12 ペット枠が人化するのはアリかナシか

「たっ、助けてえええええっっ!!」


『『『グべへへへへへッッ!!』』』


 私、白石鈴蘭しらいしりんか

 どこにでもいる普通の中学3年生。

 ひょんなことから異世界に転移しちゃったけれど、チートはないし私以外の人間はいないしで、これから私、どうなっちゃうの~~~~!


「…………」


 とか言っている場合ではない。

 私は現在、ゴブリンの親玉――ゴブリンキングの魔の手から逃れるべく、全速力で森の中を走っていた。

 しかも追手の数は1匹ではない。


『『『グべへへへへへッッ!!』』』


 3匹もいる。

 身長2メートルを超す筋肉モリモリの巨体からは想像できない、俊敏な動きでゴブリンキングはついに私を包囲した。


「そんな……」


 ――ズササッ。


 ローファを地面に擦り付けて急ブレーキ。

 前方に1匹、後方に2匹――ゴブリンキングに囲まれる。


 ていうか、なんでキングなのに3匹もいるんだよ。

 封建主義なのだろうか?

 となると、その上にゴブリンカイザーとかがいるのだろうか?


 って、そんなしょうもないことを考えている場合ではない。


「ついに私も年貢の納め時か……」


『ったく、やっぱ鈴蘭リンカは俺サマがついてやんねェとな』


「その声は……クロ!?」


 ――シュバッ!


 空を覆い隠す樹木の上から、1つの影が落ちる。

 突如登場した新手の存在に、3匹のゴブリンキングは一歩後ずさり、警戒する。


 そこにいたのは、身長180センチのイケメンだった。

 白い髪はロングウルフヘアーに伸びて、切れ目の瞳は赤と紫のオッドアイ。

 鼻は男性韓流アイドルみたい高く整っていて、イケメンフェイスでゴブリンキングを牽制している。


「えっ!? 誰!?!?」


『俺サマの人間形態だ』


「人間形態とかあるんだ!?」


 クロはそういうと、跳躍。

 ゴブリンキングの頭上を取ると、手から大量を炎を放出する!


『くらえ! ダークネスブレイズ!!』


『『『グオオオオオオオオッッ!?!?』』』


 炎の濁流に飲み込まれたゴブリンキングは、断末魔をあげながら消滅していく。


『ったく、世話焼かせやがって。あんま俺サマに心配させんじゃねェぞ』


「ひゃ、ひゃい……///」


 クロは私の元にやってきて、しなやかな指で私の顎を持ち上げる。

 めちゃくちゃイケメンだ……。

 やばい、顔が赤い。

 ドキドキしてきた。


『もう2度と俺サマから離れるなよ。鈴蘭リンカはもう、俺サマの所有物なんだからよ』


 剣状態のときは、口の悪いチンピラみたいな印象だったけれど……。

 人間の状態だと、同じ口調でも俺サマ系イケメンになるのだから不思議なものだ。


鈴蘭リンカが2度と俺サマから離れられないように……〝徴〟を、つけてやんねェとな』


「し、徴……って……///」


 そういうとクロは、ジャニ系イケメンの顔をゆっくりと私に近づけてきて――唇を……。


 ま、待って!

 キスしようとしてる!?

 そ、そういうのはまだちょっと心の準備が……。


 幼稚園児の時にお兄ちゃんとしたのをノーカウントとすれば、ファーストキスもまだなのに……。


 でも白髪ウルフカットオッドアイイケメンなら……///


 顔が赤くなってる……火傷しそうなくらい。


 ……。


 …………。


 ………………いや、ちょっと待って。


「熱ッ!? ちょっとまってマジで熱いッ!!」


 まるで熱した鉄板に顔面を押し付けられているようだ。

 その熱さに耐えきれず、私はクロの胸をドン、と突き飛ばした。


 そして――――



***



『いい加減起きろ糞童クソガキ


「悪夢だ……」


 最初に目に入ったのは――知ってる天井・・・・・・


 石の天井。

 石の壁。

 地面には毛の長いクマの毛皮で作った厚手の毛布。


 少し離れた場所に、恐らく私が反射的に放り投げた魔剣のクロが、火の消えた焚き火痕の上で灰まみれになっていた。

 灰の上に投げられたことが不満なようで、恨みまがしい視線を発している(クロに目はついてないが)。


 とっくに日が昇っているにも関わらず、一向に起きようとしない私を起こすために、熱で私を起こそうとしたのだろう。


「ていうか……なんだよ、白髪ウルフカットオッドアイイケメンって……」


 自分の妄想する理想的なイケメンが姿が、あまりにも中学生の妄想全開すぎて、今度は内側から、頬が熱くなるのを感じてしまったのであった……。


 私もJC3だし、異世界に来てから、1度も致せていない。

 この生活にもある程度馴れて、毎日安定して食欲と睡眠欲を満たせている。

 そうなると……最後の三大欲求を求めてしまうのが人のさがというもので(さが/せいだけに)。


 欲求不満なのかな……?

 だとしても……クロに対してそういう感情を抱くのは……マジでありえない。

 自己嫌悪で、最悪の朝となってしまうのであった。


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【あとがき】

今回のAIイラストは主人公ちゃんの妄想で擬人化したクロです。


https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16818792436891791437

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