期限切れ間近の魔法少女は、愛のなんたるかを知らない
にわ冬莉
第1話 魔法少女と呼ばれる話
「ぱぴぷぺポニーの、らりるれ輪舞!」
ステッキを手に、お決まりの呪文を暗唱する。軽くステップを踏みながらくるくるとステッキを回せば、その体が光に包まれた。
ぽいん、ぽいん、と生成される戦闘用の魔法服。レースもフリルもいつも通り可愛く揺れて、髪がきゅるんと伸び、トップで纏まる。
最後に頭の上に大きなリボンが結ばれれば、完成だ。
「涙の雨は、私が照らす! ポニー・レイン=サンシャイン参上!」
可愛くポーズを決め、ウインクを一つ。
次に続く相手の台詞も、例外なく、これだ。
「小癪な! また邪魔をしに来たのか、魔法少女め!」
「この世に蔓延る悪行を、私は絶対許しませんっ!」
ステッキを構え、対峙する。敵は壊れた人の心を喰らう魔物、ハートブレーカー。そのトップに君臨するのは、漆黒の王、アモール・ヴァンデロス。
「今日こそは決着を付けようではないか、ポニー」
アモールが目を細めると、ポニーもまた腰に手を当て、挑発的な態度で、
「望むところだわ!」
と返す。くるん、とその場でターンを決めると、ステッキを頭上に掲げた。
「ぷるぷるぷりずむ きらめきバースト!」
「
ピンクの光と漆黒の光がぶつかり合う。どちらも引けを取らない強さだ。やがて光はパチンと弾け、二人が飛び退る。
「……フン、今日もまた勝負はつかなかったようだな」
アモールが鼻を鳴らし口の端を上げると、
「待ちなさい! 逃げる気なのっ?」
ポニーが手を伸ばす。
「この続きはまた、いずれ!」
バサッとマントを翻し、アモールが高笑いと共にアビスゲイトへと体を滑り込ませる。アモールはアビスゲイトを通り、ハートブレイカーたちの国、アフェクタリアへと帰ってゆくのだ。
「また逃げられたわっ。なんて逃げ足の速い……。あいつらを倒しさえすれば、すべてがうまくいくってのにっ。待ってなさい、次こそは絶対、ぎったんぎったんにしてあげるんだからねっ!」
消えかかるアビスゲイトに向かって暴言を吐くと、腕を組み、頬を膨らませる。
……と、ここまでが毎度繰り返されるパターンである。
「……お前ら、ほんっと飽きもせず毎回同じこと繰り返すよな」
ジト目で魔法少女を見つめるのは、一匹のなにか。丸いシルエットに長い耳、ウサギのようであるが、尻尾はペガサスのようにふさふさで長い。なにより、宙を舞っているため、地球上の生き物ではないとわかる。
「なによディーノ! また難癖付ける気?」
ディーノ、と呼ばれた一匹は、短い腕を無理矢理組んでポニーと同じ格好をする。
「難癖っていうか……ポニー、お前さ、魔法少女になって何年経ったか覚えてる?」
「ふぇ? えっと……十四からだから……もうすぐ十五年?」
「長っ! なにその長さ! いくらなんでも長すぎるだろっ」
ディーノが背中の毛を震わせながら叫んだ。
「長すぎって……だって仕方ないでしょっ? 漆黒の王、アモール・ヴァンデロスとの戦いに決着がつかないんだものっ。大体、私を魔法少女にしたのってディーノ本人じゃない!」
ピッとディーノを指し、詰め寄る。
「そりゃ……まぁ、そうなんだけどさぁ。まさかこんなに長く戦い続けるなんて思ってもなかったし、ポニーが魔法少女卒業しないって言い出すなんて予想外だったし」
もじょもじょしながら続けるも、ポニーに一喝される。
「冗談じゃないわっ! 悪がはびこる世の中を、黙って見過ごせるわけないじゃない!」
「けどさぁ、さすがにもう、瀬戸際だぜ?」
「うっ……」
ディーノの話では、魔法少女でいられるのは三十歳までとなっているらしい。普通は、もっとずっと早い段階で敵を殲滅するか、もしくは次世代に魔法少女を譲るものであるらしいが、ポニーはどちらの道も選んではいない。ただダラダラと戦い、ダラダラと魔法少女を続けている。
「いい年して恋人も作らず、倒す気もない敵と対峙して、気付けばもうすぐ三十路女。俺、君をそんな子に育てた覚えはないんだけどな?」
上から目線で言われ、ポニーがぷぅ、と思い切り頬を膨らませる。
「だって、恋をしたら魔法は使えなくなるんでしょ? だったら仕方ないじゃないっ。私だって、好きで恋愛から遠のいてたわけじゃないんですからねぇぇ!」
「どうだか」
「はぁぁ? なにその言い草っ。ディーノ、ムカつく―!」
「はいはい、そうですかそうですか。じゃ、今日の夕飯当番はしませんけどいいですかねぇ?」
キラ、と目を輝かせほくそ笑むディーノに、ポニーがハッとした顔をする。
「それは駄目ぇ! ディーノのご飯が食べたいもんっ。お願い~! ご飯作ってぇぇ!」
縋りついて、そのモフモフの体に顔を埋める。
「チッ、仕方ねぇな。そこまで言うなら」
少しばかり顔を赤らめ、満足げに頷くディーノ。
「やった! さすがディーノ! ありがと~!」
ピョンピョン跳ねまわるポニー。
そんなポニーを見て、ディーノがボソッと呟いた。
「……マジでコイツ、なんにもわかってねぇのな」
深い、深い溜息をつくディーノだった──。
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