番外編 ダフネの日常

━━━━━━「……ちゃん……ネちゃん」


「ん……んん……」

 誰かに揺らされて、だんだんはっきりしてくる。


「ダフネちゃんおきて!」


 目を開けると、目の前が白銀の毛と細くてきれいな髭が生えた顔で埋まっていて、琥珀色の目の先には私がぼやけて映っている。


「あ、おきた?朝ごはんできてるよ」

「ライラちゃんおはよお……」

「うんおはよっ」


 ライラちゃんがしっぽで優しく布団をめくってくれる。

 でもどこかさみしい。


 私はゆっくりと起き上がり、体を伸ばす。


「ん…んん……」


 そのままフッと立ち上がり、部屋から出ようとする私を━━━


「待ってダフネちゃん!髪すくぐらいはやらない?」

「んー……わかった!おねがい!」

「まかされました!ふふっ」

 クシを持ちながら、軽くお辞儀するライラちゃん。


 応えるように私も。


 席に着いて、前の鏡からライラちゃんを見つめる。


「じゃあはじめるよ~~」

「おねがいします!」

 語尾に力を入れて返す。


 ライラちゃんは肉球で私の髪を支えて、クシを髪の中に差し込むみたいに入れる。


 そのまましゅる…と音を立てながらクシがおりる。

 頭のもやもやがとれるみたいで気持ちいい。


「ねえライラちゃん」

「なあに?」

「気になってたんだけどね?ライラちゃんって何の獣人なの?」


 鏡越しにわかるツヤツヤでフワフワな毛に、整ってるけどちょっとだけ見えてる鋭い爪。

 そのふたつが、私に猫みたいなかわいらしさに野生のたくましさを感じさせる。


「雪豹ってわかる?」

「うんわかるよ!」

「私ね、それなんだっ」

 少し誇らしげな顔。


「へぇ~……だからしっぽ長いんだ……」

「ダフネちゃん、けっこうくわしいねっ」


 しっぽがブンブン揺れていて、うれしいのがよくわかる。

 それを見ると、こっちもうれしい。


「じゃあさ、ライラちゃんけっこう強いの?」

「い、いやいや私なんてまだまだだよ!」


 髪から手を放してあたふたするライラちゃん。


「ふふっ」

 そんな姿がかわいくて、つい笑みがこぼれてしまう。


 ライラちゃんは再び髪を持ち上げてすき始める。


 そんなゆっくりと流れていく時間と大好きな友達といる幸せを、じっくり噛みしめていた。


━━━「よし!おわったよ!」


 ライラちゃんがそっと手を離すと、髪がふわりと椅子の背もたれを隠すように落ちていく。


「ありがとうライラちゃん!」


 そういいながら私が抱き着くと、ライラちゃんも優しく抱き返してくれる。

 長いひげが頬にあたって少しくすぐったい。


「ううん大丈夫だよ!じゃあ朝ごはん、食べに行こ?」

「うん!今日はなあに?」

「えーとね、鮭のムニエルじゃないかな?だったと思う」

「やったーだいすきぃ!!」


 そうして私はうきうきとした足で食堂へと向かった。



━━━朝ごはんも食べ終わって、部屋に戻って今から勉強の時間。

 お兄様に置いていかれないためにも大事だとわかっているけれど、朝からこんな憂鬱なことはしたくない。


 近くの本棚に問題集に手を伸ばす。

 その手はいつになくゆっくり。


 手に取って机に置き、ページを開く。


 規則正しくならんだ文字と絵が私の目に入る。


「うえっ」


 つい声が漏れてしまった。


「なに?今日理科やるのダフネちゃん?」

 ライラちゃんが後ろから覗きこむ。

 誰かがいると落ち着いてできるから、うれしい。


「な、なにこれぇ……」

 まずそうな顔をしているのが見てないけどわかるみたいな声。


「えっとね植物の…やつ!!」

「そ、そうなんだ……ごめんとりあえずご飯食べてくるね」

「わかった!いってらっしゃい!」

「うんいってきます!」


 扉がパタンと締まり、ライラちゃんがいなくなると、部屋が嘘みたいに静かになる。

 聞こえるとしたら外でお兄様とお父様が剣術の稽古している音ぐらい。


「よし!」

 気合を入れてペンを持つ。 さっきのふんわりとした空気から、少し張り詰めた雰囲気に早変わりした。


━━━やり始めると、すらすらと進んで思ったより楽しい。


「ただいまダフネちゃん」


 扉がゆっくりと開く。


「あ!おかえり!」

 ひもが切れたみたいに晴れやかな気持ち。


「ごめんね遅くなって……」


 申し訳なさそうに手を合わせるライラちゃん。


「ううん大丈夫!」

「で、けっこう進んだ?」


 横からチラッと見る。 やっぱり肉球のおかげで足音がしない。


「うん!だいたい20ページくらい!」

「へぇーすごいね……ほんとに」


 突然外から大きな音がする。 何かが強くぶつかるみたいに。


 外を見ると、お兄様が柵にもたれかかっていた。


「だ、だいじょうぶかな……」

「んー……大丈夫だよたぶん!」

「で、でも……」


「じゃあ、あれ終わったら、今日の勉強おわりにしよ?」

 そう言いながら外を指さす。


「わ、わかった……」


 私はまた勉強を始める。

 でも、あのことが気になってどうしても集中できない。


━━━そんな浮いた気持ちで勉強をつづけた私は━━━


「あ、終わったみたいだよ?」


 その声で、勢いよくペンを置いて、扉に走る。



━━━「お外行ってきま━━━」

 扉が閉まって声が遮られる。


 この部屋には私1人。


 ふと気になって、ダフネちゃんがやってた問題集をしっかり見ると━━━


「な、なにこれ……さ、細胞壁……?」


 よくわからないリアルな絵によくわからない単語。

 頭がもういやだって言ってる気がする。


「……」


 問題集を閉じて、絵本に手を伸ばす私だった……。



━━━お兄様を治して部屋に戻ってきた私は━━━


「た、ただいまぁ……」


 ベッドに座って絵本を読んでるライラちゃんを見つけた。


「あ、おかえりダフネちゃん」


 本を閉じてこっちに笑顔を向けてくれる。

 心が晴れていくような感じ。


「あー疲れた!」

「あれすごい魔法だったね」

「でしょ!?最近覚えたんだっ」

 胸を張って答える。

 やっぱり、ほめられるととてもうれしい。


「たくさん魔法使ったらおなかすいちゃった!だからライラちゃん!」

「?」

「ちょっと外まで出かけよ!」


 私がそういうと、ライラちゃんは時計を見て━━━


「んーでも昼ご飯も近いよ?」


 困ったような顔。


「えーいいじゃない行こうよおー」


 ライラちゃんの肩を揺らす。


「わかった、わかったよお!」

「やったー!」


 そうして私は2人でお父様の仕事部屋、書斎に来た。

 少しだけ緊張する。


「ねえねえお父様ぁ?」


 よそよそしく扉を開けると奥にいつも通りお仕事をしているお父様が。

 でも積もっている紙で顔は見えない。


「ああダフネか。で、どうしたんだ?2人そろって」


 手を止めてこっちを見る。


「あのね、お外でお買い物したいの……だから、おこづかいちょーおだい!」

「まあそれはいいが……で、どこまで行くんだ?ライラついてるからある程度はいいが」

「んーとね……いまねお腹がすいててぇ……」


 顎に指を当てる。 そこまで考えずに来たから、どこで…どの店に……


「なら下の村でいいんじゃないか?うちは田舎だが飯はうまいぞ。ほらこの前俺が行った定食屋とか━━━」

「5歳に定食屋は流石にはやいと思いますが」


「め、メイド長……」

 ライラちゃんが少し気まずそうにしている。 たしかにお仕事さぼってお出かけするみたいなものだし。


「まあそれはそうか……で、いくらぐらいあればいいと思う?」


 お父様が私を見つめる。


「えーとね、だいたい……大銅貨2枚くらい!」

「んーまあいいんじゃないか?」

「やったー!ありがとうお父様!」

「ああ、気をつけてな」


 巾着袋を受け取って部屋を出た私たちは、玄関を出て門に向かっている。

 歩くとシャリシャリと音がして気持ちいい。


「よし、じゃあしゅっぱーつ!」


 門の扉を開け、外へと1歩━━━


「まってダフネちゃん!」


 ウキウキとする私の足をライラちゃんが止める。


「?」

「私が、何の獣人か忘れたの?」


 何か思いついたみたいな顔。


「え、いいの?」

「うん、全然大丈夫だよ!じゃあ、つかまって!」


 巻きつくみたいにしがみつく。。

 これから起こることを考えると、ニヤニヤがとまらない。


「よし、いくよ~」


 ライラちゃんは四つん這いになる。

 それに合わせて私も体を上げる。 人に乗ったのはこれが初めてだからなんだか不思議。


 肉球が地面に食い込むと、そのままはじかれるみたいに体が飛び上がる。


 地面がどんどん遠くなっていくのが少し怖いけど、それも風になったみたいで気持ちいい。


「どう?ダフネちゃん!」


 いつもよりのどを張るライラちゃんの声。


「うんとっっても気持ちいい!!」

 空に向かって声を飛ばすけど、自分ではよく聞こえない。


 少し下を見ると、だんだん落ちてきてる。


「あはははは!」

 心の声が外に出て、あるのはこの景色が信じられないって気持ちだけ。


 ライラちゃんも私もお互いの顔を見て笑ってる。



━━━木の上に着地して、また飛ぶ。 それを繰り返してると、ほんとにいつの間にか村の前にいた。


「え、もう着いたの?」

「うん、ちょっとはりきっちゃったかな」


 そう言いながら優しくおろしてくれるライラちゃん。


 村に入ると、いろんな形の村とかお店とか、時々屋台も見かけてた。


 その中でも気になるのが1つ。


「「ヤッキル……グリル?」」


 ちょっと炭っぽいにおいと、お肉のにおいが合わさった感じで目も鼻もそっちに向いちゃう。


「いらっしゃい!どれにする?」

 このちょっと太ったおじちゃんが屋台主みたい。


 下を見たら、モモ、カワって文字とそれっぽい絵。


「んーと……モモを……」


 横のライラちゃんを見ると、口にちょっとよだれがたまってる。


「2本!」

「あいよ!うち塩とタレあるけど、どっちにする?」

「じゃあ私はタレ!」

「お嬢ちゃんは?」

「わ、私もいいの?」


 びっくりした顔をしてるライラちゃん。


「もちろんよ!」

「え、じゃあ……わ、私もタレで!」

「あいよ!」


 おじちゃんは下の方からまだ焼けてないモモ2本とカワ2本取り出すと、網の上に置いた。 カワはおじちゃんが食べるのかな。


「お嬢ちゃんたちどこから来たんだい?」

「わたしたちあそこから来たの!」

 そういいながら、来た方向を指さして言う。


「お!じゃあストレア家の人たち会!これじゃ失敗できないねえハハハ!」

「知ってるのね?」

「そりゃね!まあここ来るときに調べただけだけどな!」


 4本のクシを上げて、焼いた面にタレを塗る。


 それから焼いてない方を下にして、また焼き始める。


 香ばしいにおいがやってきて、とてもワクワクする。


「おじちゃんはここに住んでるの?」

「いや、ここには初めて来たんだ!店舗拡大?がなんだってまあよくわかんねえけどいろんなとこに試しに立ててるんだと!」

「「へー」」


 串を全部上げ、焼いてたところにタレ。


「うし!はいおまたせ!」


 4本とも袋に入れてこっちにわたすおじさん。


「うちの十八番はカワだからね!おまけしといたよ!」

「え、いいのおじちゃん!?ありがとう!えっと……いくら?」


 巾着袋から大銅貨を取り出す。 でも━━━


「いやお代はいらないよ!」

「え、いいの?」

「んな子供からもらっちまったら恥ずかしくてやってけねえよ!おっちゃんたち儲かってんだから気にしないで食え!ほい!」


 串の入った袋をグイっと押し付けてくるおじちゃん。


「あ、ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「おう!うまかったらお父さんたちにも言ってくれ!」

「うん!」


 おじさんから受けっとって、ライラちゃんにモモとカワ1本ずつ渡す。


「ありがとう」

「じゃあ、せーのっ」


 一緒にお肉を抜いて食べる。


「「おいひー!!」」


 口全体にタレの甘い感じととり肉のおいしさが広がって、鼻から炭の香りとタレの香ばしさが抜けていく。 飲み込むのがもったいないくらい。


 ライラちゃんも笑顔で幸せそう。 ほんとに━━━


「来てよかった!」



━━━串を食べ終わったあと、おうちに戻った私はお昼ご飯もちゃんと食べた。 でもおかわりできなかったのはちょっと残念。


 それで今は、ハベルと遊ぼうと部屋に来てるんだけど━━━


「ええ!寝ちゃったのお?!」

「はい、昼食で眠くなられたのかと」

「……まあしょうがないかあ……じゃあちょっと早いけど」


 私はお母さんの部屋までいって、扉を開けて━━━


「お母様!魔法の練習今からやろ!」

「あら、熱心ね?んーでも……今日はいいんじゃないかしら?」

「えーなんでぇ?!」


 そんな言葉が、私は信じられない。


「いやだってダフネ、魔法使ってたでしょ?もうあんまり魔力も残ってないんじゃないかしら?」

「で、でも……」

「アラムにも言ったけど、まだそんなに焦らなくてもいいのよ?」


 つい納得しちゃう。 自分でもわかってたから。


「わ、わかった……」


 しょぼしょぼとした足で部屋を出た私は、小さい足で廊下を歩いている。


(もー今から何しよう……剣術の稽古……はいやだし……お兄様は……)


 お兄様の部屋の扉に耳を当てる。


(多分寝てるし。もーほんとになにしよ!)



━━━それで、私は結局━━━


「いくよ!」

「うん!いいよ!」


「やああ!」


 木剣をライラちゃんの首めがけて精一杯の1振り。


 でも、簡単に受け止められちゃう。


 グッと押し込むけど、びくともしない。


 一歩引いてみる。


 もう一回、次はお腹に突き━━━


「もーなんで?!」


 また避けられた。


 仕方ないからまたひく。


 今度はちゃんと観察する。

 でも、どこを見てもどこもダメな気しかしない。


「んーもしかしたらダフネちゃん、正直すぎるのかもね」

「え?」

「いや!それもいい所なんだけどね?こういうときはそうじゃなくていいんだよ。だからね?今向けてる剣の先の相手が何考えてるか、そういうのが今のダフネちゃんには必要なんじゃないかなって」

「相手が……わかった!」


 ライラちゃんの目を見てみる。 相手もこっちを見つめてる。


「いくよ!」

「おいでダフネちゃん!」



━━━だいぶ、剣をふるって、そろそろ体が痛くなってきた。


「そろそろいいわよ!ありがとうライラちゃん!」

「ううん!けっこう上手になってたと思うよ!」

「ほんと!?やったー!」


 気づかなかったけど、空がちょっと暗くなってきてる。


 そしたら玄関が開いて━━━


「ダフネお嬢様、ご夕食の準備ができましたよ」

「え、ほんと!?」


 たしかに結構お腹もすいてる気がする。

 思ったよりやっちゃってた。


「じゃあ私剣片付けておくから、ダフネちゃんはたべておいで?」

「え、いいの?!ありがとう!」

「うん!」


私は玄関までウキウキして走るけど━━━


「あ、そうだ!今日はなあに?」

「今日はハンバーグです」

「やったー!」


━━━大好きなハンバーグを食べた後、お風呂入るまでにやることがない。

 でも、今日は違う。


「じゃあ行こ!」

「えーほんとにやるのぉ?奥様に止められてるんじゃ……」

「いやいいいの!お母様行ってきまあす!」

「もおやりすぎないようにね?」


 お母様の言葉を背に、私はまた中庭に来た。


 でもやるのは剣術じゃない。


 私は奥の的をにらむ。


「よし、いくよ……」

「う、うん……」


「まずは、《冷徹な槍アイスランス》!」


 目の前に氷の槍が出てくる。

 ちゃんとできて安心。


 でもやりたいことはこれから。


 出てきた槍を前じゃなくて、横に押し出す。


「やっ!」


 すると、大きく曲がって的の真ん中に突き刺さった。

 思ってたとおり。


「できたぁ!」

「おー!!」

 ライラちゃんの拍手が聞こえる。

 何か頬が上がっちゃう。


「じゃあ次は、《清めの水アクアルクス》!」


 私が唱えると、手の先に水の玉が出てくる。

 それは淡く光ってて、ちょっとだけ落ち着く。


「んんん!!」


 その水をねじるように、回すイメージ。


 すると、針みたいに細くなって、ちょっと飛び散らせながら回ってる。


「やあ!!」


 力を振り絞って前に押し出す。


 ビュンッと飛び出たそれは前の的を突き抜けて消えてった。


「お、思ってたよりすごい……」

「え、ええ……」


 ライラちゃんを見ると、口を開けて前の的をずっと見つめてる。

 私も後のこと考えたら、どんどん怖くなってきた。


「ど、どうしよ……」


 はっとした顔でやっとこっちを見てくれるライラちゃん。


「あ、後片付けとか報告とかは私がやっておくから、ダフネちゃんはお風呂行ってきて?」

 何とか笑顔を作ってるみたい。

 やっぱり優しい。


「い、いいの?」

「うんいいよ!いってらっしゃい」

 手を振ってくれてるライラちゃん。

 そんな柔らかい仕草を見たら、私の中がポカポカしてくる。


「じゃあいってきます!」


 汗もたくさんかいたし、体も痛い。

 だから湯船に入ってるのを考えると、足が勝手に玄関に向かっていく。


 その思いに私も身をまかせるみたいに進んだ。



━━━「で、どう?」


 ダフネちゃんが中に入った後、メイド長が入れ替わるように現れた。

 何のことかよくわからないけど。


「え?」

「いや、ダフネお嬢様のこと」

「はい、いつも一緒にいてうれしいです!」


 顔を見たら、困ったような顔。


(何か違ったのかな)


「まあそれはそうだけど……いや、やっぱいいわ。ありがとう、片付けと報告は私がやっておくから、あなたは洗いもののお手伝いと……ご飯、食べてきなさい?まだ何も食べてないでしょ?」

「あ、ありがとうございます!」


 私は、玄関に向かって足を進める。


 わかってる。あのことが変なくらい。

 でも、たとえ何があっても私はダフネちゃんを守る。


 そう、ずっと前から決めていた。



━━━お風呂も上がって部屋に戻ったら、ライラちゃんが中で待ってた。


「ただいまぁ~~」

「おかえりダフネちゃん」


 そして、あのことをおそるおそる聞いてみる。


「どう?お父様怒ってた?」

「ダフネちゃんそれがね?あの後メイド長が来てね、いろいろやってくれたんだけど、全然起こってなかったらしいよ!」


 それを聞いて、なんだか、うれしいけどちょっと残念な感じ。


「ふーん……まあいいや、今日はつっかれたああ!」


 ベッドに飛び込むと、しいてた毛布が私を包み込んでくれる。

 今までよりもっと気持ちいい。


「ねね、ライラちゃん明日休みでしょ?」

「う、うんそうだけど……」


 不思議そうな顔をしてる。


「ならさならさ、またあそこ、いかない?!」

「あ、あそこって?」

「ほら!今日行った焼き鳥屋さん!」

「う、うん、行こ!」


 私は、枕を抱きしめながら━━━


「やったー!たのしみぃー!じゃあおやすみ、ライラちゃん!」

「うん!おやすみダフネちゃん!」


 電気を消して、外に出ていく。


 明かりは何もなくて、すぐに眠気がやってくる。


 ゆっくり、ゆっくりと閉じる目。


 そうやって、私のちょっと変わった今日は、幕を下ろした。

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