第17話「静寂が揺らぐ音」

 ライブハウスの外に出た瞬間、夜風が頬をなでた。

 汗が冷えていく感覚が、現実に引き戻してくる。


「お疲れ……最高だったな」

 アビがペットボトルを差し出す。

 私は「ありがとう」と笑って受け取ったが、彼の目はどこかよそよそしい。





 客出しの流れで、美月が現れた。

「……やっぱ、ベスティの声はいい。今日のは特に響いたよ」

 柔らかな言葉とは裏腹に、その視線は私の奥を覗き込むようで、少し怖かった。

 アビがそれを察したのか、間に割って入る。

「ベスティは俺らのだ。安売りしねぇよ」

 軽く笑って言ったが、言葉には妙な棘があった。





 遠くで猫さんが腕を組んで立っていた。

 視線が合うと、彼は煙草をくわえながら近づいてくる。

「……悪くなかったな」

 その一言に、胸が熱くなる。

「でもな、もっとやれるだろ。お前の声はまだ半分も出ちゃいねぇ」

 ぶっきらぼうな言葉なのに、なぜか泣きそうになる。





 解散の空気になりかけたその時、アビが私を呼び止めた。

「……話、ある」

 美月は少し離れたところで、猫さんは煙を吐きながら、それぞれの方向から私たちを見ていた。


 夜の街の雑踏の中で、私の心は――少しずつ揺れ始めていた。







つづく


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