第3話 『最強』などいない世界で
探索者学校は単位制だ。
最低限の学習さえしていれば、あとはダンジョンに潜って実績を上げることで単位をもらえる仕組みになっている。
そのため生徒たちはグループを作っては近くの青山ダンジョンに潜るのが一般的な学園生活のリズムだ。
だが俺はそうはしない。
なぜなら職業を偽っている以上、レアドロップのことは隠し通さなければならない。
バレてしまえば前回の人生と同じコースを歩むハメになることを考えると、時期が来るまでは絶対に隠し通さなければならない秘密だ。
だから俺は電車で数駅回ったさきの品川ダンジョンに潜るつもりだ。
ダンジョン探索の申請を学園にしたあと、昇降口に歩を進める。
そこには俺にとっては複雑な思いを抱いてしまう相手がこちらを待っていた。
「直人、これからダンジョン?」
「……
こちらが苗字で彼女を呼ぶと、彼女は白皙の顔をわずかに朱に染めて怒りを表現する。
こいつは
前回の人生で俺を引き留めてくれて、でも殺してしまった悪友。
「いつもみたいに名前で呼べ~! 他人の振りしないでよ、幼馴染でしょ?」
「……あのな、ソフィア。俺は〈無職〉だぞ、レアジョブの〈武僧〉である君が話しかけてたらやっかみを受けるんだ」
「そんなのわたしがどーにかしてあげるって!」
大丈夫大丈夫、と胸をドンと叩くソフィア。
君がいると俺まで目立っちゃうからなあ。
目立たないでいるならそれが一番なんだけど。
「俺はダンジョンに潜ってくる。それじゃあ」
「わたしも一緒に行きたい! 駄目……?」
上目遣いでこちらに頼み事をするソフィア。
髪の色と同じ長い銀のまつげがしばたくと、こちらはまたか……と頭を抱えそうになる。
ソフィアのお願い攻撃に当時は勝てた試しがなかったが、今は精神年齢が違う。
大人の余裕というものを身につけた俺にとっては児戯でしかない……。
……はずだ。
そのはずなのだが、俺の脳裏に過るのは前回の人生で彼女を守るどころか殺してしまった記憶。
〈サザンカ〉のトップ探索者の中で最弱の俺に負けたのだ、他のやつらに勝てるわけもない。
もしソフィアの未来が変わらなければ、 日本を統治する企業である〈サザンカ〉に反旗を翻して……その後討たれるはずだ。
そんな未来を許していいのか?
自分の腹の奥に潜む深い後悔がそうささやく。
だが、今ソフィアとダンジョンに行ってしまえば俺は目立ってしまい、目立った結果〈サザンカ〉に見つかってしまうかもしれない。
二度と殺したくない、二度と殺されて欲しくない。
二度と飼い殺されたくない、二度と同じ苦しみを味わいたくない。
どちらかを取ればどちらかを諦める。
二者択一の現状に俺の眉間が険しくなる。
――どうすればいい。
数十分に感じられるが数分の苦悩ののち、俺はソフィアに告げる。
「ソフィア、秘密は守れるか?」
「――! うんっ!」
どうやら、俺は幼馴染を切り捨てることができないらしい。
そうだな……どうせなら学園も企業も、ダンジョンでさえも俺の行く手を阻めないほどに強くなろう。
誰にも勝てる人間などいないのが当たり前のこの世界で。
その当たり前を覆す、誰にも負けない……真なる最強を目指してみるのも悪くないのかもしれないな。
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