羽根に殺された俺、転生後にもらえたのはまさかの翻訳スキルだけ!?

見えざる目

第1話 異世界

俺の名前はショウ・シュウテン。

俗に言う、「家から出ない」系男子――いや、正確には、人生というレースのスタートラインにも立てず、そのまま社会の縁から転げ落ちていった、筋金入りの引きこもりだ。


最後に外出したのは、カップラーメンを買いに行ったとき。

その前?思い出せるわけないだろ。


そんな俺が今日、奇跡的に家の外へ出た理由?

……母親にWi-Fiルーターの電源を引っこ抜かれると脅されたからだ。


「下の宅配取ってきなさい!ついでにゴミも出して!それが嫌なら、お寺に預けて修行させるわよ!」


そう言われて、しぶしぶゴミ袋を手に持ち、ゾンビみたいな足取りで外へ出た。

表情はもちろん、「生きる気力ゼロ」。


そのときだった。

突風が吹いて、どこからか鳥の羽根がふわっと舞ってきた。


……そして、俺の口にペチッと張り付いた。


次の瞬間、その羽根は俺の口の中にイン。


――そう、喉に引っかかって取れない、吐き出せない、飲み込めない、あの最悪なやつだ!


目を剥いて咳き込み、後ろによろめいた俺は――電柱に頭をぶつけて、そのまま意識を手放した。


* * *


目を覚ますと、そこは一面真っ白な空間だった。


地面はまるで綿のようにふかふかで、踏むたびにほんの少し沈み込む。

上下左右、どこを見ても壁も天井もなく、果てしないホワイトアウトの世界。

まるで巨大な撮影スタジオみたいだ。


「な、なんだここ……夢か?」


喉がカラカラで、声すら震える。

一歩後ずさった瞬間、足元を滑らせて尻もちをついた。


そのとき、目の端に――黒いオフィスデスクと、黒いフード付きローブを被った人物(?)が見えた。


……いや、あれは人じゃない。

顔は見えないけど、明らかに“異質”。


そして、そのフードには大きく二文字が書かれていた。


――「死神」


……思考、停止。


口は開いたまま、声すら出ない。


気づけば俺は、完全に本能のままに――


「うわあああああああっ!!」


全力で逃げ出していた。


だがすぐに、見えない壁にぶつかって跳ね返され、

……死神の前にすっ転んで、派手に四つん這い。


「ぐえっ……」


そしてそいつは、顔を上げた。


骸骨だ。

顔も、手も、身体も……全部、骨。ガチのホネ。


俺はその場にへたり込んだ。

心臓が爆速で鼓動し、全身の毛穴がフルオープン。

まさに“恐怖”に首を締め上げられているような感覚だった。


「……ショウ・シュウテンだな」


奴が口を開いた。

声は低く、ガラガラと金属が擦れるような不気味な音。


「な、なんで俺の名前を……あんた、だれ……?」


「帽子、見ろ」


その指がフードの二文字――「死神」を差す。


「し、しにがみぃ!? ウソだろ!? ま、まさか本物!?

え、ちょっ、死んだの!? 俺、死んだの!? 嘘だろ!?」


「落ち着け。まずは、お前がどう死んだか教えてやろう」


死神は一枚の書類を手に取り、淡々と読み上げる。


「飛来した鳥の羽を誤飲し、気道閉塞。その後、電柱への後頭部激突により脳震盪を併発し、死亡」


「そんな死に方ある!? 宝くじ当たるより確率低いだろ!? これドッキリだよな!? ね? カメラどこ!?」


死神は黙ったまま、指を鳴らす。


世界がバッと黒と白に反転し、俺の影が身体から引き剥がされ、

顔の半分がポロポロと崩れ始める――まるでポリゴンのバグみたいに。


「わあああああ!? ストップ!信じた!信じました!!」


影を抱きしめながら、ガクブルする俺。


「(クク……)こんな死因、久々に見たな。

ショウ・シュウテン?……いや、“ショウ・ザ・ジョーカー”の方がしっくり来るんじゃないか?」


アイツは骨だけの腹を抱えて、ガチャガチャと音を立てながら笑った。


くそっ……名前で遊ばれてるのに、反論できないのが悔しすぎる!!


「さて……失礼の数々は水に流そう。

神界では、若くして命を落としたお前のような者に“セカンドチャンス”を与えている。

ひとつは、良い家庭環境に生まれ変わる“転生”。

もうひとつは、“異世界転移”。魔王を倒す英雄の道だ」


異世界!?

俺の目が輝いた。


「じゃあっ! 俺、チート能力とか専用武器とか選べるんだよな!?」


死神は一瞬黙り、そっけなくこう返した。


「お前、漫画とか小説、読みすぎじゃね?」


「……は?」


「転移=チート・神器ゲットとか、どんな都合のいい仕様だと思ってんだ。

現地の住民は何なんだ? 空気か? モブか? お前らばっかり特別扱いしたら、世界が崩壊するだろうが」


彼は突然、机をバンと叩きつけ、空間が震えるほどの音を立てた。


「ひいぃっ!」


「……なら、転生で!普通の人生でいいですぅ!」


「ほう?」


死神は微動だにせず、目の前のコップをパリンと握り潰し、重なる三重の声――老人・少年・機械音のミックスで告げた。


「本当に……異世界に行かない、でいいのか?」


ゾクリと背筋が凍る。

……いやもう死んでるんだけど、心臓がバグるほど鼓動してる。


「……い、行きます……異世界、行きます……」


「やれやれ……。毎回この手間だ。『投胎がいい』→『水杯クラッシュ』→『確認』→『やっぱ異世界』って、何なんだ。最初から行けよ……」


なんだこれ、完全に詐欺のテンプレじゃねぇか。

「選択肢」と見せかけて、実質ノールート分岐。最初から“異世界”しかないってことだろ。


「ちなみに能力な。向こうの言語と文字は自動翻訳してやる。言葉の壁はない」


自動翻訳……それを“特典”としてドヤ顔するな!

スキルなし、装備なし、言語だけ!?

神界、マジで転移者ナメてんだろ!?


これ、絶対“早死にした若者”を便利な駒として送り込んでるだけだよな?

神じゃなくて、異世界版ブラック企業の人事部じゃねーか!


「魔王を倒せば、お前の願いをできる限り叶えてやろう……

それでは、転移の儀を始める。ショウ・シュウテンさん、異世界での活躍を祈っております。魔王を討ち、世界を救ってくれ」


「ちょっ、待っ――」


ズルッ、と背中に吸盤が貼りついたような感覚とともに、

視界がぐにゃりと裂けていく。

最後に見えたのは、自分の片足がまだ白い空間に取り残されている映像だった。


「いててててっ!? 質問まだあるってばあああああ!!」


……こうして俺は、羽根で死に、説明不足のまま、チートもなしに、異世界という未知の戦場へと放り込まれたのだった。

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