時、私の脇腹が痛んだ。
そういえば、ブラッドに脇腹を抉られたんだった。
痛むとは言え、以前ほどの痛みがない。
私は服を捲り上げ、その傷を確認する。
「あれ――」
確かに傷はあるものの、出血だけが収まっていた。
一体私は、どれほど意識を失っていたのだろうか。
「うぅっ――」
フラリと立ち上がると、貧血のせいか、視界が大きく歪むほどの立ちくらみと目眩がした。
するとその時、ブラッドとティールが会話をしながら私の方にやってくるのが聞こえた。
「――ひっひっひ。坊ちゃん、作戦が成功したら、あの女どうします?」
「がはははは! まぁ俺の下でグチャグチャになるまで働いてもらうかぁ」
なんだと――?
私は耳を澄まして、奴らの会話を聞いていた。
奴らの会話の内容について、詳しくは分からなかったが、『作戦』と言っていた。
一体私を捕まえて、何を企んでいるのだろうか。
「おや、もう目を覚ましていますねぇ」
「がはははは、哀れだな」
すると、鉄格子の向こう側で、ニヤリと笑いながら私を見つめるティールとブラッドが現れた。
そして、鍵を使って鉄の扉を開けると、2人して牢獄の中に入ってきた。
「――ここは一体どこなのだ?」
私は奴らに鋭い視線を向けて問いかける。
すると、意外なことに奴らはあっさりと答えた。
「ここか? ここは悪魔帝国ディンメルの魔王城地下牢獄さ! 言っておくが、どれだけ泣き叫んでも、誰もやって来ない、無駄な抵抗はやめた方がいいぜ?」
奴の言う通り、ここが地下牢獄なのだとしたら、仮に叫んでも上に声は届かないだろう。
血は止まっているにしろ、脇腹の傷は深傷だ。
大声を出して腹部に力を入れるのは、返って自らを危険に曝すことになる。
次に、ブラッドが私の脇腹を指さしながら、醜悪な笑みを浮かべた。
「あぁあと、お前のその脇腹の傷、お前が死なねえように俺の力で一時的に止めてはいるが、抵抗したり変なことをしようとしたらすぐに解除して、お前を出血しさせるからな?」
「ぐっ――」
そういう事だったのか。
つまり私の生死は、こいつの気分次第で決まるということ――。
その事実が、私を屈辱たらしめた。
「では坊ちゃん。私はそろそろ準備の方を……」
「おう、しっかりやれよ。俺はこの女と一発ぶちかますからよ」
「ひっひっひ。殺さないでくださいよ」
そう言って、ティールは牢獄から出て、どこかに向かっていってしまった。
一発ぶちかます――私はその言葉の意味を理解できなかった。
だが、言葉をそのまま受け取るなら、またしても私と戦闘しようということなのだろうか――。
───────────────────────
私は会議室を出てからというもの、ある場所に向かっていた。
エイドには、四天王控え室の大男に話を聞きに行くと言ったが、私が用があるのは、あの大男ではない。
というより、あの大男は衛兵が既に別の場所に移しているから、もう控え室にはいないのだが……。
私が今向かっているのは、魔王城の地下にある、地下牢獄という場所だ。
ここには悪質な犯罪を犯した犯罪者たちが収監されている。
というのも、なぜそんなところに単身向かっているかと言うと、あの大男を運ぶために衛兵がやってきた時、その衛兵の鎧に血が付着していたのだ。
確かに衛兵という仕事をしている以上、どこかで血がつくことも珍しくはない。
だが、血がついている上、何やら様子もおかしかった。
まるで、何かに怯えているような……そんな感じがしたのだ。
他にも色々と、私はとある“違和感”を感じていた。
それらがさっきの会議でようやく結びついた……とでも言っておこうか――。
───────────────────────
ティールが居なくなってから、私は牢獄の中でブラッドと2人きりになった。
私は奴の発言から、より警戒心を高めていたが、なぜだか奴に、私に対する殺気を微塵も感じない。
そんなブラッドを怪しく思い、私はブラッドに聞いてみることにした。
「おいブラッド、貴様の目的は何なのだ? 私を捕まえて何がしたい?」
だが、ブラッドも敵に作戦を話すほどバカのようではなかった。
「がはははは! ここまで来てまだ分からないのか? まぁ分からないなら分からないままの方が良いか」
そう言って、ブラッドを私を嘲り笑った。
「それより、あいつはまだまだ来なそうだな……もうそろそろやってしまおうか」
そんな奇妙なことを口にすると、椅子に腰掛けていたブラッドはぶらりと立ち上がり、ニヤリと口角をつり上げながら私の方に歩いてきた。
「――まぁ、これは俺の本望ではないのだがな。あいつに弱みを作るためなのだ。お前にも協力してもらおうか」
「貴様、さっきから何を言って――きゃっ!?」
次の瞬間、ブラッドは私の両手を掴むと、そのまま両腕を上にあげた状態に固定して壁に押し付けてきた。
抑えていた脇腹に痛みが走る。
「おぉ、良い声を出すじゃないか。興奮してきたぞ――」
そう言って、ブラッドは気持ち悪く息を荒らげながら、その額には汗をかいていた。
両腕は奴の片手で拘束され、離れようにも、体に力を入れれば傷口が疼くし、何より逆らえば失血死すると考えると、なかなか抵抗出来なかった。
「んっ――!? くっ――ぐぐっ――」
すると奴は、空いている方の手で私の左脇腹に手を伸ばしてきた。
恐怖はないが、体が緊張してしまっているのだろう。
こんな奴を相手に、体が過敏に反応してしまう。
すると、ブラッドがこんなことを聞いてきた。
「お前、この状況でこの俺を前にして、怖くはないのか?」
「ふんっ――怖いはずがなかろう。敵を目の前に、弱みを見せる剣士がいるか」
私の答えに、奴はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「強がりも良いが、俺としては泣き叫んで欲しいのだ!お前のような気の強い女が、恐怖に泣き叫び、救済を求め、絶望していく様を見るのが、俺は最高に興奮するのだよ!」
「ふんっ――何を言っているのかさっぱり分からんな。私は貴様に恐怖することはないし、泣き叫びも救済の懇願も絶望もしない!」
そう啖呵を切ると、奴は私の目をじっと見つめ始めた――かと思えば、今度は何かを閃いたかのように、一瞬表情が緩む。
「――そうか! そうだったのか! お前は本当にこれから何が起こるのか知らないのだな! この俺が、お前に何をするのか分からないのだな!? がははははは! 良い! 良いぞ! 穢れを知らぬ女に教育する瞬間こそ、最高に興奮するってものだ!」
「さっきから何を――ひっ!?」
その時、ブラッドは私の左脇腹から、腰の方へと手を回した。
その手がそのまま下の方へと降りてくる――。
――私はもう、我慢の限界だった。
「――離れろっ!!!」
「ぐはぁぁああ!!」
奴が私の腕を固定しているのを利用し、私はそのまま両足を振り上げて、奴の鳩尾目掛けて強烈な蹴りを入れてやった。
まさか私が抵抗するとは思ってもいなかったのだろう。
警戒心が完全に解けていた奴は、情けない声を上げながら吹き飛んでいき、後頭部が鉄格子に直撃した。
「ふっ――ぐっ!?」
とりあえず奴を引き剥がすことには成功したが、次の瞬間、私の脇腹に強烈な痛みが走る。
ふと脇腹に目をやれば、先ほどまで止まっていた血が、再び出血し始める。
私が抵抗を見せたから、奴が自身の能力を解除したのだろう。
先の戦闘によって、既に体からかなりの血が失われていた私は、更なる出血によって、もはや立つことすら困難になっていた。
「がはははは! まさか抵抗するとは思わなかったぞ!」
鉄格子に後頭部を直撃したにも関わらず、奴は痛がりもせず、余裕の表情で立ち上がってくる。
「――がはっ! あっ……あっ……」
次の刹那、奴が猛スピードで私の方へと突進し、私の首を掴むと、そのまま後ろの壁へと押し込んだ。
頸動脈が締められ、私は意識を失いかける。
「大人しくヤらせれば、死なずに済んだものを――」
「かっ――はっ! 貴様に――穢されるくらいなら――私は死を選ぶ――」
それでもなお、私は奴に啖呵を切った。
私はこの時、死を悟った。
助けは来ない……私は深傷……相手は魔王候補の屈指の実力者……どれをとっても、私の生きる選択肢は存在しなかった。
「――えっ」
だが次の瞬間、私は目の前の光景に、目に光が宿る。
「おい――貴様――」
なぜなら、そこにやってきたのは――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます