第13話 天音の力、兄の影

 閃光が闇を裂いた。


 中庭に響く破裂音と共に、影は吹き飛び、地に伏した。


 天音の胸元の護符は、なお淡く光を放っている。


「天音……」


 俺が駆け寄ると、天音は少しだけふらつきながら、それでも笑っていた。


「へへ……兄さまを守れた、でしょ?」


「バカ……なんで前に出てくるんだ」


 思わずその肩を抱き寄せる。温度はある。命もある。


 だが――


(あの護符の力……彼女が扱えるようなものじゃない。今の“光”は、一歩間違えば命を削る代物だ)


 ユリアもすぐ傍に寄り、天音の状態を確認する。


「魔素の侵食はないけど……代償として、身体のエネルギーがかなり消耗してるわね。今日は、もう絶対に安静に」


「私、平気だよ……まだ、兄さまのために戦えるよ……」


「それ以上言うな」


 俺の声は、優しくも、明確な拒絶だった。


「お前が無理をすればするほど、俺は“あの頃”に戻ってしまう」


 天音が目を見開く。


 それは、俺が初めて口にした、“兄”ではなく“英雄”としての苦悩の言葉だった。


「……異世界で、俺のせいで仲間を失った。最後の最後で救えなかった命がある。だから、今度こそは守りたい。全部、俺が――」


「……煉」


 ユリアの声が、その言葉を遮った。


「その考えが、あなたを“壊す”の。かつて、私たちの仲間がそうだったように」


「……っ」


「一人で全部背負わないで。妹さんたちも、隼人くんも、私も……あなたが“守ろうとしているもの”は、きっと“支えにもなれる”のよ」


 俺は、しばらく黙ったまま空を見上げた。


 少しずつ、日が落ちていく。


 影は、まだ完全に消えていない。むしろこれからが“本番”だ。


(けれど……)


「わかった。俺が背負うだけじゃなくて……頼ることも考える」


 天音がふわっと笑った。


「兄さま、ちゃんと頼ってくれたの、久しぶりかも」


「うるさい。……でも、ありがとな」


 風が吹き抜けたそのとき、中庭の地面にうっすらと新たな“黒い紋章”が浮かび上がった。


 ユリアの顔が険しくなる。


「これは……“封印の鍵印”。つまり、次の“門”が開かれる座標」


 俺はその模様をじっと見つめた。


「いよいよ、核心に近づいてきたな」


 影との戦いは、まだ終わらない。


 だが、俺たちは確かに“一歩前に進んだ”。

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