1-3.しなくていいならなにもしたくない

 そうして、食事もとらないまま、眠っては起き、起きては眠りを繰り返し。

 目を開くたび、今はいつで、ここはどこかを考えた。

 もともと寝起きはそんな感じだった。リビングのソファでうとうとしてはっと目が覚めたとき、一瞬、朝か夜かもわからない感覚にとらわれる。夢の中で目が覚めたような曖昧さに胸がどきどきして、見慣れた我が家の光景にほっとしたりして。

 直後、やらなければならないことをあれこれ思い出し、時間を無駄にしたことを悔やんだりして。

 なんにもしたくない。そう思うことが多々あった。何もしたくない。

 だが主婦たるもの、そういうわけにはいかない。掃除、洗濯、料理、買い物、ゴミ捨て、名もなき家事の数々。どれもこれもやっておかないと、家族にいちいち、あれがないこれがない、今日のごはん何? と騒がれる。

 なんにもしたくない。なら、何もしなければいいじゃない。とはいかない。

 でも、ここでなら。

 眠っては起き、起きては眠りを繰り返し。

 どんどん不機嫌になるかけるの精悍な顔。辛抱強く世話をしてくれるつばさの端正な面差し。

 土臭さが鼻について目が覚める夜の闇の深さ、うるさいくらいの虫の音、日が昇って草葺屋根の隙間から差し込む光、ひんやりした土間の意外な心地よさ、かまどに火があること、兄弟の話し声がすることの安心感。

 そういったものに慣れてきてから、アカネはようやく起き出してのそのそ外へ出た。

 段差をあがって狭い出入り口から顔を出すと日差しがまぶしい。まるでひきこもりの第一歩だ。ほんとにひきこもっていたのだし。

 ぽてぽて歩き、通り道まで出て見まわしてみる。

 右にも左にも人気はない。ゆるやかなカーブの先は木が生い茂っていてようすがわからない。

「……」

 アカネは竪穴住居へと引き換えし、その前の干し草の山にダイブした。

 日光に晒されていたそれは、温かいというより熱い。すんと青臭さも残っているし土埃がものすごい。

 後悔したが、飛びのくのも面倒でしばし堪えた。

 長袖長ズボンの患者衣越しのちくちくした感触になじんでしまえば、眠るのには困らない。

 そうして午睡していたところを、翔に転がされ起こされたのだ。

「やっと出てきたと思ったらまた寝てやがるとかありえないだろ!」

「そんなことないよ」

 翼がしゃがんでアカネを抱き起した。

「せっかくだから顔をおふきよ。そしたら索餅さくべいを食べよう」

「そうだ、蒸してくるからちょっと待ってろ」

 いそいそ家に入っていく翔を見送り、翼は表の甕から水を汲んで地べたに座ったままのアカネの前に置いた。

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