全てを失った元社畜の俺、過去に転生して全ての不幸を跳ね返す
芦屋貴緒
第1話 後悔だらけの人生
俺は
世界中に現れたダンジョンを攻略する探索者、そのトップ集団に少し前まで所属していた男だ。
年齢は三十九。あと一年で四十路のおっさんだったが、肉体性能を維持するために偽物の若返りの秘薬を飲まされていたため、外見上はまだ二十代後半に見える……はずだ。
俺の身体で人体実験をされたため、若返っても一部が逆に老けきっていたりとろくでもない目にも遭った。
おかげで性欲はあっても行為には至れないという、男にとってはとんでもない地獄を味わわされる羽目になった。
……まあ、俺のシモの話はいい。
俺をこんな目に遭わせたのは誰か。
それは日本が世界に誇る大企業、サザンカグループだ。
半官半民の組織・ギルドを通し、彼らはレアなジョブを持つ人間を青田買いすることもあった。
俺はレアなジョブを見いだされて青田買いされたパターンだ。
幸か不幸か、当時はなにもつらくなかった。
俺はエリートなんだ。ダンジョンが現れる前の上級官僚なんか休む暇もなかったじゃないか。
エリートならば身を粉にして働くのは当たり前だし、ちゃんと1日三十分の休憩だって貰っている。
父さんも母さんも妹も、活躍する俺を見て誇らしいと言ってくれていた。
同僚だって期待してくれているんだ、その期待を裏切るわけにはいかない。
家族の葬式にはいけなかったけれど、仕事だから仕方ない。
妹は泣いていたけれど、俺はみんなのために働いているから仕方ない。
妹の葬式にもいけなかった。妹の家族からは罵倒されたけれど、俺はみんなを豊かにするのが仕事だから。
幼馴染が〈サザンカ〉を辞めたらどうかと、見てられないと泣きついてきた。
大丈夫。俺はこの仕事にやりがいを感じているから。
そう告げると、幼馴染は泣きながら去って行った。
自分では治しきれない怪我をすることがあった。
その度に〈サザンカ〉の医療班が最新の技術で俺を治してくれた。
最新鋭のインプラントを埋め込み、迷宮で鍛える以上の力を与えてくれた。
同僚はいい人ばかりだった。
ダンジョンでは危険がないか気遣ってくれるし、ひとりで潜らないといけない時も理由をつけて一緒に来てくれていた。
買い取り不可の物品や安値で買いたたかれるものを高く買い取ってくれた。
――と、当時の俺は本気でそう思っていた。
大企業に見いだされたということもあって、これで俺もエリートコースまっしぐらだと当時は狂喜乱舞したこともあったのだが、それが全ての間違い。
当時のトップ層の探索者から体罰、モラハラ、監視管理、洗脳なんでもござれの教育を施され、奴隷として扱われていた。
あの時は俺はなにも気付かなかった。
だが、後ろ暗いことをし続けてきたサザンカは、あるとき反乱を起こされてしまう。
その時に対処に当たった俺は反乱の首魁と交戦。これを倒す。
そこで、俺は気付いてしまった。洗脳が解けてしまった。
俺の目の前で倒れているのは、見間違えるはずもない幼馴染の姿。
俺の脳に埋め込まれたインプラントが拒絶反応を起こして全身から血を噴き出し、その代わりに俺がなにをしたか。なにをしていたかを正常な脳が理解していく。
幼馴染は謝りながら死んでいった。
そこで俺の記憶は途切れている。
それが俺の吐き気がするほど愚かしい過去で。
今となっては未来の話だ。
そう、俺は二十四年前の、青田買いをされる前の過去に戻っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます