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 最優先ミッションはアレクシアの捕獲だ。

 ムーンライトのメンバーに対しては捕獲もしくは殺害でいいとしている。

 だが、魔道具のミサンガでマインドコントロールされている反政府組織に対しては基本的に捕獲を目標としているが、やむを得ず殺害する事は致し方ないとしていた。

 この世界で躊躇ちゅうちょをみせる行為は死に直結するのだ。


 アレクシアの捕獲手段は二つ用意してあった。

 一つは、アレクシアが岩山の頂きの端に動いた場合、ユウとミオが岩場の陰から忍び寄り、取り押さえる方法だ。

 そして二つ目が、隠ぺいスキルで中央に突き進むおれたちの方に近づいた時、戦闘スキルを持つヒロやリョウ、カトリーヌが取り押さえる事になっている。

 つまり、どちらか近い方が実行する事になっていた。

 ただし、おれたちが取り押さえる場合、アレクシアとの接触により、魔法陣はすべて消滅することになるのだ。


 今、アレクシアは中央寄りに立っている。

 この現状を踏まえれば、アレクシアを捕獲するのはおれたちという事になるのだ。

 おれたちはアレクシアの背後に忍び寄っていた。

 隠ぺい・防御・消音の複合魔法陣を展開しているとは言え、やはり緊張感はあった。


 アレクシアの隣りには常に二人の仲間が立っていた。

 もう一歩踏み込めなかった。

 おれたちは隠ぺいスキルを頼りに、アレクシアの背後2メートル程のところに近づいていたが、アレクシアを守る二人の男たちが邪魔だった。


「用意は出来ているよ」

 と笑里が小声でカトリーヌたちに言った。

 笑里は360度展開する収納魔法の準備に入っていた。

 

 アレクシアの傍にいる、二人の男の、周囲への警戒心は強かった。忠誠を誓うサーバントのようにも見えた。なかなか離れてくれない。

 だけど、そこはユウが機転を利かせてくれた。

 岩場の陰から、あからさまに姿を見せたのだ。

「よお、元気か」


 いきなり堂々と飛び出してきたユウに、相手は、敵か味方か分からず茫然と固まっていたが、アレクシアの左右にいた男二人が、素早く彼女を背後にかくまって少し前に出た。


「今だ」

 井上の号令でカトリーヌが飛び出し、アレクシアを羽交い絞めにして手前に引き込んだ。

 カトリーヌの体が魔法陣に触れた瞬間、すべての魔力が打ち消され、魔法陣が消滅した。


「て、敵だ――いつの間に。ア、アレクシア!」

 二人の男は咄嗟に振り返ったがもう遅かった。

 360度展開した笑里の異空間収納がユウもろとも敵を飲み込んだ。

 一瞬にして敵の姿はなくなった。

「ふぅ――うまくいったね。見事な連係プレーだったよ」

「またおまえかぁ――」

 笑里を見て声を出すアレクシアの口を、カトリーヌが布で塞いだ。

「アレクシア、久しぶりだね」

 笑里が笑うとアレクシアは苦々しい顔を見せた。

「ねぇ、キミはどうしてムーンライトと組んだのよ。キミは以前、わたしたちを拘束した時、言っていたよね。 一般人には危害を加えたくないって。でも、今キミがやっているのは、明らかにあの時のキミの信条に反するものだと思うんだけど」

 笑里がそう言うと、アレクシアは笑里を睨んでいた視線を逸らした。


「ところでさ、ユウはどこだ?」

 ヒロの言葉に笑里が「あっ」と口を押えた。

「ごめん。忘れていた。アハハハハ」

「笑里さん、それ笑っている場合じゃないですよ」

 おれは真剣にそう思った。

「三十人の敵がいるんですよ。早く出してやらないと」

 さすがにそれはマズいだろうと思ったが、

「たいじょうぶ。ユウさんだけ別の部屋を用意しているから。それにね、アレクシアと話している間に、クロロホルムで眠らせているから。――ああ……でもいくら劣化しない異空間収納と言っても、もうそろそろクロロホルムの効力はなくなりそうね」

 言いながら笑里は小さな異空間ゲートを開いた。

 その中は三畳くらいの広さで、ユウは気持ちよさそうに眠っていた。


 その様子を見て、ミオが苦笑いした。

「笑里ちゃんの収納部屋は確かに居心地いいけど、眠るの早すぎるでしょ? いい度胸しているわね、まったく」

「さてと」

 笑里が地面に抑えられているアレクシアの前にしゃがんだ。

「アレクシア、キミにはいろいろと聞きたいことがあるんだよ」

 笑里の言葉を聞いた井上は、頷いた後、新たに空間魔法陣を発動した。

 占拠した岩山一帯に防御・隠ぺい・消音の空間魔法を再構築した。

 空間魔法陣は、初動は目で見る事が出来るが、発動がコンプリートされると、魔法陣は空中に溶け込み、見えなくなるのだ。


 井上の言葉を聞いたカトリーヌが、アレクシアの猿ぐつわを解いた。

 その途端、

「敵だ! 誰か!」

 と大声を上げながら手足をジタバタさせたが、おれたちは慌てなかった。

 声が外に漏れる事はないのだ。

 井上が展開した魔法陣は、先程よりも広く展開していたので、拘束された状態では、アクレシアがどんなに暴れようとも、それに触れる事は出来なかった。

「ちっ」

 アレクシアは舌打ちすると、観念したようにバタバタするのをやめた。

 彼女なりに状況を理解したようだ。


 そんなアレクシアの腕を笑里が取った。

「ふーん、キミもつけているんだ、これ」

 笑里は彼女の腕のミサンガに目を落とした。

 そしてみんなが見つめる中、笑里はアレクシアのミサンガに手を置くと、勢いよく手首からそれを引っこ抜いた。


「えっ?」

「あっ!」

「ち、ちょっと……」

 突然の笑里の行動におれたちは唖然となった。

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