番外編1話 レイの初仕事

 ◼️異能協会・任務の始まり

 異能協会――。

 それは、“異能を持つ者”を国家規模で統制・運用する、直轄の巨大組織。

 異能によって秩序を乱す者を討伐し、国家を守る“盾”であると同時に、時には戦場で“矛”として振るわれる存在でもあった。


 犯罪者は、その危険度によって以下の四段階に分類されている。


 C級:異能を持たない。一般兵の戦力で十分対応可能。


 B級:異能を持つが、その制御・応用力は中程度。もしくは異能無所持。異能を持った兵士なら対処可能。


 A級:高度な制御・応用を行う異能者。討伐には熟練異能者が必要。


 S級:単独で都市を壊滅させ得る、災害級の脅威。マスター級でないと対処不可。


 その日、レイがある一室に呼ばれた。

 「失礼します。」(緊張する。だがついに。)

 張り詰めた空気の中、椅子に座る男の冷たい声が響き渡る。


 「上官のタランタロだ。――任務を命ずる。」


 黒色の軍服に赤色の刺繍が所々入れられており、そして背中に異能教会のマーク七芒星と羽の刺繍がある。

 寸分の乱れもない背筋と、氷のような鋭い眼差し。

 視線が合った瞬間、思考を覗き込まれたような錯覚を覚える。


 「目標は――ドラクドン。B級異能犯罪者だ。過去に殺傷事件多数。異能の詳細は不明だが、おそらく戦闘系。現地潜伏先は既に割り出してある。」


 低く淡々と告げられる情報に、訓練生たちの間に緊張が走る。

 レイは短く息を吸い、胸の奥に言葉を押し込めた。


 (ようやく、俺も“異能協会の兵士”として動く時が来た…)


 恐怖は不思議とない。

 剣を持つ意味、その重みを、レイは既に知っている。

 だからこそ――試す時だ。


 「行ってきたまえ。」


 タランタロの短い命令に、レイは深く頷いた。

 (ついに異能教会の兵士としての初仕事だ。スミスとの異能教会の兵士になるという約束が果たされたんだ。)

 (そういえば、スミスに最近あっていな、まああとでいいか。)


 「――はい。」


 ◼️豪華な村で

 協会の車両で現地へ向かうこと数時間。

 夕暮れが迫る頃、レイは目的地に到着した。


 そこは、周囲の村とは一線を画すほど整備された“豪華な村”だった。

 石畳で舗装された道。行き交う者の多くは護衛を連れており、商人も貴族も警戒心を崩さない。


 その一角――特に豪奢な屋敷の門前で、事件は起きていた。門の前では護衛のような男が何人も倒れている。

 でっぷりと肥えた貴族風の男が、数人の粗野なチンピラに取り囲まれ、喉元にナイフを突きつけられている。


 「おい、聞こえてんのか? このナイフで刺されたくなきゃ、金と食いもん――全部詰めろ!」


 怒声とともに、屋敷の前に緊張が走る。

 だが、その背後。


 賊たちの背後に一人の男がいた。

 

 「おい、メルファ。やっちまえ。」


 男の低い命令に応じ、背丈も体格も異様に大きい屈強な男が立ち上がった。

 異様に発達した筋肉。そして右腕が、ぶぅん……と膨張し始める。


 「俺の異能豪腕でいけや。」


 獣じみた笑みと共に、その拳が振り下ろされる。


 ◼️暴力の天才

 轟音を立てて空気を裂く拳――しかし、その一撃は空を切った。


 「がぁー!?」

 「な、何だこいつ……化け物か!?」


 メルファの拳をかわしたのは、一人の男だった。

 影に紛れて観察していたレイは、目を細める。


 (あいつか……)


 男は、膨れ上がった腕を軽やかに踏み台にし、そのまま跳び上がった。

 次の瞬間、鋭い蹴りがメルファの顎を打ち抜く。


 衝撃でよろめいたメルファの肩をがっちりと掴み、力任せに引き寄せる。

 体幹を崩されに異能を解除しようとした、その刹那――。


 「……甘い。」


 ドガンッ!!

 空中に浮いていたドラクドンが両腕を掴んだまま頭上からの踵落としが容赦なく叩き込まれる。

 続けざまに、腹部へ拳が三連撃。倒れ込むメルファの顔面に一発を入れた。


 「ぐふっ……!」


 血飛沫を吐き、地面に沈むメルファ。

 見下ろす男の目は、感情の色を一切帯びない、冷たい光を湛えていた。


 (間違いない……あれが“ドラクドン”)

 

 (異能を使わず、異能者を瞬殺。

 その間合い、体捌き、殺しに迷いのない動き――これは異能以上に危険な“暴力の天才”だ。)


 ◼️剣の決意

 レイはゆっくりと剣の柄に手をかける。


 (討伐軍に配属される前に――今、自分を確かめる)

 (確かに天才だ。素人にしては。)


 夕暮れの風が静かに吹き抜け、髪を揺らす。

 次の瞬間、レイの身体はもう地を蹴っていた。


 影から飛び出したレイを見て、ドラクドンの口元がわずかに吊り上がる。


 「……へぇ、ガキのくせに、いい目だ。」


 その言葉が、戦いの合図となった。

 豪華な村は一瞬にして、火薬に火が点いたような戦場と化す――。


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七罪戦記(しちざいせんき) レイ @ren0324

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