今日の月にしか願えないこと。

こよい はるか @PLEC所属

プロローグ

「えっ、ゆうが同じ班っ⁉︎」


 くじの紙を見せてきた私の幼馴染——七瀬夕は、私のその言葉を聞いて顔をしかめる。

 今は、校外学習の自由行動の班を決めている。


「なんだよ、そんなに嫌かよ」


 そう私に……神田かんだ叶愛とあに言ってる夕だって、多分嫌がってるはずだ。


 夕はいっつも顰めっ面で感情が読み取れないけど、幼馴染である私は感情を見抜くことができる。

 せっかく顔が良いのに、眉根ばっかり寄せていたら意味がない。


 そんなこんな、夕と愚痴を言い合っていると、もう一人同じ番号のくじを持った女子が、高いポニーテールを弾ませて笑顔でやってきた。


「叶愛〜! 一緒だよ!」

「ほんと? めっちゃ嬉しい!」


 私は先ほどの敵意剥き出しモードではなくなり、全開の笑顔で彼女を迎えた。


 周りに明るさを撒き散らす彼女の名前は、姫野ルナ。ルナのお陰で私もいつも楽しく過ごさせてもらっている。

 そんなルナが、頬を赤らめながらこそっと耳打ちしてきた。


「もしや、七瀬くんも同じ……?」


 そう、ルナはれっきとした恋する乙女なのです!


「そうだよ」

「やったー!」

「私は嫌だけどね」


 小声で喜ぶルナと、ぽろっと本音をこぼす私。

 ルナより大きな声を出してしまったようで、夕にじとっと睨まれた。


 校外学習の班は四人班。

 最後の一人は——。


「よろしくな、神田!」


 後ろからトンと肩を叩かれて、飛び上がる。

 この喋り方と距離感。いつもの背後からの接近。


 ——もしや。


「月原くん?」


 そう呼びながら振り向いた私の予想は、的中した。


 日に焼けた肌、白い歯。整った顔。イケメンと騒がれる月原流星くん。恐らく私の赤くなっているであろう顔を覗き込むように、彼は野球部らしい高い背を屈めた。


「そう。同じ班」


 ひらひらと揺らしたそのくじには、私と同じ番号。


 え、親友とその好きな人と、私の好きな人で……班?


 ——夢が叶いすぎるのにも程があるでしょ。

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