第43話 閑話 コンサートの後

「コンサートの予約が入りましたよ!」


マネージャーの言葉が待合室に響き渡る。


SEKKの私を含む64人に戦慄が走った。


久々のコンサートだ。


あれだけ、テレビやCD等、露出を増やしているのに男性と触れあえる事など滅多にない。


少なくとも、コンサートなら64人の中の誰かに興味があって問い合わせてきたという事だ。


「コンサートは何時ですか?」


血走った目でメンバーの紺野愛子が叫んでいた。


マネージャーは、にこやかに話す!


「何と明日よ、凄い仕事でしょう!」


凄い何て物じゃない。


今迄ポンコツだと思っていたのに、コンサートをとるなんて有能なのかも知れない。


今度は獣のように愛野静流が叫んだ。


「握手会! 握手会のオプションは取れたのですか?」


愛野静流。 この子は凄く金持ちだ。 上場企業の飲食チェーンの社長令嬢で、母親は飲食店を何店舗も経営している。オプションの握手会に100万ウェン突っ込んでいた。そう、彼女と握手するだけで男は100万ウェン貰える。これなら心を動く男をいるかも知れない。 握手なんて多分、彼女を含むGOD11辺りにしか縁なんてないよね。ちなみにGOD11のレベルは握手会に最低でも30万ウェンは突っ込んでいるからね。私には流石に出来ない。


「もちろん、とれたよ! 何と、星野洋子さん。おめでとう!」


「えっ、私、本当に私なの? 私お金が無いから握手会に5千ウェンしか突っ込んでないのに」


凄い形相で愛野静流が睨んできた。


「マネージャー、何かの間違いじゃないんですか? 洋子、たったの5千ウェンですよ!」


「可笑しいですよ! 静流さんみたいに100万ウェンの設定をしている人ならともかく、たったの5千ウェンで男が握手してくれるなんて」


「でも仕方ないわ。お客様の要望だもの。星野、貴方はもうお金も続かないんでしょう?契約金の追加をしないなら、ここに居られるのは後1週間位かしら 最後に男と握手が出来て良かったじゃない」


「はい、頑張ります」


周りの反応は.怖い……ぐぬぬぬぬぬうという怨嗟の声が聞こえてくる。


多分錯覚だと思うけど、目から血の涙を流している子までいる。


「ふん、何処かの爺がボランティア気分で申し込んだんでしょう。じゃなきゃ5千ウェンなんてありえないわ」


「だけど、まだ枯れてない60歳の爺なら5千ウェン位なら払っても良いんじゃないかな?」


「60歳以下でまだ精力のある男が5千ウェンの握手会なんて。あり得ないわ」


「まぁ良いわ、2年ぶりのコンサートだもの頑張りましょう!」


5千ウェンで握手してくれる男の子ってどんな子だろう?


若い子だと嬉しいな。


◆◆◆


コンサートの準備を終えて貴重な男性を迎える準備が終わった。


音楽に合わせて飛び出した。


嘘っ! どう見ても少年だわ!


「愛らぶゆー.会いにいくー」×64


《嘘よね……こんな若い男の子が見に来てくれるなんて》


《あり得ない、あり得ない。私、あの子との握手会なら100万積んでも良いわ》


周りがざわめくのも分かるわ。


どう見てもスクールの生徒位の男の子が私達のステージを見に来るなんて……あり得ないもの。


《あの子との握手が5千ウェンなの……高級マンションが1ウェンで売っている方がまだ信じられるわ》


《嘘だ、飲み物以外、手を付けないで見てくれるの? よし頑張ろう》


皆、凄くテンションが上がっていていつも以上に気合が入っている。


《やばい、こっちが目が釘付けになるんだけど》


《どう見ても、あり得ないんですけど……可愛い男の子なんですけど》


《もっと見ていたいな……あの子》


《もう終わっちゃうよー》


若い男性に見られ、認めて貰えるかもしれないチャンス。


誰もが興奮するのは仕方ないよね。


だけど……もう終わりが近い……



「アンコール、アンコール」


「アンコール、有難う! ここは私、愛野静流がシングル曲……ピンクのマーメイドを歌っちゃいます!」


《ぬかったわ。男の子からアンコールなんて普通貰えないから出遅れたわ》


《静流ちゃん! ずるいよ》


「聞いてくれてありがとう! ここは2曲目 愛野静流の」


「静流ちゃん! 冗談は終わり! 終わり!此処からは私本田玲子が歌います! ピンクのバナナ……ひっ!違います...全員で愛の歌を歌います。さぁ皆んな再度集合ですよ!」


「「「「「「はーい」」」」」」


結局、この若くて可愛らしい少年は10回もアンコールした。


◆◆◆


楽屋にて


コンサートが終わると私愛野静流は興奮していた。


それは他のメンバーも一緒ですわ。


「あの子、凄く良いな!こんなに楽しく歌ったの初めて……」


「うん、凄い!勘違い女って言われそうで怖いけど、マジでSEKK64が好きなんじゃないかと勘違いしちゃうよ」


「本当だよね! 64人全員でパートナーにして欲しいって申し込んだら……受けてくれそうな気がした。怖いわ本当に」


「多分、暫く、もしかしたら一生.寝たら彼の顔が出てきそうだよ」


「それ解かる!抜く時もう彼の事しか想像できないもん」


「本当に悔しいですわ! あんな子が来るんなら握手会に1億つぎ込みましたのに」


「ですよね。静流さん程、お金ないけど私だって全財産つぎこみますよ」


「だけど、彼違うんじゃないかな? 洋子ちゃんの5千ウェンを選んだんだから、お金が欲しいなら静流の300万選ぶと思うよ」


300万も突っ込んでいたのに、5千ウェンに負けるなんて……


「確かに、可笑しいよね。よりによって一番低い金額の洋子を選ぶんだから」


「まさか! 男なのに、本気で洋子を好きになったとか?」


「ないない。漫画やドラマじゃないんだから」


「そうだよね、現実社会で女を嫌わない男なんかまず、いないんだから!」


「だけど、彼、親や姉妹を連れずに一人できたんだから、相当ランク高いんじゃない! Bランク以上じゃないのかな?」


「やばい、それって超VIPじゃない! Bランクの男なんて日本に何人いるのかな」


「10人以下とか聞いた事があるよ、下手すりゃ1桁しか居ないかも知れないよね」


「そうすると、Bランク以上の男性が洋子を好きになった...そういう事?」


普通に考えたらあり得ませんわ。


「解らないわ! そんな夢物語、考えられない。あったら奇跡ですわ」


「あのさぁ、もう5分以上経つけど洋子戻ってこないよ」


「嘘ですわ。金目当てのオジサンですら3分で帰ったのに……」


「それでも300万ウェンで3分。粘った方だよね静流さんも」


「まぁ、最後にはこれ以上握るなら訴えるって言われましたわね」


300万も渡すのですから、少し位良いじゃないですか。


「だけど、余りに遅くない? まさか性犯罪とかして無いかな? やばいよ」


「これは仕方なくですわ……モニターで見てみましょう」


今の時代では男性と女性が二人きりになるような場所は特定施設以外は全てカメラが設置されていますわ。


勿論、法的に問題になる前に覗くのは男性保護の観点から違法行為だから、無暗に見てはいけませんが、性犯罪絡みなら話は別ですわ。


皆、同じ意見ですわね。


「必要悪、必要悪っと」


《嘘だ……あの子、にこやかに洋子と話しているよ》


《静かに、余り大きい声を出すとマネージャーに聞こえますわ》


《なっ、何これあり得ないんですけど!男の方から手を握っているんですけど。しかも両手で》


《なんなのかしら、あの神対応》


《何で、そんなに洋子の手を握れるわけ? 本当に洋子が好きだというの? そういう事なの? 羨ましすぎるんだけど》


《もう、5分握りっぱなしなんですけど! あり得ないわ》


《まるでドラマ Bランクのプリンス様みたい。羨ましい》


《えっ、まだまだ居るなんて……信じられない。たった5千ウェンでこんな神対応なの? あたしなら100万は出すわ》


《私なら、直ぐに銀行に行って、即金で1千万払いますわ》


「貴方達、何をやっているのかしら? これは犯罪よ、犯罪!」


ヤバいマネージャに見つかりましたわ。


「その、私達は洋子が変なことしないように見張っていただけです!」


「私はマネージャーとして貴方達が変な事しないように見張る義務があります! あれっ? だけどまだ続いているの握手会!」


「「「「「はい」」」」」」


「長いわね。カメラじゃ音声は余り聞こえないわね。直視しちゃ駄目だけど、様子見位には見張りましょうか?」


「そうです、それは必要なことですわよ」


「確かに、問題起こされても困りますからね……」


「あそこまで出来るのってBランクでも上位。限りなくAランクに近いんじゃないかな」


「さぁさ此処までです、駄目です。仲良くやっているのは解りましたから、ここからは見る事は許しませんよ」


「少し位良いじゃん」


「男性プライベート法上の犯罪者になりたいのですか?」


「確かに引っかかりそうだよ」


「仕方ない」


私、愛野静流だけじゃなく、皆、羨ましそうにみていましたわ。


あんなの……本当に羨ましすぎるわ。


マネージャーがスイッチを切ろうとしたんですが……


「ちょっと待って! 嘘でしょう……本当なのこれっ!」


『もし良かったらLRにこれから行かない?』


『えっ……それって本気ですか?』


『あっ、ゴメン、今のは……』


『行きたいです! 行きたいに決まっているじゃないですか? 冗談じゃ無いですよね? 本当にLRに行ってくれるんですよね?』


『勿論』


『それじゃ、すぐに行きましょう。さぁ、さぁさぁーー』


『うん、そうだね……』


「LRですって……」


マネージャーも含み私を含むメンバー全員は驚きの余り、思わず固まってしまった。


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