Day21 海水浴 (梶原、岡田、中嶌)

『海! 行きましょうよ!』

「暑いので却下」

『海水浴しましょうよ!! 今日は海の日ですよ!』


「わーい、海だー!」

「海か……?」

 通話越しに行きましょう行きましょうナビはしますからと押し切られ、あれよあれよという間にカーシェアの車を借りる手はずを整えて、2時間。いつもの3人は大学のある街から少し離れた国立公園にいた。

 海に行くから必要ですよ、と言われてあれこれ用意してきたが、地図を見ても全くもって内陸部である。大昔は湖のことを「うみ」と呼んでいたと古典の授業で聞いた気もするが、そう呼ばれそうなほどに大きな湖まではもう少し距離がある。

「おーい、潔。どこが海だって……?」

「ほら、魚がいっぱいいる!」

「あ、うん……うん……?」

 普段は梶原と近いノリで騒ぐ岡田も、さすがにノリきれないらしく、中嶌と顔を見合わせていた。

 それもそのはず、そもそも今いるのは屋内なのだ。たしかにいっぱい魚はいるがそれは皆生きている魚ではなくて、どうやら夏休み期間限定の展示物らしい。たしかに淡水魚から深海魚まであらゆる魚がいるにはいるが、テンション高く中を見て回っている梶原に、2人とも置いてけぼりを食っている。

「いや、泳ぐ道具も用意したけど、ここは泳げないだろ?」

「大丈夫です、夏休み対応期間ですから」

 この30分後、にこやかに笑う梶原によって天然のプールに突き落とされることになることを2人はまだ知らない。

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