あの星は
椅子取りゲームに敗北を喫し続けた人類の旅路は、既に8000万年にもなっていた。アラタも還暦を超え、老境に入ろうとしていた。
「コウジ、俺たちもすっかり老人になってしまったな。人類に新天地は未だなく、もう地球から見た景色を記憶に残している我々の様な人間の方が少数になってしまった」
「死ぬ前に一度でいいからまた緑を、土を、固い地を踏みしめたい、そう皆思っているはずだ」
「世論もその方向に傾いているようだな。この前400万年掛けて行われた選挙でも侵略肯定派が4割近い票を得た」
「そうそう、あと一週間ほどで到達出来るとみられる星系にも、観測で居住可能性のある惑星があると分かっている。その星の文明レベルによっては、首脳部が侵略を決めるかもしれないが…」
「何だろうな…勿論新天地は俺の望むものでもあるが、異星を侵略するのは何だか…覚えているだろう?あの卑劣な異星人の事を」
「ああ、あれは中学生のころだったかな。侵略者の策略で大勢が誘拐されたことがあった。当時の友人も攫われて、廃人になって帰って来た。地球に残っていたはずだから、もうとうの昔に死んでしまっているはずだ。現地人たちにそんなことをするのかと思うと、この宇宙船の中で死んだほうがいいのではないか、という気分にもなるな」
重苦しい雰囲気を、若く明るい声が打ち破る。
「また侵略がどうって話してんの?親父」
コウジの息子、イノトシ・ヒカリが駆け寄ってくる。
「例の星系の詳細な観測結果が出たから、食堂に集まれって」
「そうか…なあ、ヒカリ、お前はどういった未来を望んでいるんだ?侵略をしてでも新天地に生きたいか、このまま宇宙船の中で旅を続けるか」
コウジの問いかけにヒカリはしばし思索してからゆっくりと言を発した。
「俺は…よくわからないけれど…この宇宙船よりも広い所で生きたい。ここでは交流が広がりようがないし、いつも顔を合わしている人たちだけの船の中とは違う、親父たちが生きていた広い世界を見てみたい。けれど…異星の人々に危害を加えてまで人類の望みを叶えるのは、よくないと思う」
話しているうちに彼らは、長い時の末にかつての原形を失っている食堂へと到着した。モニターには人類が到達しようとしている星系に属する惑星の観測データが表示されている。
『居住可能性:適
文明の存在は確実。文明レベルは中程度、人工衛星の敷設能力はあるものの連星には到達していない模様。人類の現状の戦力での勝利は困難が予想されるものの不可能ではない。』
決定を下すために目覚めた国家元首たちが食堂に入ってくる。船同士の間に開いた通信を介した会議の結論は、始まる前から明らかだった。
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