第8話 ノドカ、野菜の種を植える

 フェンリルさんとの契約が済んだあと、私はさっそく風の力を使ってみることにしたよ。


 これでルビちゃんとサフィちゃんを浮かせてあげられたら、きっと二匹とも凄く楽しいと思うからね。


 そんなわけで頑張ってみたけれど、なかなか上手くいかないね。


「う~ん、やっぱりこういうのって一朝一夕にはいかないんだね。ま、ルインさんもモノを浮かせる魔法を使えるようになるのは5年も掛かるって言ってたし、地道に特訓していくしかないってことだね」


 それにしてもちょっと気になるよね、あの山のこと。


 フェンリルさん曰く「妙な動きがある」とのことだけど、ひょっとしてこっちにまで影響出たりしないよね?


 私は山の方角へと視線を向ける。

 するとやはりそこでは、鳥のようなモンスターが旋回している影が見えたよ。


「ひょっとしてアレがドラゴンだったりして……なんて、まさかね」


 そんなふうに考え事をしていると、サフィちゃんが私の足元でぽよぽよとジャンプして、何かを必死にアピールしてきたよ。


 私は少し考えてから「そう言えば!」と思い出した。


「ごめんごめん、サフィちゃんには火消の仕事をしてもらうって話だったよね」

[ぽよーっ!!]

「ダイジョーブ、忘れてたわけじゃないから。本当だよ?」

[ぷいい??]


 なんだか疑わし気なサフィちゃんの視線。

 私は誤魔化すようにサフィちゃんを抱きかかえて、火元までつれていく。


「はいサフィちゃん、お水をぴゅーってして火を消してね!」

[ぷよい! ぴゅうぅ~~!!]


 私のお願いを受けて、サフィちゃんが一生懸命に水を出して、ルビちゃんの火炎を消してくれたよ。


 するとサフィちゃんは大満足といったふうな顔をしていたけれど、ふふふ……実はサフィちゃんにはもう一つ仕事が残ってるんだよねぇ。


 とはいえ、その前にルビちゃんの火炎を借りないとだけどね。


 昼食は、フェンリルさんの登場によって思ったよりも時間を取ってしまった。


 そのせいでフライパンの油は固まってしまって、これを洗うというのは中々に大変そうだよ。


「というわけでルビちゃん、この部分に炎をぶわぁ~~ってお願いね!」


 私はフライパンを左手に持つと、鍋部分を指差したよ。するとルビちゃんはやる気満々になって、大きく息を吸い込むと――。


『ぷゆっ、ぷぼぉおおお!!』


 おおっ、サイコーの火加減だね!

 これで凝固した油が溶けて簡単に洗い流せるようになったよ。


 私はサフィちゃんを頭に乗せて、庭の窓で靴を脱いで、キッチンに直行。また油が固まってしまう前にサフィちゃんの水と石鹸で洗い流したよ。


 そしてルビちゃんはそんな私たちの後ろをついてきて、ぴょんぴょんと跳ねていたよ。


 んもう、なんて可愛らしいんだろう。


 洗い物を終えた私は、ルビちゃんとサフィちゃんをぎゅ~~っと抱きしめてあたげたよ。


 すると二匹ともすっごく嬉しそうにしてくれて、私まで嬉しくなっちゃった。

 そんな私の姿を見てまたもや二匹とも嬉しくなって……なんだか永久機関みたいだね!


 ノーベル賞は私のモンだぜって叫びたくなっちゃう気分だよ!


 フライパンと同じ要領で、他の食器にもルビちゃんの火炎を吐いてもらったよ。


 もちろん木製のものは燃えちゃうといけないから、そこは弱火に調整してもらってね。


「しかし炎と水っていうのは本当に便利だねぇ。ルビちゃん、サフィちゃん、手伝ってくれて本当にありがとうね!」

『ぴきゅい!』

[ぽよっ!]


 さてと。

 無事に洗い物も済んだことですし、次はアレ・・をやっちゃいますか!


「ルビちゃん、サフィちゃん。これからちょっと楽しいことしよっか!」

『ぴぃ?』

[ぽよ?]


 ふふっ、二匹ともピンと来てない様子だね?

 でもそれも無理はないよね。


 だってモンスターが「野菜を育てる」なんてやったことあるワケないもんね。


 私は人参と玉ねぎを適量にカットしてから、包丁で細かく切り分けていったよ。


 それから木製皿の上に一昨日購入した野菜の種(大根・人参・レタス・ブロッコリー)と細かく切り分けた野菜を乗せて、庭の菜園に向かったよ。


 他にもいろいろな野菜の種が売っていたけれど、私はあえてこの四つを選んだ。


 というのも野菜を育てるのにも相性というものがあるからね。


 例えばブロッコリーに虫が付いちゃうとして、その虫の嫌がる匂いをレタスが出してくれりするんだね。


 こういう相性をコンパニオンプランツというよ。


 菜園にやってきた私たちは、まずは細かくカットした野菜を土にまぶしていく。


 それが済んだら次に種を植えて、最後はサフィちゃんに水やりをしてもらって、これで一連の流れは終わりだね。


「ふふふ。ルビちゃんもサフィちゃんも、自分たちが何をしたかよく分かってないでしょ。だから教えてあげるね? なんと野菜っていうのは自分の手で作れちゃうんだよ、すごいでしょ!」

『きゅぴぇぇっ!?』

[ぷよぉぉっ!?]

「ふふっ、やっぱりビックリしちゃうよねえ。私もお父さんとお母さんに初めて教えてもらった時はひっくり返るかと思ったもん」


 ルビちゃんもサフィちゃんも驚いて目が真ん丸になっちゃってるよ、可愛いねぇ。


「ルビちゃん、サフィちゃん。今日はいろいろと手伝ってくれてありがとう。これからも力を借りることがあると思うけど、その時はよろしくねっ!」

『ぴぃっ!!』

[きゅう!!]

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