前のエピソード――Day11 蝶番　（滋野、夜間瀬）

　屋代はこのところ、わらび餅をひたすら作っている。

　幼稚園が夏休みに入ったからと、年の離れた姉が連れて帰ってきた姪がハマっている児童書の中に、ジャムを使ってわらび餅を作るシーンがあり、それがちょうど夏休みの話だったので、本を読んでから半年、これは夏休みになったら絶対やるんだ、と固く誓っていたらしい。そして、姉に連れられて来た我が家に何種類ものジャムが常備されているのを見つけてしまったのだった。

　となれば、この後の流れは予想できるだろう。そう、ここから毎日のわらび餅づくりが始まったのだった。

　毎日のことなので、量は作らないし、材料もまぁ、そこまで凝ったものは用意しなくなった。水と粉とジャムを混ぜたら、電子レンジでチン。ジャムの色に染まっていく過程が色水を作るようで楽しいのと、火を使わないので一緒に作れる工程が多いのも良いらしい。帰ると毎日ジャムを持った姪に迎えられる。

　姪の笑顔、プライスレス。そう思いながら作り続ける心の隅で、なんだか研究室でも家でも似たようなことをやっているなぁ、と半ばぼやいてしまう屋代だった。

（参考文献）

「うどんねこ 2 (どどんと!うどんねこ ; 2)」（スケラッコさく・え，ポプラ社，2024.8刊）

「カラフルわらび餅（ジャムver.)」（岐阜県富加町とみぱん，クックパッド）　https://cookpad.com/jp/recipes/21573745