第5話 ノドカ、森のヌシと出会う
「ふわぁあ~~~、気持ち良いねぇ~~」
その日のお昼頃。
私は、水色スライムちゃんにお願いして浴槽にお水を入れてもらったよ。
ある程度溜まってきたら赤色スライムちゃんが火を吐いて水を温めて、それを私が混ぜていく。
そんなふうにみんなで共同作業を繰り返していると、ついに浴槽がお湯で満たされてて――。
そして私たちは今、一人と二匹で仲良くお風呂に浸かっているのでした!
う~ん、やっぱり熱々の湯船に浸かるのってサイコーだねぇ。
「昨日一昨日と川の水で誤魔化してたから、こうやってお風呂に入れるのがすっごく嬉しいよ。はぁ~、染みる~~」
『ぷゆぅ~~』
[ぽよよ~~]
ふふっ、二匹とも目を閉じて気持ち良さそうにリラックスしているよ。
スライムちゃんって見るからにぷるぷるしてるし、きっと水分の多い場所が好きなんだろうねぇ。
ああ、こうやって二匹を眺めていると余計に癒されてきちゃうよ。
「…………んもうダメだ、我慢できない! えーい!」
私はスライムちゃんたちを抱きかかえて、全力でモニュモニュした。
『ぷにゅっ!?』
[ぽぽいっ!?]
「うへへ、自分で自分のを揉んでも全然気持ち良くないけど、スライムちゃんは最高だね。ツルツルでぷよぷよで。えへへへ、一生こうしてられるよ」
ところで頭も体もどちらも石鹸で洗ったんだけれど、これが意外と悪くなくてビックリしたよ。
そりゃシャンプーには劣るけど……。
もしかしたらメガミーヌ様は、少しでも私がいた世界と文明レベルが近い世界を選んでくれたのかもしれないね。
思い返してみれば、黒パンも悪い味はしなかったよ。
こうやって考えると、至る所に気遣いを感じるよ。
モンスターが弱い森の奥に転生させてくれたり、【イセカイの歩き方】なんて本を用意してくれたり。
家電の類は……たぶんこの世界では使えないから、それで処分しちゃったのかな?
たしかに電気も通らないとなると、ただ単に邪魔なだけだもんね。
なにより一番は、スライムちゃんと出会えたこと。
もちろん単なる偶然って可能性もあるけど……。
『ぷゆゆ~い』
[ぷよいっ、るるん!]
ふふっ。
こんなに可愛い子たちをペットにできただなんて、私ってばツイてるね。
元を辿れば過労死が原因だからそこまで逆算しちゃうと不運ってことにはなっちゃうんだけど。
それを考え始めたら悲しくなるからね。
そういうのは考えないようにしようね。
明けて翌日。
私は黒パンを美味しそうに頬張る二匹のスライムちゃんをニコニコと眺めながら、あることについて悩んでいた。
それは、二匹の名前について。
一匹だけのときは「スライムちゃん」で良かったんだけど、二匹となるとどっちも「スライムちゃん」なんだよね。
かといって一々「赤色スライムちゃん」って呼ぶのもちょっと面倒な感じがするでしょ?
となるとするしかないよね、名付け!
最初は安直にアカちゃん、アオちゃんで行こうと思ったよ。でもアカちゃんって、どうしてもあのバブったいほうが思い浮かんじゃうんだよね。
しばらく考えて、私はあるモノを参考しようと決めたよ。
「赤色スライムちゃん、ちょっといい?」
『ぷゆ~?』
モグモグと黒パンを頬張る赤色スライムちゃん。
窓から差し込む陽光に照らしてみると、半透明なゼリー状の身体を光が通過してキラキラと輝く。
まるでルビーみたいに。
「決めた! 今日からキミはルビちゃんだよ!」
『ぽゆ……ぷゆぃ~~~!!』
私が名前を付けてあげると、ルビちゃんは大喜びで頬ずりをしてくれた。
人間の言葉が分かる賢いスライムちゃんだから、名前を付けてもらえて嬉しいんだろうね。
こんなに喜んでくれると私のほうがもっともっと嬉しくなっちゃうよ。
そんなふうにしていると、青色スライムちゃんがジトーとした目でこちらを眺めてきていた。
「もしかして嫉妬しちゃった? ふふっ、ダイジョーブだよ。もちろんキミの名前も付けてあげるから!」
とはいえ、もうほとんど決まってるんだけどね。
私は青色スライムちゃんを抱きかかえて、ルビちゃんの時と同じように太陽の光に照らしてあげた。
陽光の光は青色の半透明な身体を通過して、キラキラときれいな光を放っていた。
まるでサファイアみたいに。
「キミの名前は今日からサフィちゃん! どーお、素敵な名前でしょ?」
[ぷよよ……ぽよ~~っ!!]
「アハハ、ちょっとちょっと、そんなにペロペロされたらくすぐったいってばあ。あははははっ。もー、こうなったら私のほうこそコチョコチョしちゃうんだからね! えーいえーい!」
[ぽよ~~~!?]
ああ、なんて平和な朝なんだろう。
前世で社会人をやっていた時には、こんな生活は絶対にあり得なかったよね。
届くかどうかは分からないけれど、私は心の中で改めて誓いを立てた。
お父さん、お母さん。
私、この調子でもっともっと幸せになるからね!
たしかに前世では死んじゃったけど、それがラッキーだったって笑って言えるくらいに幸せになってみせるからね!
#
ルビちゃんとサフィちゃんとの戯れはあまりにも楽しすぎて、一緒にお散歩したり川で水浴びをしていたら、あっという間に太陽が真上に昇っていたよ。
「もうそろそろお昼ごはんの時間かな~?」
『ぴきゅいっ!』
[きゅぴー!!]
お昼ごはんという言葉にルビちゃんもサフィちゃんも大興奮。
二匹ともそんなに食べるのが好きなんだね、可愛いやつらめ~!
「ま、今日のお昼ご飯は既に決まってるけどね」
いくら布に包んで冷暗所に保存すると言っても、肉というのは生モノだから早めに食べたほうがいい。
そんなわけだから、今日のお昼はオーク肉って決めてたんだよね。
本当は自分で火起こしするつもりだったけれど、ルビちゃんがいるからその手間も省けて助かっちゃうよ。
私は冷暗所代わりに使っていたキッチン下の収納棚から麻布に包み込んだオーク肉を取り出したよ。
私はキッチンでチーズを薄くスライスして、それをフライパンの上に乗せた。
他に必要なのは包丁とお皿とフォークが一本だね。
スライムちゃんたちはそのまま食べられるから、食器類は要らないよ。
「このままキッチンで料理してもいいけど……」
せっかく庭があるんだし、それにこんなに陽も出てるし、どうせなら外でバーベキューみたいにやりたいよね。
そうだ、ニンジンと玉ねぎも焼いてお供にしちゃおう!
あらかたの道具を庭に持ち込んだあとは、周囲の木々から手頃な枝葉を持ってきたよ。
「ルビちゃん、これに火をつけてもらえる?」
『きゅぴぴっ!』
私がお願いするとルビちゃんは大きく息を吸って、ぼわああっ!! と火炎を吐き出した。
「わお、すっごくいい火加減だよ! ルビちゃんありがとー!」
『ぴきゅい!!』
なんて戯れているとまたもや嫉妬の目。
私はサフィちゃんを抱きしめて、ナデナデしてあげた。
「安心して? サフィちゃんにも仕事があるから。だって、燃えてる火をこのままにしていたら危ないでしょ? お料理が終わったら、そのときは火消しをお願いするね」
私がお願いすると、サフィちゃんは目を輝かせて大きく返事をくれたよ。
んもぉ~~、この子たちってなんて可愛いの?
もはや天使じゃんか!!
って、癒されるのもほどほどにしないとね。
なんたって、お昼のメインはオークのお肉なのだから!
「まずはスライスしたチーズを溶かして油代わりにします。そして、この大きなオーク肉を〜〜、ドーンッ!!」
『ぷよいっ!』
[きゅぷう!]
フライパンにブロック状のオーク肉を乗せると、じゅわわぁぁ……と白煙が立ち込めて、美味しそうな香りが庭一面に充満していった。
「ふ、ふへへ。一体いつぶりだろう、こんなに大きな肉を食べるの」
まだまだ赤身だらけなのに、もうヨダレが出ちゃいそうだよ。
ふと前世の食事を思い出す。
えーと、朝ごはんはゼリー飲料でしょ?
お昼はカップ麺、夜ご飯はパソコンのモニターとにらめっこしながらカップ麺食べて、休みの日はヘトヘトで動けないからカップ麺を――。
ほぼカップ麺じゃんか!!
悲しくなるからもう考えるのやめよーっと。
なぜなら目の前にはサイコーに美味しそうなオーク肉が油を跳ねさせて、まるで宝石のようにキラキラと光り輝いているのだからね!!
きっとこれからの私の人生も、この煌めきのよう……に…………。
直後、周囲一帯に陰りが出来て、陽の光が一瞬で遮られてしまったよ。
「ん? なんだろ」
私が何事かと首を傾げると。
『きゅぴぇええっ!!』
[ぴえええええっ!!]
ルビちゃんとサフィちゃんが同時に胸に飛び込んできた。
目をぎゅっと強く閉じて、小くてぷるぷるのカワイイ体が小刻みに震えているよ。
「ん、どうしたの? なにか怖いことでもあるの?」
私が二匹に問いかけるのと同時に、上空から一つの声が降り下りてきた。
――人間よ。随分と食欲のそそる香りを漂わせているではないか。その美しき肉の塊! 我にも一口、譲らせてやらんこともないが?
「ふえ……?」
私は上空を振り仰いで、そしてギョッと目を見開いた。
そこにいたのは、超巨大な一匹の狼さんだった……!
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