第30話 春のような一日

理玖が、ふわりと伸びをしながら呟いた。


「ねぇ〜、君たちさ……なんかもう、少年マンガの主人公みたいだよねぇ〜?」


「主人公……?」

奏多が目を瞬かせる。


「うんうん♪ どんなにボロボロでもぉ〜諦めない〜!

信じる心がパワーになるんだ!ってぇ、叫びながら立ち上がってぇ、

どっかーん!って敵にカウンター決めるタイプ〜!」


「……なんか、それ言われるとちょっと恥ずかしい」

陽葵が頬を赤らめた。


「で〜、朔くんなんても〜う、完全にジョジョよジョジョ!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーッ!!ってぇ、ケルベロスをぶっ飛ばしてたも〜ん!」


「……俺が使ったのは、剣だ」


「んふふ〜ん、それはもう、魂のスタンドってやつでしてぇ〜?」


「スタンド使いだったの、朔お兄ちゃん……!?」

陽葵がツッコミながら笑う。


「『だが断る』って言いそうな顔してたよぉ〜?」

理玖は悪びれず、指をパチンと鳴らして微笑んだ。



「まぁでもぉ〜、僕みたいな斜に構えた脇役からするとねぇ〜? そういう真っ直ぐさ、ちょっと……眩しいんだよねぇ〜」


「眩しがってたんだ……?」 奏多が苦笑する。


「うん。心が曲がりすぎてさ〜、真っ直ぐ歩こうとしても、たまに壁にぶつかるの〜。」


「地獄で方向音痴ってどういうこと?」 陽葵が笑う。


「人生のナビ、アップデートしなきゃダメかもねぇ〜。

でもまあ……そんな僕でも、こうやって誰かとぬくもりを分け合えてるなんて、案外、悪くないかも〜♪」


空間を包む魂のバリアのぬくもりは、まるで春の陽だまりのようだった。

氷冷地獄の最果てで、そんな穏やかな“ひととき”があるなんて、誰が想像しただろう。


そして朔が、ぽつりと口を開いた。


「……それでも、お前は、誰かを助けているよ」


理玖の瞳が、ふと揺れた。


「えへへ〜……朔ってば、急に真面目なこと言うんだから〜♪ ……でも、うん。ありがと〜ぉ」


魂のぬくもりが、もう一段、優しく彼らを包みこんだ。


それからは、笑いが絶えなかった。

寒さも、痛みも、しばし忘れて。

まるで――年相応の学生たちのように。








それから七日――

朔の身体もようやく癒え、

俺たちは、再び地獄の旅路を歩き出すことにした。


冷たい風が吹き抜ける中、四人が静かに並ぶ。


「奏多、陽葵、理玖……行くぞ」

朔が背を向けて、ゆっくりと歩き出す。


「うん、行こう」

奏多は、かつてよりも力強く頷いた。

その背には、自信が宿っていた。


「……私も、頑張るっ」

陽葵も笑顔で応える。

あの日の震えていた姿は、もうなかった。


「さてさて〜、僕もついに勇者パーティの一員ってわけだぁ〜♪」

理玖はひょうひょうと肩をすくめるが、その目には確かな決意が灯っている。


奇妙で、頼もしくて、優しい仲間たち――

このメンバーなら、どんな地獄だって越えられる気がした。


だが、次に待ち受ける地獄は、

俺たちの想像を超える本当の地獄だった。


新たなる扉が、静かに、そして不気味に――開かれた。


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