第7話 ちゅ〜ると冥土猫便と
猫神様 7話 ちゅ〜ると冥土猫便と
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下僕が出かけてすぐ、アイツらはやってきた。
サビ猫のアズキ、スコティッシュのマル、そして、パンダ。
3猫1組で行動するコイツらは冥土猫便という。
猫生を終えたヤツを閻猫魔様のところに連れて行ったり(死後の案内猫ってヤツだ)、俺みたいに、その、あれだ、ちょっと事情があってコッチにいる猫神仕えに、
大猫神様からの言付けを伝えに来たりする。
「先〜輩〜、お久しぶりですぅ。」
「……、っパンダ!
お前、冥土猫便やってんのかよ?!」
「はい〜、先輩がお仕置っ、
じゃなくて、
修行に出てから、少〜ししてから任命されました。」
俺がこんな目に遭う原因になったコイツが、冥土猫便だと?
なんでだよ!
大猫神様の采配に混乱していると、アズキとマルが追い討ちをかけてくる。
「あの、とても言いづらいのですが。」
「その、あの。」
しどろもどろのマルを押し除けてアズキが言う。
「シロいの、お前、今のままじゃ戻れないからな。」
なんだと?!
「おれの最近の努力をしらないのか?
下僕は俺を撫でるし、俺がいることに喜びを感じているはずだぞ?」
俺の言葉を聞いて、パンダもマルもアズキも、そしてクロまでもが顔を見合わせて大きなため息をつく。
「先〜輩〜、いいですか?
“下僕”と思っている時点で不合格で〜す。
信頼関係って言葉から勉強してください〜。」
なんだと?
だって人間は下僕じゃないのか?!
意味がわからない。
パンダが差し出す手紙を開けると、
白い便箋に
第一回 査定結果
✖️ 不合格
と書いてある。
俺は慌ててテレビ台の裏に隠していた、ちゅ〜るを取り出し、冥土猫便の奴らに渡す。
「俺の宝物だ。
仕方ないからお前らにやる。
だから、その、うまく言ってくれないか?」
1本のちゅ〜るを見つめる瞳から輝きが消え、視線が背後に映っていく。
振り返ると、クロが得意げに笑っていた。
手元にはちゅ〜る40本入り、?!
なんでアイツがそんなもの持ってんだ??
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「これ、大猫神に持っていってくれるかな?
もちろん、君たちも食べてね。」
「いいんですか?
ありがとうございます。」
「クロさんのことは、大猫神様から聞〜いてます。
今回はご面倒〜おかけして、申し訳ないで〜す。」
「クロさんも災難っすよね、お疲れ様です。」
3猫たちはシロなんか目に入っていないみたいだ。
背中に痛いくらいの視線を感じる。
「いや、ボクも今幸せに暮らしてるし、“シロくん”も彼なりに頑張ってるみたいだから、ね。
うまく伝えてあげてよ。」
「ク、クロさ〜ん、
なんて懐が深〜い。」
「それに比べて……。」
「仕方ないよ、彼はまだこっちに来て間もないし、
次までにボクが色々教えておくから。」
チラリとシロを見ると、今にも襲いかかってきそうな殺気を放っている。
やれやれ、冥土猫便が3猫1組で行動してるってわかってるはずなのに、ちゅ〜る1本とは。
ヒトミちゃんは大雑把なところがある。
買い置きがなくなっていても、“買い忘れ”ですませてしまうだろう。
ヒトミちゃんには申し訳ないけど、3日前、ボクたち用のあれこれがしまってある棚から拝借しておいたんだ。
ジャンに土産でも持たせてやれば、
ボクとヒトミちゃんの暮らしは穏やかに続くはずだからね。
「クロさんはいい〜んですかぁ?
クロさんレベルな〜ら、いつでも大猫神様にもなれるのにぃ?」
「ボクはいいんだよ。
このほうが幸せだから。」
シロが信じられない、という目をしている。
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今日はいい買い物が出来た。
仕事帰りに立ち寄ったペットグッズのお店で、白猫と黒猫のマークが入った器を見つけたのだ。
「やだ、うちの子たちにピッタリ♡」
と思って即買いしてしまった。
ワクワクした気持ちで玄関を開ける。
「ただいま〜、クロシロ〜、
あれ?」
最近はいつもカーペットの上で寄り添っているのに。
今日はクロが定位置に。
シロは飾り棚な上に居る。
「ケンカしたの?クロ?」
クロはきょとん、とした顔で
「にゃおん。」
と鳴いた。
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ク、クロが大猫神様になれるレベルだって?
ていうか、パンダのヤツまで出世??
3猫のヤツらもクロに尊敬の目を向けてたぞ?
俺のことは……。
な、ん、で、だ、よ。
俺は精一杯やってるのに。
大体、あの大量のちゅ〜る。
いつの間に用意したんだ?
認めたくない。
認めたくないが、アイツには敵わないかもしれない。
俺だって大猫神様から、“あの人の子孫だよ”って言われたから、この下僕のところに来たんだ。
それなのに、コイツは全然あの人に似てないし、俺は人間なんか嫌いだし。
なんでクロはあんなに人間が好きなんだ?
もう何が何だか、どうしたらいいのかわからない。
悔しい。認めたくない。けど…。
俺、詰んでる。
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