エピローグ

~数ヶ月後~


「アイドルって……」


 出会った瞬間に口から言葉が漏れる。

 呆れというより、驚きというより、嘘でしょう? みたいな。


「やるつもりなかったんだけど、やってみたら案外楽しくて、いずれ役者にも挑戦できるかもしれないし」


 いま、私の前には一般人に変装している、らしき、中川くんが座っている。

 場所は近所の喫茶店。

 キャップとマスクをして変装してても、そのイケメンさとオーラは隠し切れていない。


 うぅ……、顔がいい……。キラキラしてる……。


「たしかに、最近のアイドルは役者としてドラマ出てる人も多いもんね」


 街で有名芸能事務所にスカウトされてから、中川くんは某アイドルグループのリーダーをしている。

 気が付いたときには、努力とか、カリスマ性とか、オーラとか、運とか、すべてが味方して、変装しないと外を歩けないくらい、中川くんは有名になっていた。

 仕事が忙しいらしく、私と彼は本当に久々に顔を合わせたところだ。


「そう、可能性はゼロじゃないから」


 中川くんが楽しいなら、まあ、いいかなとも思う。演技も上手だし。それは私が一番知ってるし。


 でも、私、アイドルと友達ってことだよね。ん? 私たちって友達なのかな?


「ねえ、中川くん、私たちって友達?」


 気になって思わず尋ねてしまう。

 いままで聞いたことはなかった。


 こんな地味な私と中川くんが友達を続ける理由ってなくない?

 もう約束も何もしてないし。


「Aちゃんはどうしたい?」


 彼は未だに私をAちゃんと呼ぶ。

 呼ばれて苦しくはないけど、なんだか落ち着かない。


「私に聞くのずるくない?」


 むくれてしまう。

 だって、私は一回中川くんを好きになって、フラれてるんだから。

 この残った気持ちが許されるはずがない。

 そう思ってたけど、お姉ちゃんはきっと、そんなこと気にしないんだろうな。


「Aちゃんは本当の俺のこと、まだ全然知らないと思うんだよね」


 自信満々な様子で意地悪く言う中川くん。

 誰に似たんだか、とか思ってもいいかな。


「ちゃんと教えてくれるんですか? 天下のアイドル様が」


 きっと、私、いまイタズラっ子な笑みを浮かべてる。

 ほんと、誰に似たんだろうね。


「いいですよ? デートしますか?」

「じゃあ、お友達からよろしくお願いします、颯馬くん」


 なぜか、二人で敬語になりながら、私たちは握手を交わした。


 ◆ ◆ ◆

 

 お姉ちゃん、そっちでもまだ小説書いてる?

 きっと書いてるよね。

 私も勉強の傍ら小説を書き続けているし、中川くんもアイドルやりながら役者を目指してるよ。

 それと、あの小説ね、改稿することに決めたの。

『明日、後悔した君は私とさよならをする』

 あのとき、ラストはお別れをしてしまって、そのまま二人は別の道に行ってしまう話だったけど、改稿後は二人が最後に関係を最初からやり直す話になる予定。

 どうか、私たちのこと見守っていてね。大好きだよ、お姉ちゃん。

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仲里鈴音は死んでない 小早川乗り継ぐ @namakula17

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