『感謝する国』ー2

 私とティゼル様が国へ入国して2日目の朝。我が御主人ーティゼル様は、宿屋の部屋のすみに置かれた大量の贈り物達を前に微笑みました。


 「ー夢みたい。私って人気者?」


 うっとりとして、堂々と調子の良すぎる事をのたまいやがりました。私はすぐさまその言葉に反論。


 「少なくとも、そうみたいですね。ただ、こんな大量に頂いて逆に荷物じゃありません?」 と。


 私の言う"荷物"とはー、つい昨日きのう、この国へ入国した直後にティゼル様をまるで出待ちするかのように群がってきた国の方々から頂いた品の数々の事です。

  国の方々からの謎の善意により、ティゼル様に贈られた多岐に渡る品々。果物、お肉、飲み物、日用品、本(一番喜んでた)等々。ああ、それと"お花"もありましたね。ありましたが、贈り主の男性が気持ち悪過ぎたのを覚えています。


 『ああっ……!旅人のお姉さん、すっごく可愛いね!この花をあげるからこの僕と結ー(以下略)』


 ティゼル様もドン引きしながら受け取っていました。私も私で貴様コノ野郎と魔法でぶっ飛ばしたかった所ではありましたが、ティゼル様から怒られそうだったので結構ギリギリで我慢しました。

  ちなみに私の存在はまだ国の方々には割れていません。私に掛かれば認識阻害の魔法なんてお手のもの。ティゼル様の様子を見ていたら、私まで出ていけばかなり面倒な事態に発展しそうな気がしたのです。ティゼル様のお腹も空いていましたし、何より、頂いた大量の品々を引っげながら観光なんて出来ませんからね。


 と、昨日は大方そんな事があった後、私とティゼル様は国の方々からお勧めのお店や名所等を教えて貰い、宿屋へと向かって一休みしたのでした。


 そして一夜を過ごし、場面は冒頭の会話へと戻るのですがー


 「リルって収納魔法とか無いの?」


 物凄く純粋なお顔で完全に相棒頼りな事を言うティゼル様。私は少しイラッとしました。この前も同じような事を言われましたし、第一、旅人としての物の管理が出来ないのはティゼル様が私に常日頃から頼りっぱなしだからです。魔法は万能ですが私を都合の良い女として扱うのは如何いかがなものかと思うのです。


 「ありますけど、ほとんどティゼル様への贈り物なんですからご自身で管理して下さい」

 「えーリルのケチ」

 「ケチで結構です。ってか、ティゼル様の旅鞄にもう少しだけ入りますよね?」

 「余ったスペースには小説を……」

 「小説なら頂いたもので我慢して下さい。ほら、さっさと片付けしますよー、入らなかった分は私が魔法でカバーしますから。それが終わるまで観光行けませんからねー」

 「うっ…ま、まあ、リルも手伝ってくれるなら多少は何とかなるか……」


 御主人様、論破。(楽勝)ティゼル様も渋々納得という感じで頂いた荷物の片付けを始めました。

  その様子をやれば出来るじゃないですか御主人様 と子を見守る母の心境で見ていた私でしたが……ふと、ある事実に気付き愕然とするのでした。


 よく考えたら、ティゼル様を怠惰たいだに導いたの……私じゃありません?


△▼△▼


 滞在2日目。無事ティゼル様の頑張りと私の収納魔法で頂いた荷物を全て片付け終え、国の観光へ。

  昨日入国した際に旅人であるティゼル様の噂は広まっていたのでしょう。彼女が国の通りを歩く度に「旅人さーん!」「よく来てくれた!」「ようこそー!」といったような歓迎コールが巻き起こりました。住宅の窓を開けて、ティゼル様に手を振ったり、少し身を乗り出している人だったり。国がお祭り状態のように、ティゼル様に大盛況でした。


 「これ、無事に観光出来るかなぁ……」


 通りを歩きながら、苦笑するティゼル様。衛兵さんの言葉は正しかったね 等と言いつつも国の方々へちゃんと手を振り返したりしてました。優しい、偉い、可愛い。御主人様の人がらが顕著けんちょに現れる瞬間でした。

  が、それは旅人としては欠点であり弱点でもあります。世の中どんな人間が居るか分かりませんから。御主人様の可愛いさアピールは全然歓迎ですが、あまり見知らぬ人とは関わらない。せめて適度な距離感が良いものです。 ですので。


 「ティゼル様は私が守りますよっ……!」

 「……何やってんの、リル」


 私はいつでも魔法を撃ち出せる体制を整えて御主人様をしっかりボディガード。そんな私の様子にしっかり困惑したティゼル様がそう言葉を漏らしながら2人で国の大通りへと歩を進めるのでした。


△▼△▼


 まあ、結果から言ってしまえば。

  ティゼル様、やっぱり大人気でした。


 「旅人様!旅人様サービスでお代は全て無料とさせて頂きます!それと、旅人様限定で食後のデザートは好きなだけお頼み頂けます!」


 例えば、レストランで。物凄くお腹が空いていた我が御主人様は育ち盛りな男子が頼みそうなステーキ定食を注文。運ばれてきたお肉に笑顔でかぶりつく御主人様を可愛いなぁと思いつつ、"太りますよー"等と忠告していると、何やら店員さんがニコニコ笑顔で近付いてきて旅人サービスと称してお代無料&デザート頼み放題という夢のような接客。目を輝かせた御主人様はバニラ味のアイスを10個程頼むという暴挙をおかしました。私はドン引きしましたが、レストランの従業員や他のお客さん達はそんな我が御主人様を微笑ましく眺めておられました。マジかよこいつ等 と思いましたね。


 「まあ可愛い旅人さん!可愛い貴女には服を好きなだけプレゼントしてあげる!是非ファッションを楽しんでね!」


 例えば、服飾店で。元々宿屋での部屋着に新しいのが欲しいと訪れたのですが、これまたお店の店主さん。御主人様の持つ可愛いさを即座に見抜き、嘘だろとこちらが驚くレベルのサービスをして下さいました。まあ、ただ御主人様の、外ではあまりファッションは楽しめないのですが、舞い上がりやがった我が御主人様はいつ着るんですか というような女の子が好みそうな服を5,6着程貰ってました。……御主人様といえど、旅人といえど、ティゼル様は女子。可愛いに勝るものは無いのでしょう。私が心配する事は一つだけです。荷物が増える。


 「よお、真夏の太陽のように眩しい嬢ちゃん!ウチのもの、沢山持っていきな!」


 例えば、『野菜売り出しセール』なんてものをやっていた商店の前を通り掛かった時。我が御主人様に声を掛けてきた男店主さんは、どうせそろそろ賞味期限が近いからと"今日の足しにしてくれや"等と謎にカッコ良く言い残し、色とりどりな野菜達をくれました。いやフレッシュな方じゃないんですかと突っ込みたくなりましたが、御主人様はそれでも大いに喜んでいたので私は黙ってました。ちなみに、店主さんの気遣い(サービス?)でお野菜を入れる袋も無料で貰えました。まあ、夜御飯の食費が少しでも浮くならもうけ物なのでとりあえず私も心の中でよっしゃーと軽く喜んでおきました。


 余談ですが、宿屋へ帰る前に書店にも寄りましたが、現在進行形で金欠状態な我が御主人様は一冊も本を買えずかなりげんなりしてました。本の虫ってすげえなと思いました。

  ちなみに、宿屋への足取りは重く、背中が完全に哀愁あいしゅうある感じになっていたので、私は何だか珍しく軽口が叩けなかったです。


△▼△▼


 「珍しいですね、自分で料理するなんて」


 それから数時間後。国の観光を終えて、宿屋に帰ってきた私とティゼル様。ティゼル様は荷物を部屋の隅に置いてベッドで数時間寝た後お風呂へ。正直お風呂は私も一緒に入りたいですし、御主人様のお背中を流してあげたいのですが残念な事に『リルは変態だから駄目』との事で私は暇を持て余す事となってしまいました。ちなみにティゼル様はお風呂が異常に長いのです。1時間は余裕で入っています。それなのに絶対のぼせないんですね。めちゃくちゃ不思議さんなのです。

  ですので私は御主人様があがってくるまで浴室の扉に近付き、"音"だけで御主人様の行動を想像して堪能するなどというかなりヤバ目なお馬鹿をやっていました。ティゼル様には絶対内緒です。

   そうこうしている内に入浴を終えたティゼル様は御自分で料理を始めました。ティゼル様曰く、今日貰ったお野菜達を使って野菜カレーを作るとの事。お風呂上がりで火照ほてった身体にヘアゴムで髪を縛ってのエプロン姿。私的ポイントが高過ぎて失神しそうになりました。とまあそれは置いておき。ティゼル様は基本私頼りの怠惰な面があるのですが、一通りの家事は出来るようで、まれに、気が向いた時に自身で色々家事をこなすのです。ギャップのある御主人様って良いですよね。


 と、まあそんな経緯があり冒頭の私のセリフへとかえってくる訳です。ティゼル様は部屋の机の上でご自身で作った野菜カレーを堪能しておられました。精霊の私でさえ空腹を刺激されるような美味しそうな香りが漂っています。


 「何だか料理してみたい気分だったの」


 カレーを口に運びながら美味しそうに微笑むティゼル様。可愛い。私には既に眼福がんぷくでした。


 「この国では人気者ですもんね」

 「あはは、そうだね。私達旅人にとってはありがたすぎる国だと思う」

 「ですね」

 「まあ、でも……」

 「?」

 「色々貰い過ぎたかな……」

 「おや、流石に気付いてましたか。明日でこの国は出ますけど暫くは買い物必要無さそうです」

 「むしろ頂き物を早く消費しないとね……」


 "はあ〜" と。2人して同時に深々としたため息。

  妙なタイミングでシンクロした私とティゼル様は流れでお互いに吹き出していました。ふとした事がとても可笑おかしく思えてしまうのも旅や日常の醍醐味でしょう。


 このような感じで2日目の夜はゆっくりとけていったのですが。


 3日目。国を出国するという時に限って、は起こったのです。

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