第17話 布酢怒の逆襲

「rainerチャンネルの玲奈です♥五月雨のような拡散よろしくね」

いつもの挨拶を終え天神玲奈は順治たちと相談した内容を視聴者に告げた

「私のチャンネルの定例企画である『皆様に物申しわすわ』シリーズを大幅に見直します。視聴者の皆様との交流は続けます。けど外ロケで社会奉仕活動に参加するときは相手にお説教するのはやめますわね」

玲奈は動画企画で社会奉仕活動に参加することがあったが、その上で施しを受ける人に一言物申すのを企画にしていた。彼女なりに「ずっと甘えてばかりでは相手のためにならない」という叱咤激励のつもりだと思っていた。しかし


「え?私が説教するのに快感を持ち始めてるじゃないかですって?」

玲奈は目を丸くした。

「失礼を承知で言わせていただきました。ただどうしても働けなかったり路上で暮らすしかない人の心をえぐってないか見直してほしいんです。もちろん本当に怠けてる人間もいます。でも差し伸べた手を取れるという時点で既に這い上がろうとしてる、そう信じてあげてほしいと思いました」


失礼しちゃう、でも心当たりがないのだから今はこうするしかない。

恒例となった炊き出しでいつも通りホームレスと一言会話する、いつもは近況を聞きつつお説教を挟んだりしたのだが

「今日も来てくれてありがとうございますわ。貴方が生きていてくれてうれしい」

そう全力の笑顔で振る舞った。

撮影と炊き出しが終わり退散の準備をしているとホームレスに声をかけられた。

「お嬢さん、本当にありがとう」

今まで聞けていなかった言葉だった。いつもムスッと受け取るだけの老人がきれいな目をしてこちらを見続けている。

「ええ、私、今まで傷つけてしまってごめんなさいね」

普段衛生面を気にして社会奉仕時にはつける手袋を脱ぎ、ホームレスの老人と固い握手をした。彼はしばらく風呂に入っていないはずだが柑橘系のさわやかな匂いに包まれていた。


一方そのころ、田中は病室で体を休めながら順治たちの近況をスマホで確認していた。

最近変な声も聞こえない。やっぱり環境を変えるのは大事だな。山ちゃんに変なメモ送ったのは謝らないとな。そんな事を考えていた。


フスー、ドンドンドン!

「うっ、またあの臭いだ」

雑巾に酢を染み込ませたような悪臭が鼻をつく。

「ドイツモコイツモオラヲバカニシヤガッテ!レイナ、ユルサン、リュー、ユルサン、オトサン、ユルサン、オバエモユルサン!」

「…布酢怒。これはみんなの選択だ。お前の空虚な人生と比べてどうだ?楽しそうだろ?」

「ダマレダマレダマレ!オラガイチバン!オラハイーノ!ガチコイ!ガンヅキ!オラノセカイ!オバエ、オラノタメニコッチニキヤガレ!」

「みじを…」

田中は意味不明なうめき声をだし意識を失った。

田中は大きな病院に転院することとなった。


原口事務所ではミーティングも兼ねて順治、玲奈、順治の父が揃っていた。

「布酢怒の世界にこれで引き込まれなきゃいいけど」

「私たちにできることはしましたわ」

そんな中佐々木が大慌てで事務所に飛び込んできた

「お嬢様!大変です!」

「落ち着きなさい!息を整えてから説明するように」

深呼吸してから佐々木は報告した


「龍鹿市の立ち入り禁止区域で野生動物が倒れるほどの悪臭が…強い酸性の臭いです!」


オバエラノセイダデ、オラニシタガエ

こんな声が龍鹿市中の人々の脳内に木霊し、多くの人は意識を失ってしまった。

「佐々木!リムジンのトランクからガスマスクを!」

「はっ!」

玲奈の手早い指示で順治たちは意識を保っていられたが、この街で頼れる人はもういなかった。


「あの立ち入り禁止区域、俺が事故にあった場所だ」

「…行こう。布酢怒め、覚悟しろ」

僕らは皆の心にひそむ巨大な妖怪に挑もうとしていた



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