【第3章:彼女の背中】

洋子はいつも通りだった。

明るく、誰とでも分け隔てなく話す。

先生からの信頼も厚く、女子の中心にいて、男子からの人気も高かった。


けれど、直樹にはわかっていた。


彼女が「何か」を隠していることに。


笑顔が少しだけ硬い。

ふとした時に見せる沈んだ視線。


(俺は知っているんだ。あの日、彼女が——)


だが、それを口にすることはできなかった。

「未来から来た」などと言えば、ただの嘘つきで終わる。


だからこそ、今の彼女に触れたかった。

心の奥にある痛みに、手を差し伸べたかった。


その日の放課後、直樹は洋子に声をかけた。


「なあ、帰り道……ちょっとだけ、一緒に歩かない?」


洋子は、少しだけ驚いた顔をして——笑った。


「うん。いいよ」


その一歩が、始まりだった。


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