第7話「おまえ、誰のためにやってんの?」
猫さんの言葉が胸の奥で何度も反響する。
もっと感情的でいい――。
帰宅すると、机の上のノートに向かって、半ば衝動的に歌詞を書き始めた。
鉛筆の芯が紙に擦れる音が心地いい。
気づけば、夜が白み始めていた。
翌日、アビに新曲のデモを聴かせる。
スピーカーから流れるのは、今までの私たちの曲よりもずっと激しいリフと叫ぶようなメロディ。
「……おまえ、どうした?」
「猫さんに言われたんだよ、もっと感情的でいいって」
私の言葉に、アビは珍しく真顔になった。
「ベスティ、それ……バンドの方向性、変える気か?」
「方向性って、あたしたちまだ模索中じゃん!」
「いや、模索中だからこそさ。急に変えると足並み揃わなくなる」
アビの声が少しだけ強くなる。
その表情が、私の心をざらつかせた。
「結局さ、おまえ、猫さんに言われたことやってるだけじゃん」
「は? 関係ないし! あたしがやりたいからやってんだよ!」
声がぶつかる。
小さなスタジオの空気が一瞬で重くなった。
アビが無言でベースのストラップを外し、壁際に立てかける。
「おまえ、誰のためにやってんの? あたしたちの曲じゃなくなったら意味ないだろ」
その言葉が胸に刺さる。
反論しようと口を開いたけど、声にならなかった。
スタジオを出たあと、夜風が冷たく感じる。
スマホの画面には、猫さんからの未読メッセージがひとつ。
――開くべきか、開かないべきか。
迷ったまま、私はスマホをポケットに押し込んだ。
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