第2話 大トロか中トロか

 電車が停まったのは快速列車で数駅先。時刻はお昼頃、太陽が燦々と照り付けている。


「あっちー、まだ七月上旬なのによ」

「最近はこんなもんじゃない?」


 まだ人生経験もそう豊富ではないのに、ふふんと胸を張って得意気に月原くんに言うルナ。それを見て文句を言わないところ、夕とは違って大人だ。


 まずはお昼ご飯。何故かお弁当ではなく外食だ。

 有名なお寿司屋さんに行って、幾らでも食べて良いと言われた私たちは言われた通り女子と男子に分けて全てのネタを制覇していく。


 周りの班からは白い目で見られるけど、気にしない。君らの食欲がないだけ、少なくとも私は悪くない。

 注文してるのは主に月原くんだし。


「そういやさ、大トロと中トロどっち派?」


 すごくすごく急に、月原くんがそんなことを聞いてくる。お箸で挟んでいるのは中トロ。でもなんでもう片方の候補が大トロになるのかわからない。


「俺は断然大トロ!」


 そう言いながらも中トロを一口で飲み込む月原くん。


「私もだな〜。満腹感が増すというか」


 いっつもルナは月原くんと意見が一緒だ。そんなルナに少し嫉妬心を抱くこともある。っていうかずっと持ってる。


「私は中トロかな……はっきり言って、大トロは脂っこいし」


 月原くんが大トロ派だからってよく思われたいなんて考えは他所に置き、私は真実を口にする。


「まぁ中トロも美味いけど、美味い大トロってのは噛んだ時にこうじゅわっと……」

「で、七瀬くんは?」


 月原くんの熱血的な解説に被せて、ルナが頬を赤らめながら夕に声をかける。


「俺はどっちも好きだけど……」

「「この邪道があああ!!」」


 よっぽど二股が気に入らないのか、二人は血相を変えて叫ぶ。


「あのな夕、大トロっていうのは脂が乗ってて、噛んだ時のじゅわっと感がたまんないんだよ!」

「それだけじゃなくて、舌に触る時の滑らかさとか……」


 大トロの良さを力説中の二人。


「はーい、みんな大トロと中トロ、どっちが好きですかー!」


 いつの間にか入口近くに移動している二人。もううちの学校だけじゃなく先輩たちも巻き込んでしまっている。


「大トロ派の人〜!」


 こちらで店内の大多数の人が手を挙げる。


「じゃあ中トロ派の人っ!」

「……」


 私と夕しか挙げなかった手。

 他の人の視線は、私たちに注がれていた。


 私は、下を向いていた顔をあげる。長年の付き合いである夕は、既に逃げ出していた。


「——中トロが一番っ、美味いんだよ!!」

「ひ、ひぃぃぃ……」


 今までに出したことのない声量を出す。

 このあと約一ヶ月ほど、学年でガチギレさせちゃいけない人ランキング一位に輝いていたらしい。

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