第4話 ノドカ、ブルースライムに水をあげる

 私はアイザックさんと別れ際にもう一度握手を交わして、ルインさんの案内で仕立て屋さんにやってきた。


 今の私の衣装は白無地のワイシャツに黒のスラックス。正直、かなり浮いてると思うよ。


 そんなわけで、麻のチュニックやドレス・スカート、毛織のマントや革のブーツを購入した。


 一番高いのが革のブーツで800ゴールド、次に毛織のマントが700ゴールド。他3点は400ゴールドで買えたよ。


 次は冒険者ギルドに併設された酒場にやってきた。


「私、田舎者なので分からないんですケド、食料品って出店だけじゃなくてこういう場所にも売ってるんですか?」


 酒場は、まだ朝だというのにすごく賑わっていたよ。


 ちょっと不健全な気もしたけれど、そんなのどうでもよくなっちゃうくらいに皆が楽しそうに笑っていて、ちょっと羨ましくなっちゃうね。


「うん、売っているよ。それに、出店と比べると少し良質なものが多いんだ。」

「へえ〜、そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」


 私はペコリと一礼して、ルインさんの案内に従った。


 ここで購入したのは、主にパンだね。

 それから人参と玉ねぎも。


 どれも1つ100ゴールドで売られていて、お財布に優しいね。


 パンは私とスライムちゃんの分を一週間分、お野菜はどちらも1つずつ。それとチーズも購入したよ。


 チーズは500ゴールドもしたけど、長持ちすることを考えればお買い得だね。


 それと、ちょっと贅沢だけどオーク肉も買っちゃったよ。やっぱりお肉は食べたいからね。


 火に関しては、火起こしの心得があるから大丈夫だよ。


「ところで、食料品の保存方法は分かるかい?」


 問われて、私はう~んと頭を悩ませた。

 別に学校の授業をサボっていたわけじゃないけれど、いざとなると案外出てこないんだよねぇ。


「布に包んで冷暗所へ。カビが生えないように乾燥させるのも忘れずにね」

「分かりました、教えてくれてありがとうございます!」


 他には皮製の水筒に入った飲み水も購入したよ。

 こっちの目当ては中身より容器のほうだね。

 すごく利便性が高そうだったから、つい手が伸びちゃった。


 次に隣の冒険者ギルドに行って、お鍋にフライパン、まな板や包丁といった調理器具、食料を保存するための麻の布、それから木製の食器類を購入したよ。


 冒険者ギルドって細かい備品とかも売っててビックリしちゃった。


 中でも一番魅力的だったのは石鹸!

 お値段も100ゴールドとリーズナブルだし、これは買いだね!

 

 最後に連れて行ってもらった場所は農具店。

 私はここで木製の桶といくつかの野菜の種を購入した。


 せっかく菜園があるのだし、お野菜を作らないなんて勿体ないからね。


 これだけ購入しても消費したのは10000ゴールドとちょっと。


 まだ半分近くあるし、しばらくの生活は安泰に過ごせそうだね!




「さてと。他にどこか寄りたい店はある?」

「いえ、もう大丈夫です。欲しいモノはあらかた買えましたので」


 ちなみに私が購入したモノの全てが、現在進行形でぷかぷかと浮遊している。ルインさんの魔法の効果でこうなっているらしい。


 魔法って便利だね。

 いつか私も使えるようになったりするのかな?


 浮遊する荷物に目線を向けていると、ルインさんがクスクスと笑い始めたよ。


 なんだろう?

 私なにかヘンだったかな?


「そんなに魔法が珍しいかい?」

「え? えぇ、まぁ。私そういうのとは無縁でしたから」

「ふうん。ということは、本当によっぽどの田舎から出てきたんだねぇ」

「えへへ。スミマセン、田舎者で」


 私がしゅんとすると、肩の上に乗っていたスライムちゃんが『ぷゆーっ!』と目を尖らせたよ。


 ふふ、私のために怒ってくれるだなんて優しい子だね。


「ダイジョーブだよ、本気で落ち込んでるわけじゃないから。ただ、いつか私も魔法が使えたらなあって思っただけ」

『ぷゆ? きゅうっ!』

「アハハっ、最初に見たときも思ったけど、本当にキュートなスライムくんだ。ま、この程度の魔法なら5年も修行すれば使えるようになるさ。才能にもよるけどね」

「5年……なかなかに大変なんですね」

「なに、これから見せる飛行魔法に比べたら大したことないよ。というわけでノドカさん、そろそろ帰路に就くとしようか」

「あっ、そうですね。それじゃ改めて、本日は本当にありがとうございました。一から十まで全部してもらっちゃって、すごく助かりました」

「うん、どういたしまして。また何かあったら遠慮なく頼ってくれ。それじゃ、僕の手を取って?」


 私は促されるがままにルインさんの手を握る。

 直後、私とスライムちゃんとルインさんは、はるか上空から王都を見下ろしていた……!


「うひゃうっ!?」

『ぷゆうっ!?』

「さぁて、どっちに飛べばいいのかな?」

「あ、あっちの方角でお願いします……」

「了解!」


 私がおそるおそる夕日に染まる森を指差した、その刹那。


 バヒューーーーーーンッッ!!!!!


「ひぅっ、ひゃわぁああああああ!!!!!」

『きゅうっ、ぷゆいいいいいいい!!!!!』


 王都から私の家まで体感2〜3分で到着してしまった。


 普通なら私もスライムちゃんも失神しそうだけど、そうならなかったのはルインさんが守護魔法を使ってくれたからなんだって。


 さすがは勇者様。

 本当に何でもできちゃうんだね。


 家に着くと、ルインさんは感嘆の息を漏らした。


「へぇ、ここがノドカさんの家か。あまり見ない外観だけど、なんだろうか? この胸を打つような感覚は。どことなく安心感を覚えるね」

「わっ、分かります? うふふ、そこに気付いてくれるだなんてさすがルインさん! そーなんですよ。このお家、とーっても安心できちゃうんです。なんたって、幸せの思い出がいーっぱい詰まってますからね!」


 私の言葉に、ルインさんは優しく微笑みを返してくれた。


「そうか。ここはノドカさんにとって、とても大切な場所なんだね。……わざわざ言う必要もないだろうけれど、そんなに大切な場所ならしっかりと守るんだよ?」

「ハイ、もちろんです!」


 かくして激動(?)の一日は幕を下ろしたのですが。



 翌朝。

 スライムちゃんを抱えて庭に出て伸びをすると、そこには水色のスライムちゃんの姿があって。


「わお。今度は水色のスライムちゃん!? ……でもなんだろう。ちょっとヨボヨボでお爺ちゃんみたい」

[ぷよ、ぷよい。るるんっ]

「ああ。なんて弱々しいんだろう。キミ、大丈夫?」


 そんな水色スライムちゃんの弱った姿を見て、赤色スライムちゃんが『ぽよい!!』と鳴いて、自分の形をグニグニと変形させた。


 その形は……。


「水滴? あっ、もしかして喉が渇いてるの!?」

[ぽよ……]


 間違いない。

 この子は水不足で、きっと今にも干からびちゃいそうなんだ!


 近くには川が流れているけれど、なんらかの原因でそこに辿り着くだけの元気もなくなっちゃったんだね。


「ちょっと待っててね、すぐに水を持ってくるから!」


 私は大急ぎで昨日購入した水汲み用の桶を持ってきて、水色スライムちゃんにばしゃあっ! と水をかけてあげたよ。


 すると水色スライムちゃんはあっという間に弾力とツヤを取り戻して、元気いっぱいに飛び跳ねてくれた。


[ぽよよ~~~っ!!]

『きゅいぃ~~っ!!』

「ふふっ、二人とも元気一杯って感じだね? それにしても、やっぱりスライムちゃんはカワイイなぁ」


 これで水色スライムちゃんもペットになってくれたらサイコーなのにね。


 そんなことを考えていると、水色スライムちゃんが私の肩まで飛んできて、ほっぺをちろちろと舐めてくれたよ。


 これは赤色スライムちゃんのときと全く同じ反応だね!


「ふふ、どういたしまして。でも私のほうこそありがとうだよ」


 だってこんなにカワイイ姿を拝めるのだからね!

 眼福! 至高!! 癒し!!!


 私、異世界に転生してたったの三日だけど分かっちゃった。


「この世界、スライムちゃんしか勝たんっ!!」


 私が勢いよく拳を掲げると。

 まるでその動きに呼応するかのように、私の目に信じられない光景が飛び込んできた。


 スライムちゃんはどちらも仲良く戯れていたけれど、赤色スライムちゃんの口からは炎が、青色スライムちゃんの口元からは水が発射されていたのだった……!!


「え。え、ええっ?? ウソ、もしかしてスライムちゃんって魔法まで使えちゃうの~~!??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る