第3話 花屋

 ......

 空のいちばん上のほうで、白い雲がかすかに流れていた。

 そのしたを、ふたりが歩いていた。


 少年は本を抱え、眼をすこしだけほころばせている。

 至上者は白い睫毛をひかりに透かして、少年の袖を指でつまんでいた。


「おべんきょう、しないでいいの?」


至上者がそうたずねると、少年は歩みをとめ、そしてにこりとわらって言った。


「きょうは、休息日だよ。一日中、君といたいんだ。」

「きゅそく……」


 至上者はその音を唇から水泡を出すように、そっとくりかえした。

 道ばたのひかげに、黄色いスミレがゆれていた。


 ふたりは町のほうへ向かって歩いていった。

 靴の音が、かるく舗道にあたって、風の音とまざって消えていった。


「おみせいっぱい……あっ」


 ふいにかけだした。その目のさきには、小さな花屋のワゴンがあって、たくさんの色の花が、風のなかでそよいでいた。

 少年もあとを追うように、その横に立った。


 至上者はワゴンの前で立ち止まり、じっくり吟味するとふたつの花を指でさした。


「これとこれ、ください。」



 青いガーベラ。

 水色のバラ。



 花屋のお兄さんは、少年の手からお金を受けとって、ふたりぶんの花をやさしく紙につつんだ。

 それをそおっと胸にかかえるように持って、少年を見あげた。


 少年は、すこしふしぎそうにたずねた。


「MISHA、この花はなぜ2本だけ買ったの?」


 至上者は花のほうを向いて、やさしく指をあてた。


「こっちが、ぼく。こっちはDang」


 そして、すこしだけ首をかしげてつづけた。


「おうち、かえろ。かざろ」


 少年は、胸のなかがふわっとあたたかくなるのを感じた。

 それは、ことばにできないやさしさで、ゆっくりと身体のなかにしみわたっていった。


「うん、帰ろう。部屋に飾ろうね。」


 ふたりはまた歩きだした。

 花束は、うでのなかでゆらゆらと揺れて、通りすぎる人たちのあいだにひらひらと、春を落としていった。

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