第36話:結婚2


婚姻式も終わり、月もスバルとアルベルトを祝福するように輝いている。


貴賓室に戻ったスバルは、湯浴みを終え《襦袢》を着て今日の出来事に呆然としていた。


白昼夢。


そう言っていいほどの衝撃を自身の結婚で受けるとは、露ほども思わなかった。


あれは、本当は白昼夢だったのでは? と自身の記憶を疑う。


「――――アル。《神子の子》方の言ったことは、本当……なんだよね?」


スバルと同じように呆然とし、無意識だろうスバルを膝に乗せベッドに座るアルベルトに話し掛ける。


「そうだな。夢ではなさそうだ」


本当なのだと肯定するアルベルトだが、現実味を帯びていない返事だった。


しかし、それは仕方ないことだった。







「「アルベルト陛下。スバル様。この度はご結婚おめでとうございます」」


はじまりは、《神子の子》達の息がぴったりなその言葉。


「そして、おめでとうございます」と透き通るような声のアウラの妃。


「神から贈り物をミナシアに……」と低く凛とした声のクリスタロスの妃。


その二人は、穏やかに微笑んでいる。


そして、少し間を置いて、この世界で愛されている神のリタの髪を持つアウラの妃が歌うように告げた。


「ミナシア王国を《最古四つ国》と同じように、精霊の神を贈ります。 クリスタロスの守護神であった水の神。その神をミナシアへ」


しんと静まりかえった式場が、かなりの時間が経ってからざわめきだす。


スバルとアルベルトも、信じられない言葉に呆然としていたが 「では、クリスタロスの守護神はどうするのだ?」とどこかで問う声に我に返る。


「そうです。クリスタロスは、どうなるのですか? クリスタロスに、精霊の神――――守護神が居なくなるのだとしたら、 《神の贈り物》だとて、クリスタロスの古くからの友人ミナシアは断る」


さすがというべきか、呆然唖然としながらもスバルを落とさなかったアルベルトが迷うことなく《神の贈り物》をきっぱりと断った。


そう。《ウィルグランド帝国の侵略》というこの大陸を揺るがした歴史上の大事件では敵対していたが、 神の怒りによって罰を受け、クリスタロスとなってからは友好な付き合いをしている。


実際にアルベルトは、クリスタロスの王イグナート・クリスタロスとは友人なのだ。


アルベルトは、無表情でいるクリスタロス王を「どういうことか」と目で問う。


問われた方は、無表情を少し崩し口端を上げ肩を竦める。


どうやら、《神子の子》達に聞けというようだった。


「クリスタロスには五年ほど前から、新たな守護神。氷の神が居ます。氷の神は、《ウィルグランド帝国の罪》を許した神から証に頂いた《神の贈り物》」


だから大丈夫なのだと告げたのは、クリスタロスの妃だった。


その後は沈黙が、式場を支配した。


スバルはアルベルトを見ると、彼もまたスバルを見た。


そう言う事かと。言葉を出さずに、二人は合点がついた。


『次は神の祝福で、わたくしの力が無くとも永遠に獣人の国と成りましょう』


《三つ尾の戦巫女》言った言葉を思い出したからだ。


この世界の神と《三つ尾の戦巫女》で何かが起きたかしらないが、それに違いなかった。


「新たな守護神を授かったミナシアに、祝福を」


沈黙を破ったのは、アウラの王。こちらも、アルベルトの友人であるヴィルフリート・アウラだ。


彼が拍手をすれば、貴賓から少しずつ、そして盛大に拍手がスバル達に贈られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る