第2話 明石青嵐
眠れない。まじで。
外は白み、明烏が鳴き、もはや夜明け前である。というかもう明けているかもしれない。
あれから、あの人と会話をした。
「お前、なぜ正気でいられる?」
「え! なんのことですか!? お姉さん相手には正気じゃないかも!」
「黙れ。……
「そんなことよりお名前聞いていいですか!」
「お前に名乗る名はない」
俺は息を飲んだ。なにその中二台詞。かっこよ……。
だが彼女はそう言って、なぜか屋根に飛び移ってどこかへ消えてしまった。なに? あの身体能力。漫画の登場人物かと思った。
そして名前を聞いたのにばっさり斬られた。物理的にではなく、精神的に。話的に?
ともかく、麗しのあの人の名前すら俺はわからないのだ。
でももう惚れちゃったし、どうにかお近づきになりたい。
あわよくば結婚したい。顔がタイプすぎる。親父が言ってた。結婚相手は好みの顔にしとけって。
「性格は慣れるが、顔は慣れん」とか言ってたけど、おふくろめちゃくちゃ怖いぞ?
枕を抱え、じたばたすることでどうにか感情を押し込める。どうにか、なんかないか近づける方法。
そこまで考えて、そう言えばついさっきまで命の危機だったな。と思い出す。
あの化け物は一体何だったんだ? あの人は「祓った」と言っていた。「
「
そんで“
はてさてまったくわからない。俺もしかして霊的ななにかに憑かれてたってことなのか?
でも今までそんな、よくある怪談話みたいな体験をしたこともない。する予定もなかった。
俺は霊感とかないし、所謂“視えない人”である。……じゃあ、さっきのやつは? なんで視えた?
いまだに掴まれた肩が痛いし、首には痣が残っている。“居た”のだ、確実に。
わかんねえ、でも、こういう時は。
「ネットだよな〜!」
うつ伏せに寝転がり、スマホのスリープを解除する。えーと、なんて検索すればいいかな。とりあえず、「外神 とは」でいいか。
「うーん、なんか違うのしか出てこないな」
ネット検索の結果、特に収穫はない。じゃあ、「朱刃 祓う」とかか?
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朱刃とは? 神道における意味と使用方法
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「ちがうっての!」
まったくもって収穫がない。あの人に繋がる情報も、さっきの化け物についての情報も。
そもそも、あの化け物はなんなのだ。仮に霊的なものとすれば、あの人が祓っているとして情報が出てもおかしくない。
たとえば「美人すぎる霊媒師」とかいって。メディア大好きじゃんこういう見出し。
でも、なにもない。ネットと言う名の広大な情報の海に、ひとつもない。かすりもしない。
「誰なんだよ、君……」
呟いた言葉は、ただ俺の耳を撫でるだけで。届いて欲しい彼女の耳には届かない。
せめて名前だけでも知りたい。あとどこ住みなのか。彼氏いるのかも知りたい。
「彼氏……いたらどうしよう……」
そう零して、胸がずんと重くなる。だってあの見た目だぞ、いないって言えるか?
すげえ美人だった。普通に彼氏の一人や二人いてもおかしくなかった。
いい女にはいい男がいるってのが常だもんな。いるのかな。
「……居たとしても、好きな気持ちは負けねえ!」
そうだ、結局悩んだって仕方がないのだ。結果はどうあれ、人に想いを告げること、が大事だと俺は思っている。
そのうえで結ばれたら大団円。俺は今、そのハッピーエンドに向かってひた走るほかない。
「待ってろよ、名も知らぬ君……!」
真顔で呟いた自分が仄かにきもい。でも本気だし、仕方ない。
翌昼、俺はあの道に赴いていた。といっても家からバイト先に行く通り道だ。
でも、そこにはなにもなかった。なんか黒い装束着た物々しい人らと数人すれ違ったが。
また一人すれ違おうとしたところ、声をかけられた。
「君! ここは立入禁止だぞ!」
「え、すいません。家ここ通らないとだめなんスよ」
「それでもだめだ! どこかへ泊まってくれ!」
「ええ〜……」
なにそれ理不尽すぎん? なんの権限が合ってそんなこと言うんだよ〜。
「そう言われても困るッス」
「こっちも困ってるんだ、最近
ん? このお兄さん、今
「お兄さん知ってるんスか!? あの化け物のこと!」
「あ、ああ……。もしかして報告書にあった、一般人、って君のことか?」
思わず掴みかかった俺に、お兄さんは目を白黒させながらも答えてくれた。
はて、報告書。一般人。察するにこの人と名も知らぬ君はなにか特殊な職業の人なのだろう。
「多分そう! 教えて下さいよ詳しく!」
「申し訳ないが部外者に詳しくは言えないんだ。箝口令があってね……」
「ええ〜!」
せっかく名も知らぬ君に繋がると思ったのに! と、ぶーたれていてもお兄さんは申し訳無さそうに笑うばかりで。
しかたない。ここで食い下がっても困らせるだけ。そんな迷惑なことしたら名も知らぬ君に嫌われるかもしれん。
「わかりましたよぉ〜……」
渋々、本当に仕方なく引き下がった。まあ、バイトに遅刻しそうだったってのもあるが。
「はぁ〜……世界の理がわかんねえ。あと彼女の気持ちもわかんねえ。もっとわかんねえ」
バイト中、深いため息が漏れる。名も知らぬ君に繋がることは何一つ収穫なし。ネットも頼りにならないときたもんだ。
どうすれば接点を持てるんだ……。もう諦めるしかないのか……。
そんなマイナスな感情が胸を蝕み始めた頃、客の来店を告げるベルが鳴る。
「いらっしゃー……、せ!?」
「……話がある。外へ出ろ」
そこには、名も知らぬ君が立っていた。昨日と同じ、真紅の袴を履いて。
え? 話があるって言った? あっちから? え!? 告白の返事ですか!?
「ちょちょちょ、店長! 店長! 外行ってきます!」
「え!? 鳳くん!?」
何事か喚いてる店長を無視し、先に出ていってしまった名も知らぬ君を追いかける。
店の前から、関係者用出入口のある裏路地に入っていった。
な、なんで背中丸出しなんだろう……。背中になんか、文様みたいなのあるけど、タトゥーかな……?
でもタトゥーの割には和風っぽい……。もしかして俺、ヤのつく自由業の人好きになったのか……!?
……それはそれで刺激的! よし!
路地を少し進んで、表通りからだいぶ離れたところで、名も知らぬ君は足を止めた。
くるりと振り返り、ひとまとめにされた黒髪がさらりとなびく。
「お前、野良か?」
「な、なんの話ですか……!?」
「“組”に所属しているのかと聞いている」
組!? やっぱヤクザ!?
「おお、俺はただのバイトです……!」
「バイト……? そんな制度、“組”にあるのか……?」
「バイト知らないんですか!?」
首をかしげる名も知らぬ君。
え? バイト知らないとかそんなことある? もしかしてめっちゃいいとこのお嬢さん?
いやでも、今「組にあるのか」って言ったな。なんか勘違いされてね?
「組? とか言うのには入ってません! 俺はカタギです! でもお姉さんがヤクザでも好き!」
「…………なにを、勘違いしている」
「え?」
こめかみを押さえ、深いため息を吐く名も知らぬ君。え? 勘違い? どこが?
「私の言う“組”とはそういう意味ではない。
「と……とうようちょう……?」
「……野良か」
まったく意味がわからない。が、とりあえず名も知らぬ君はヤクザではないらしい。
「……
「……へ?」
「お前の“自由”は、もう認められない。指示に従ってもらう」
か、かん……なんて? 身柄を預かる? え? 俺、いつの間にか犯罪行為してた?
「ど、ど、どういう……こと?」
また深くため息を吐いた名も知らぬ君が、腕を組みながら答えた。
「……お前には“
「しんりき……? 育てる……?」
「事情を知る必要はない。――ついてこい」
そう言って、名も知らぬ君は俺に背を向け歩き出す。
まっっっったくもって、言っている意味がわからないが、とりあえず、とりあえず、だ。
俺はこの名も知らぬ君と接点を持ったってことだな!?
「お、お姉さん! 名前! 名前教えて!」
歩きながら、ちらりとこちら振り返り、心底嫌そうに答えてくれた。
「……
せいらん、名前まできれいなんだな。――やばい、めっちゃうれしい!
「俺、鳳
「馴れ合うつもりはない」
「ありがとうございます! 交際してください!」
「だまれ」
このあと店長に死ぬほど怒られたが、なぜか討妖庁の名を出した途端、手のひらを返された。
え? もしかしてみんな知ってたりすんの? 知らないの俺だけだったりする?
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